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3

マヒロに手を引かれて、タクシーで家に帰った。
 タクシーの中で、マヒロは『タカホは新薬の研究をあの研究所に依頼している日本の大金持ちの家の末息子で、今回は研究所の視察の為に日本から来た』と教えてもらった。
 タカホが大金持ちのお坊ちゃまだったなんて…ビックリ。
 そんなVIPなら、もうこれっきりかと思ったけど…タカホは『また会おうね!』と連絡先を教えてくれた。
 そして『俺から所長に連絡して視察は明日に延ばすから、今日はちゃんとエドと話し合いなさい!』とマヒロに言って…呼びに来た背の高い男の人(タカホは『トオル』と呼んでいた)と、帰って行った。
「…エド。」
 声を掛けられて、ハッと顔を上げる。気付けば僕は、家のリビングにいた。ぼーっとしている間に、マヒロが手を引いて連れて来てくれたみたいだ。
 僕をソファに座らせると、マヒロはどこか気まずそうな、ばつの悪そうな顔をして。
「…さっきは悪かった。せっかく持って来てくれたのに、あんな言い方をして。」
「…マヒロ…。」
 繋いだ手を、ぎゅっと握る。
 …ちゃんと、話をしなくちゃ。タカホに言われた。恋人同士なんだから、ちゃんと気持ちを伝え合えるはず。
「…マヒロは何で、あんなに怒ったの…?」
 確かに余計な事だったかも知れない。無駄な事だったのかも知れない。だけど、あんなに怒る事なかったんじゃないかな。
 そんな気持ちで、じっとマヒロを見上げると。
「…心配だったんだ。」
 マヒロは僕を、ぎゅうっと抱きしめて。
「自覚してないみたいだけど、本当に綺麗で可愛いから。この研究所に来るまでの道は危ない地域も多いし、物騒な事件も多い。一人で出歩いて何か事件にでも巻き込まれたら…と思うと、心配で。どうしても怒りが抑え切れなかった。」
「そんな…!!…僕だって一応、この地域の孤児院で育ったんだよ?自分の身くらい自分で…」
「最初に出会った時の事を思い出しちゃうんだよ、どうしても。」
「あ…。」
 確かに、僕とマヒロが出会ったのは…僕がボロボロの状態の時だった。
 孤児院の先生に襲われて、身も心もボロボロで…。
「もう二度と、エドをあんな目に遭わせたくない。だからタクシーじゃなくて電車で来たって聞いて、動揺したんだ。」
 ぎゅうっと、腕の力が強くなる。
「俺が書類をシュレッダーにかけ忘れたせいで、エドを危険な目に遭わせる可能性のある行動をさせたのかって…あれはエドに怒ったんじゃないんだ、自分に対して怒っていたのを、エドに八つ当たりしただけなんだ。ごめん。」
 真剣な声。少しずつ溶けていく、僕の不安。
「…じゃあ…マヒロが最近、僕に冷たかったのは、何故…?」
「…今…俺の研究が少し、行き詰ってて。突破口がなかなか見出せなかった。なのにスポンサーの九条家の視察が来る事になって。焦ってたんだ。エドに当たり散らすみたいになっちゃって…本当にゴメン。最近エドが歌わなくなった事にも気付いてたのに、自分の事でいっぱいいっぱいで…。さっきエドを探してる最中に、そんな自分を自覚して…猛省した。」
「じゃあ、マヒロは僕に飽きたわけじゃないんだね?僕が嫌になったんじゃ…」
「そんな事あるわけないだろうっ!!…でも、俺の態度がエドにそんな不安を抱かせたんだよな…本当にゴメン…!!」
 マヒロの背中に回した腕に、力を込める。
 ぎゅうっと抱き付いて、ぽろちと涙を零した。
「それに、サンドイッチも。」
「えっ?」
 マヒロの腕がゆるんで、顔を覗きこまれる。
「俺の好きな具がいっぱい入ったサンドイッチ、作って来てくれたのに。追い返そうとして、ごめん。『唐津とランチするから帰れ』なんて…俺、酷い事言ったよな。でも違うんだ。あれは俺の研究について唐津の意見を聞きたかっただけで、特別な意味は何もないんだ。」
「…っ!!マヒロ…っ!!」
「唐津とメアリーにも凄く怒られた。俺の態度は最悪だって。そんなんだから研究も行き詰るんだって。大切な人を大切にできない奴に、良い薬なんて作れないって…俺も、そう思う。ごめん、本当にごめんな。もうこんな悲しい目には遭わせないから、許してくれ。」
 そしてマヒロは、真剣な表情で…僕の目をまっすぐ見つめて。

「愛してる、エド。」

 欲しかった言葉。欲しかった温もり。欲しかった優しい声。欲しかった笑顔。
 ぼろぼろと零れる涙が、止められない。
 だけど公園で一人で泣いていた時とは違う。温かくて嬉しくて流す、幸せな涙。
「マヒロ、マヒロ…!!僕もマヒロを愛してるよ…っ!!マヒロだけ…誰よりも愛してる…!!」
「エド…!!」
 そのまま、何度も何度もキスをした。
 僕は泣いてるから鼻が詰まってて、すぐに苦しくなっちゃって。
 そんな僕に、マヒロが笑ってくれて。軽いキスを、何度も何度も重ねて。ぎゅうって抱き合って。
 …ああ。
 頭の中に、メロディが戻って来た。幸せで温かくて、優しいメロディ。
 明日からは、また聞かせる事ができるだろう。
 マヒロの為だけに奏でる、幸せの歌を。


END

【あとがき】
この度は200万HIT&一周年、おめでとうございます!!
大好きな『はるうらら』さんのキャラクターで小説が書ける!との事でしたので、私が大好きなエドくんのお話を書かせて頂きました(*´艸`)
うちの貴歩くんと絡んでもらいましたが、いかがでしたでしょうか…?
これからも『はるうらら』様に日参させて頂きますねっ!!
鳴瀬



鳴瀬様、ありがとうございました!エド…何て健気ないい子なんでしょう(/_;)野々宮は罰が当たってメアリーに『恋人にあんな言い方するなんてクズね、クズ。』と出社と同時に罵られればいいよ(笑)


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