たまには停戦


隣の部屋をノックする。一呼吸置いて鬼灯さんは相手も確認せずにドアを開けた。
私が来るってこと絶対見抜いてたなこれは。顔を出した鬼灯さんを見上げれば、私の格好に少しだけ驚いていた。

「着ましたよ。これでいいですか」

素直に着てきましたなんて言えるはずもなく、これでいいでしょう?なんて上から目線で押しかけた。
本当はいつもの化粧だって変えたくて、お気に入りの紅を差していつもより雰囲気は変わってるはず。
鬼灯さんはしばらく私を見つめると無言のまま部屋に入れてくれた。

「袴も似合いますが、やはり着物は綺麗ですね」
「違いますか?」
「ええ。こっちの方がおしとやかに見える」
「…言うと思った」

どうせ私は男勝りなうるさい女ですよ。ふん、といじけていれば鬼灯さんは「冗談です」と私の頭に手を伸ばした。
いつもならその手を叩き落としているところだけど、ここで私が手を出したら今までのが台無しになる。
恥ずかしさを我慢しながら受け入れれば、鬼灯さんはベッドに腰掛けた。ソファもない部屋だから座るといえばここになる。
何を意識してるのか戸惑っていれば、ぴたりと隣に座らせられる。そしてさらに私を引き寄せた。

「たまにはこういうのもいいですね。ゆっくり名前とくつろぎたい」

それは本音なのか冗談なのか。普段酷いことしてくるくせにこういうときだけそうやって…。
そんなこと言われたら首を横に振ることなんてできない。
肯定も否定もせずに妙に緊張する体をどうしていいかわからない。これは…私も寄りかかればいいのかな。

「何を緊張してるんですか。くつろぎたいと言ったのに」
「緊張なんかしてません」
「そうですか?変なことでも想像しているのかと」
「してませんよ。鬼灯さんじゃあるまいし」
「おや、よくわかりましたね」

耳元で喋らないでほしい。ゾワゾワするし低音が鼓膜によく響く。
鬼灯さんはふ、と笑えば腰に手を回した。その手つきがもうなんだか怪しい。それでも鬼灯さんは手を出してこないでただ私を抱きしめている。
本当に何を考えているのかわからない。
でも、何もせずにただ身を寄せ合うのも、たまにはいいかな…なんて。

鬼灯さんは私が折れるのを待っている。いつもはとことん押してくるくせに引いて、私が追ってくるのを待っている。
私がわざわざ着替えたことも、鬼灯さんの部屋にやってきたのも全部想定済みなんだ。
そう思うと悔しいけど、今日は仕方なく胸に仕舞っておこう。
すっかり鬼灯さんのペースになって私の心は鬼灯さんが握っているようなものだ。
温かさに思わず欠伸が漏れる。そのまま鬼灯さんに少しだけ体を預けた。

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