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「#幼馴染」のBL小説を読む
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舞い降りた雪(G)1

「当たってはない……けど……」

震えているのは、今のボールのせいなのか、それとも一瞬コイツにまとわりついて見えた紫の禍々しいオーラのせいか……。

「なら良かった。驚かせてすまなかったな」

ボールを拾い、少年の肩についた木の葉を払おうと指で触れると、ビクッと身を竦められて思わず手を引く。

「おい。本当に大丈夫なのか?」
「ダ…メ……」

「……?」

「あんまり……しゃべらないで……」

涙で潤んだ目に見上げられて、ドキリとする。
そして、続く言葉に耳を疑った。
「君の声が、僕の身体にきゅんきゅん響くんだ」
なんて言うから―――。



「……少しは収まったか?」

海辺まで下った洞窟のなか。
素足を海に浸してゴツゴツした岩に二人並んで腰掛け、俺は隣の華奢な少年に小声で訊ねる。
発した声が相手の身体に響かないように極力気をつかいながら……

「……」
頬を赤らめ涙を浮かべて俯いたまま、相手は黙って首を横に振る。
名前は何ていうんだろう……?

「俺は……豪炎寺修也。お前は?」
「っ……」
しまった。響いたか?
相手は震える自分の二の腕を抱きしめながら「ふぶき…しろう」と小さく呟く。

「綺麗な名前だな」
白い雪が激しく空を舞うイメージが俺の脳裏をよぎった。

身体が熱い……と訴える吹雪が涼める場所を探してここへきた。
首に巻いた分厚いマフラーを「取ったらどうだ?」と訊けば「ダメだよ!」とピシャリと拒まれる。

俺は俺で、コイツの過敏な反応に妙にそそられて、燃え上がる欲情を食い止めるのに苦労していた。
とにかく落ち着け―――。
そう自分に言い聞かせながら、深く呼吸する。
疚しい方に向かってはいけない。
相手は俺よりかなり幼くみえる……それも男だ。

「はぁあ……」
いくばくもなく吹雪の悩ましげなめ息が、沈黙を破った。
「やっぱり……もっと聞きたいよ」

「はあ?」

「君の声……きもちいい」
吹雪は擦り寄るように俺の胸に凭れてぽつりと呟いた。
「僕のなかに……響かせて……」

煽られた俺は吹雪に向き直り、抱きしめて思わず額に唇を押し当てる。
「あ……それ……いい……もっとして……」
吹雪は甘く悶えるように身じろぎし、顔を近づけて懇願するから堪らない。

「キス……したい。お前いくつだ?」
「中…2」

「なんだ……同じ……か」

意外だった。
たしかに雷門のユニフォームを着てるから、キャラバンに参加してるメンバーであることは察しがついていたが、てっきり下級生だと………

「ん……」

唇を重ねると、吹雪は一瞬身体を震わせたが、背中に回した手がしがみつくようにシャツを固く握リ、たどたどしく応えてくる。

「……お前……誘ってるのか?」

ようやく離した唇を吹雪の耳元に寄せて訊くと、恥ずかしそうに身を竦めるが、ユニフォームのシャツの下に這わせていく俺の手を拒む気はないらしい。

「ん……はぁ………」
上着を捲り上げられ露わになった胸元に顔を埋め、粟立つ繊細な肌の反応を確かめるたび、俺の身体が焦げるような渇望を訴えた。

「いい…よ……下ろして」
無意識に吹雪のズボンにかけた手に、せかすように手がひんやりと重なる。

「いや、ここじゃ無理だ」

「じゃあ……できるとこに……連れてって」

その時、引き下ろす寸前で思いとどまったズボンから、何かが滑り落ちた―――


「…………これは何だ?」

引いてきた潮の砂上に埋もれた紫の石。
俺はそれを拾い上げ、鋭い口調で訊く。
この石が纏う禍々しいパワーに、離脱前の俺は何度か触れたことがある。
あのエイリア学園と対戦した時だ。

「…………」
吹雪は悪びれる様子もなく、服を乱したままとろけた視線で俺を見返している。

「お前はキャラバンのメンバーじゃないのか?」

「……キャラバン……」
吹雪はふと我に返ったように、繰り返した。
「そうだ……ぼく……」

吹雪が岩から立ち上がる。
風もないのに、マフラーがひらひらと巻き上がるように揺れる……

『返せよ、それ』

吹雪の声色や口調が変わっている。
目の奥に閃く色もだ。
俺は吹雪を真っ直ぐ見据えたまま、鎖の切れたペンダントを渡した。

「……じゃあな」
俺の手からペンダントを取りあげた吹雪はそのまま背を向け、砂浜を歩いていく―――マフラーを靡かせた背中は歩き方もまるで別人だった。

「吹雪。本当に、行くのか?」

洞窟から出て呼びかける俺の声に、吹雪の白い素足がぴたりと止まる。

「俺のところで、続きをするんじゃなかったのか」

返事はない。
だが、華奢な肩が震えだすのがありありとわかる。

やがてくるりと振り向いて、弾かれたようにこっちへ駆け戻ってきた吹雪は―――俺の胸に額を押し当てて切なげな声を押し出した。

「やっぱ……君と………つづき……したい」

俯いてるから表情はわからないが、鼻にかかった甘い口調はたしかに俺と抱きあいキスしたときの吹雪に戻ってた。

もう逃がすまい、と俺は吹雪を強く抱きしめる。

新雪に踏み込んだみたいに、清らかな空気を纏った身体がやわらかく軋んだ。



 

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→jikken

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