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『カナリアの幸せ』

「エド!!どうしてお前がここにいるんだ…!!」
 大好きな顔が、怒りに染まってる。
 笑顔で来てくれると思ってたから、僕は…ショックを受けてしまって。
「え…あ…あの…ま、マヒロ…こ、これ、忘れて…。」
 書類の入った封筒と、バスケットを持つ手が震える。
「こんなものの為に!?ここまで一人で!?何を考えてるんだ!!」
 昨日電話で、『明日の午後の会議で使う書類のチェックが終わった』と言っていたマヒロ。
 だけど午前中、部屋のお掃除してたら…マヒロの机の上に、この書類が忘れられたように置いてあった。
 なければマヒロが困るだろうと思って、以前もらったマヒロの名刺に書いてある住所を見て、電車を乗り継いでここまで来た。
 書類の入った封筒と、ランチの入ったバスケットと、お財布と鍵だけを持って。わくわくしながらここまで来たんだ。
 きっとマヒロは、喜んでくれるって。
 来たは良いけど、マヒロがいるのは研究所だから、IDカードを持ってない人は受付までしか入れないと言われて。
 なので受付の優しそうなお姉さんに、電話でマヒロを呼びだしてもらったんだ…けど…。
 呼びだされたマヒロは、焦った様子で出て来て、僕の顔を見るなり…怒鳴って。
「だ、だってマヒロ、昨日の電話で…この書類、今日使うって…!!」
「それはチェック用で、昨日シュレッダーにかけ忘れたものだ!!完全な書類はデータで持って来ている!!余計な事をするな!!」
 …そんな。
「そんな事よりエド、どうやってここまで来たんだ!?ちゃんとタクシーを使ったんだろうな!?」
「…で…電車…で…。」
「何だと!?」
 更に怒る。マヒロ。
 どうして?どうしてそんなに怒るの?
 役に立てると思ったのに。
 『助かったよ、ありがとう』って言ってもらえると思ったのに。
 マヒロに優しく笑ってもらって、僕が作って来たサンドイッチで一緒にランチしようと思ったのに。
「ちょっと、マヒロ?その言い草はないんじゃない?この子はマヒロの為にここまで来てくれたんでしょう?なのに…」
「メアリーは黙っててくれ。これは俺達の問題だ。」
 庇ってくれた受付のお姉さんの言葉も、叩き落すように遮って。
 苛立ったような深い溜息を吐くマヒロに、受付のお姉さんも肩をすくめる。
 どうしよう。マヒロを怒らせてしまった。良かれと思ってやったのに、マヒロが怒った。どうしよう。
 頭がパニックを起こし始める。どうしたら良いのか、全くわからない。
 すると、そこに。

「こんな所で、なにデカい声出してんだ?野々宮。」

 明るい声が、割り込んで来て。
「唐津…!?どうしてここに…!!」
 顔を上げると、そこにいたのは…『あの写真』に写っていたのと、同一人物。
 カラツ。
 マヒロが…好きだった、人。
 僕とは全然違う…何もかもを持っている人。
「…何でお前が、ここに?」
「例の視察の件で、俺も呼ばれたんだよ。この前来た時にやった講義の内容に、むこうが興味示したそうで。」」
「…そうか。確かに興味深い内容だったもんな。」
 さっきとは別人のように柔らかくなった、マヒロの声。
 僕にはわからない、話の内容。
 ズキン、ズキンと胸が痛くなる。
「そんで、ここの研究所の食堂で売ってるベーグルサンドが絶品だった事を思い出してさ。ついでにちょっと早めに来て、野々宮とランチで

もしようかと思ってたんだけど。」
「えっ!?」
 カラツの言葉に、顔を上げる。
 …マヒロと、ランチ…?カラツも…?
 持って来たバスケットが、急に重く感じる。
 マヒロを見ると。
「…そうだな。ランチしながら、少し意見を聞かせてもらいたい部分があるんだが。唐津、良いか?」
「俺はいいけど…。」
 カラツが、ちらっと僕を見た。
 なにかを探るような、そんな視線に…胸の中が焼け焦げるみたいな感覚がした。
 そんな僕に、マヒロはふう、と深い溜息を吐いて。
「助かるよ、唐津。…エド。そういうわけでこの書類は必要ないし、俺はこれから用がある。お前は早く家に帰れ。メアリー、タクシーを呼んでくれ。」
「え…!?」
 信じられない。
 全身が痺れて、身体から力が抜けて…手から書類とバスケットがどさっと落ちた。
「…マヒロ…カラツとランチ、食べるの…?」
「ああ。だからお前は家で良い子にしてるんだ。」
 胸が、ずたずたに引き裂かれたような気がした。
 さっきまで『マヒロに喜んでもらおう』なんて思って膨らんでいた胸が、その期待の分だけずたずたに…。
「こんな大荷物で、何を持って来たんだ?ちゃんと持って帰れ。」
「あ…。」
 マヒロと一緒にランチに食べようと、いっぱい作ったサンドイッチ。
 マヒロに美味しいって言って欲しくて、頑張って作ったんだ。マヒロの好きな具を、たくさん入れて…。
 でもマヒロは、僕じゃなくてカラツと…。
「…ん?待って野々宮、このバスケットって…」
 ガラガラと、頭の中で色々なものが崩れ落ちて行く。
 僕は。
「エド!?」
 そのまま、研究所を飛び出した…。



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