隠し子疑惑


鬼灯さんから天国への書類を預かって来たはいいものの、何かがおかしい。
普段天国には行くなと言い、勝手に行ったらすごく怒るくせに今回はなぜだ。
護衛をつけるとか言って座敷童子たち二人と桃の並木を歩いていれば、二人は兎を追いかけたり勝手に桃を取ってしまったり。
二人を大人しくさせるために手を繋げば、ようやく極楽満月にたどり着いた。
ガラリとドアを開ければいつもの二人がいた。

「名前ちゃんいらっしゃい!!」

パッと顔を上げる店主の白澤さん。こっちに向かってきたからどう返り討ちにしてやろうかと考えていれば、それより先に座敷童子が動いた。
二人で白澤さんを蹴飛ばし殴っている。あれ…これ絶対鬼灯さんの仕込みだな。

「ちょっ…痛い!って座敷童子!?この間追い出したのもしかして根に持ってる!?」
「この間?」
「あれ、名前さん知らないんですか?」

首を傾げれば桃太郎さんが説明してくれた。引越し騒ぎねぇ…それは大変だ。
まだ叩き続けているのを止めれば、二人はピタリと私にくっついた。
白澤さんはボロボロだ。なんてやんちゃな子供たちなんだ、恐ろしい。
やれやれ…と立ち上がる白澤さんに座敷童子は言う。

「お母さんに手を出すな」
「近づくなすけこまし」

二人はその言葉にすっかり驚いてしまっている。もしかしてこれも仕込みかな。
桃太郎さんなんて「やっぱり…」と呟いているし、白澤さんは細い目を大きくして言葉を失くしている。
もしかして鬼灯さん、誤解を植えつけるために私を天国に寄越したのだろうか。

「その…やっぱり鬼灯さんと名前さんの子供だったんですね。鬼灯さんに表情とかそっくりですし」
「いや、違うよね!?いくらなんでも大きすぎるし…まさか肉体関係が先だったの!?愛がないうちから孕まされた!?」
「ちょっと落ち着いてください!」

白澤さんの発言やめてほしい。肉体関係が先って言うのはあながち間違ってない気がするけれども…。いやいや、とにかく誤解を解かなくては。
本当に座敷童子ですからと言っても、座敷童子が私をお母さんと呼んで聞かないし、挙句の果てには鬼灯さんのことまでほのめかす。

「お母さん、早くお父さんのところ帰ろう」
「お父さんがすけこまし殴って帰ってこいって言ってた」
「二人は少し黙っててくれないかな?ね?おやつ買ってあげるから」

お願いだから頼むよ。すごく面倒だよ…あの上司め。
今頃心の中でほくそ笑んでいるであろうあの顔を思い出すと久々に腹が立ってくる…!
私と座敷童子のやりとりに、ようやく「おかしい」と思い始めた白澤さんはどうやら納得したようだ。
桃太郎さんはまだ疑惑の視線だが、そこはあとで白澤さんが何とかしてくれるだろう。

「では、これで…」

仕事をやって店を後にすれば、後ろから「やっぱり二人の子供ですよ」という桃太郎さんの声が聞こえて、「やっぱりかぁぁぁ!!」と叫ぶ声が聞こえた。
ダメだこれ、完全に誤解された。



閻魔殿に戻って鬼灯さんに書類を渡せば、不機嫌な私に気がついてくれた。
「どうしました?」なんてわざとらしく聞いてくるのがイライラする。

「どうして座敷童子たちを使うんですか。いくらなんでも酷いです」
「そうですか?割と楽しそうに見えますが」

すっかり私になついた座敷童子は、私が買ってあげたお菓子やおもちゃを持って楽しそうに遊んでいる。
いやだって、この子たちは可愛いしお菓子買ってあげたくなっちゃうし…。けれども「お母さん」呼びは勘弁して欲しい。

「大丈夫ですよ。天国に限りですから」
「それも嫌ですよ…」

恥ずかしいし、本当に鬼灯さんがお父さんで、私がお母さんって気分になっちゃうから。そんなことは口が裂けても言えない。
黙ってしまった私に悪いと思ったのか、鬼灯さんは書類を差し出してきた。
そうだ、仕事しよう。天国だけならここにいるうちは安心だし。
受け取った書類には婚姻届と書かれていた。

「全然安心できない!!」

丸めたそれを上司の顔にぶつけてやりました。

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