積極的過ぎて


鬼灯さんの積極的過ぎる言葉を聞いて仕事も手につかなくなり食堂で堂々とサボる。
テレビをつければ見計らったように結婚特集なるものがやっていて、心を紛らわせるために来たのにこれじゃあ逆効果だ。
ぷつりとテレビを消し、お茶を啜って机にうなだれていればお香さんがやってきた。

「休憩中?」
「今日は残業です」
「あら…」

それで私がサボり中だというのはわかっただろう。お香さんは向かいに座ると、放り投げていたリモコンでテレビをつけた。
ドレス派と白無垢派の意見なんかやっちゃって…私はやっぱり白無垢…いや、どっちも着てみたい……じゃなくて!
チャンネルを変えねばと手を伸ばしてみたけど、お香さんはそれに食いついてしまった。

「結婚、いいわねぇ…」
「お香さん結婚願望あるんですか?」
「子供の頃からお嫁さんは憧れなの」

照れたように笑う姿が綺麗過ぎて直視できない。お嫁さんだなんてかわいい…。
それでも今まで結婚していない理由はいろいろあるらしいが、私が思うにきっとお香さんの趣味が原因だ。あの蛇の数を見て引かない男性がいたら、それはもうお似合いとしかいえない。お香さんもわかってるのか苦笑するだけだった。
そして私に振られるのだ。それが嫌だったのに、どうして逃げられなかったんだ…!

「名前ちゃんはもう相手がいるものね」

悪戯っぽく微笑むその笑顔が小悪魔に見えてくる。お香さんも意地悪なことを…無意識なんだろうなきっと!
さっきのやり取りを思い出して思わず言葉に詰まる。ああもう、あの上司が変なこと言うから…!
お香さんは否定しない私にきっと誤解し始めてる。どうしてこっちでも結婚話なんだ。どいつもこいつも早すぎやしないですかね。

「…さっき言われたんですよ。いくらなんでもまだ考えられないです」
「鬼灯様も積極的ねぇ。付き合って一ヶ月くらいかしら?」
「そうです。話を出すにはまだ早いと思いません?」
「ふふ、そうね」

お香さんは上品に笑うと微笑ましそうに私を見つめる。だからその視線は大王と同じ保護者目線…。
つい「なんですか」と口を尖らせれば、お香さんはまた微笑んだ。

「"まだ"ってことは、それ自体が嫌なわけじゃないんだと思って。それに名前ちゃん、少し嬉しそうよ?」
「な、なんですかそれ……」

今のは言葉の綾だ。別にそういう意味で言ったわけじゃない。
それに嬉しそうってどういうことだ。あんなのただの迷惑なのに、嬉しいわけない。
私のことを困らせてからかって遊んでいるのに、何を真面目に…。
指摘されても全然わからない。でもお香さんがそう言うってことは…いやいや、お香さんもたまに変なこと言うし。

「変なこと言わないでください!」

余計に悶々としてしまう。この間のデートも相まって何も考えられなくなる。
この追い詰められる戦法、どこかで体験したような気がして席を立った。
嬉しそうだと言われた顔をきゅっと引き締めれば、下駄の音を鳴らしながら食堂を出る。
どこかで期待してる自分が嫌で嫌で仕方ない。

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