×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

あやしい実験(F)2

「あっ、発情反応が!」
「来たな。やっぱりこの種が適合か」

荒くなる息を隠せないまま、僕は顎を掴まれ正面を向かされる。

「さあ吹雪くん、口を開けなさい」

「え……何……?」

「経口S液だ。美味くはないが飲みなさい」

『ケーコーエスエキ』と言われてもピンとこなかったけれど、点滴することになるのが嫌で、口に差しこまれたチューブの先端を仕方なくくわえる。

トロリ………

チューブの先から苦味のある独特の風味の液体が送り込まれて、その濃密さに思わず身震いする。
生々しい温度と匂いがヒトの体液を想像させて、背筋がぞくりとするけれど、嫌悪感とは少し違ってて……。

「さあ、飲むんだ。飲めたら今日の実験は終わりだぞ」
「ん…………ゴクン」
僕は口に溜まったそれを、むせそうになりながらもごくりと呑みこんだ。
実験は終わり……という言葉に思わずつられたのだ。

「へへ、なんか卑猥ですねぇ」
「くだらない茶々入れるな。受胎がうまくいくように、コンセプターを楽にさせておけ」

目隠しと拘束を外された僕は、ニヤつく緑の男のサングラス越しの視線が自分の口元で止まってるのに気づいて、慌てて手で拭う。
『ヒワイ』と言われたのは僕の口の端から垂らしてた白濁液のことに違いない。
『ジュタイ』が受胎のことを指してたなんて、この時は夢にも思わなかったけれど……。


それから数日間、毎朝同じことが繰り返された。

椅子に縛られて、へんな刺激を脳に送られ発情させられながら、ケーコーエスエキを飲む行為だ。

ケーコーエスエキが『口から飲む人工精液』だということは少し後になってから知った。
発情した身体にそれを吸収させると、精子が体内のオーラと結合して新たな個体が誕生するのだという。

僕は“コンセプター”と呼ばれ“適合種”という自分に合う特定の雄の種を体内に受け入れて、新たな生命をうみだす役割らしい。

新たな生命―――といっても、体内にオーラを宿して育てるもので、妊娠や出産とは違うようだ。

もっと詳しく言えば、彼らが未来から入手した“ミキシマックス”という一過性のオーラ結合技術が元ネタらしい。
それをアレンジして、二体のオーラを併せ持つ個体をコンセプターの身体から生み出す技術を試そうというのが彼らの実験だった。


僕の“適合種”って、誰なんだろう―――?

実験が始まってから一週間ほどが過ぎた頃、病室のような部屋に移された僕は、出入りする看護師に自分の“適合種”が誰なのかを訊ねてみた。
僕の中に新しい生命を注ぐ相手くらい知りたいと思ったのだ。

「あ〜ら、誰だと思う?」
緑色の肌をした看護師の女性は、太い唇の端を緩めて冷やかすような口調で聞き返してくる。

「僕の……知ってる人ですか?」
「たぶんね。少年サッカーをやってれば知らない人はいないでしょ……炎のストライカー、といえば」

「あ……豪炎寺…修也くん?」

僕は顔も知らない彼の名前を呟いた。
イナズマキャラバンのメンバーから何度も聞いている名前だ。

「そう、当たりよ」

その看護師さんによると、全国……いや全世界の少年サッカー名選手のオーラのサンプルを僕の身体に流してみたけれど、どれも反応しなかったらしい。

「あなたのオーラは雪原の氷。そこに融合する唯一の相手が、炎のストライカーだなんて……なんだかロマンチックよねぇ」

「…………」

僕は答えずに、真っ赤になって熱い頬を冷まそうと、ベッドで上体を起こして窓の外を向いた。

そこからはグラウンドが見えて、別の実験プログラムを実行しているエイリア学園の子たちがサッカーの訓練をしていた。

僕は北海道の山奥の町で生まれ育って……サッカーするのは大好きだったけど他校の情報にはてんで興味がなかった。ウインタースポーツにも夢中で、それどころじゃなかったっていうか……

今回のキャラバンで故郷を出て、豪炎寺修也くんのこと『知らない』なんて言うと、みんなに冗談だろって笑われてしまって。それ以上誰にも聞けずじまいで……僕は彼のこと、顔さえも知らないままだった。

でも今……僕は毎日脳に送られる彼のオーラに身体を発情させながら、苦もなく彼仕様のS液を飲み干して、僕のなかに新たな生命が宿ってくれるのを待っている。

もちろん、オーラも液も人工のものだったけれど―――僕はそこから彼自身を受け取めてる気になっていて―――心身ともにこの研究機関の行う“実験”に洗脳されつつあったのかもしれない。


そしてさらに一週間がたった。
ある朝、ひとりで食事している僕のところへ、キラエージェントのリーダーが久しぶりに現れて、突然僕に告げた。

「計画は失敗だ。君には……このプロジェクトから外れてもらう」

「……えっ……」

「君の体内では、適合種の精子がうまく結合しないようだ。これだけ続けてダメなら……受胎を諦めるしかない」

「諦める……って?」

「今日から君はコンセプターになるのをやめ、エイリア石を身につけてサッカーの訓練に参加してもらうということだ」

「っ……」
やっぱり僕は洗脳されてるのかもしれない。
まるでパブロフの犬みたいになっていた。
「やだ……よ」
朝起きて食事を済ませると、もう僕の身体が彼のオーラ欲しがりS液を飲みたがっている。

「やめたくない…です。いつものあれ……ください」
僕は、声を震わせてお願いした。



 

clap

→jikken

top



_____