隠し子疑惑
閻魔殿に帰って閻魔大王がまず言うのは、思った通りこの子達のことだ。
座敷童子の二人を見て「君らに子供いたの!?」だ。いるわけないだろアホ大王め。
鬼灯さんは初めこそ面白がって「そうなんですよ」と言っていたが、ちゃんと説明してくれて助かった。そこまで頭がおかしいわけではなかったようだ。
「名前、今失礼なこと思い浮かべましたね」
「なんのことですか」
ギロリと睨まれたから考えるのもやめておこう。
座敷童子は広い閻魔殿に興味津々で、ひとしきり駆け回ったあとは私たちにぴったりだ。
お母さん呼びもお父さん呼びもやめてくれて、私の心臓は何とか助かっている。
「それにしても、鬼灯さんが子供連れててびっくりしましたよ」
「そうですか?遊び道具がなかったので買い物に。拷問道具ならたくさんあるのですが」
「そう思うと教育に悪くないですか?ここ」
二人は妖怪だからいいのか…。描いている絵を見てみればホラーで怖い。せめて明るい色で塗ったらどうだろうか。
画用紙とクレヨンを渡されて犬やウサギを描いていれば、二人はじっとそれを見つめて、その姿はなんとも可愛らしい。
「名前さん絵上手いね」
「上手いって…子供の落書き程度だけど」
「私のはどう?」
「…怖い」
口裂け女かなそれは。一子ちゃんの絵の感想を言えば、二子ちゃんも自分のはと聞いてくる。もれなく怖いよ。
私のふわふわしたデフォルメキャラクターたちがすごく可愛く見える。
あれよこれよと言いながら絵を描いていれば、鬼灯さんが私を呼んだ。そうだ、仕事中だった。
「すみません、つい」
「いえ、楽しそうなのでいいのですが…これにサインお願いします」
「はい」
と貰った書類は見覚えのないもので、いつもの書類とはどこか違う。
えっと…鬼灯さんのサインが書いてあるのはいいとして…どうして住所まで。なになに、「夫になる人」「妻になる人」……。
よく見てみれば紙には「婚姻届」と書かれていて、鬼灯さんは私が書くのを待っている。
「鬼灯さん、これ何ですか!別の書類と間違ってますよ!」
「間違ってませんよ。あなたたちが遊んでいる姿を見ていたら早く結婚したいなと思って。家族ってこんな感じなんですかね」
「…まぁ、そうかもしれないですけど……」
鬼灯さんの一瞬の表情に気がついた自分が嫌になる。どうして少し寂しそうな顔をして言うんだ。
そういえば鬼灯さんは子供の頃一人だったんだっけ。気がついてつい同情したくなる。
結婚結婚と言っているのは、家族が欲しいからなのかな。
「二人ともいい調子です。このまま行けば名前が名前を書いてくれますよ」
少しだけ心が揺れていたというのに、そんな小さな声に我に返る。
そうだ、鬼灯さんは手段を選ばない人だった。とてつもなく性根の悪い闇鬼神だったよ。
くしゃりとその書類を握り潰せばゴミ箱へ放り投げた。
「何も捨てることないでしょう」
「危うく罠に引っかかるところでした」
「大人しく引っかかってくれると助かるんですがねぇ」
子供たちを使うなんて卑怯な奴だ。気を取り直して仕事に戻れば、座敷童子は気になるようで覗いてきた。
楽しいのかな。そういえば座敷童子って商家に住み着く妖怪だっけ。閻魔殿に効果はあるのだろうか。あるなら真面目に働かなきゃいけないなぁ。このじーっと見てるのは見極めてるってことなのか…。
鬼灯さんと同じ怖さがあって不気味だ。そしてなぜ鬼灯さんまでこっちを見ている。
「こっち見ないでください。三人同じ視線で怖いです」
「微笑ましいと思って」
ふ、と口元を緩めた鬼灯さんにドキリとした。何今の顔。そんな表情知らないんだけど…。
そのまま何食わぬ顔で手元の書類を眺める鬼灯さんに、今度は私が釘付けになる。
それきり動かなくなった私に、座敷童子は不思議そうに首を傾げていた。
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