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「ーっ!!」
パシンと高い音が廊下に響く。
僕は…半ば反射的に…その手を叩き落としてしまった。
「てめぇっ」
途端に変わる空気を肌で感じる。
その声を合図に僕は、元来た方へ走り出した。
金庫は重いし荷物もある。
でも捕まる訳に行かない。
「…待てっ」
人が居るのは部活をやっている棟の方だろうか?それとも職員室の方か?
追われながらも頭の中で冷静に校内の地図を描き、自身の位置を割り出す。
その中から最短の通路を使い、職員室のある棟へ出ようと必死に走る。
…あと少し。
そう思った瞬間だった。
「ンの野郎、往生際が悪ィんだよっ」
あと少しで目的の棟に出るというギリギリの場所で、背後から伸びてきた手が僕の上着を掴んだ。
「っ!?」
掴まれた場所が悪かったのか呼吸が出来なくなる。
失速した僕を引き倒した男達が、ニヤニヤ笑いながら囲む。
「それじゃあ貰って…」
「まさかこんな馬鹿居るとは思わなかった。監視カメラあんのに何やってんの?」
無理やり金庫を奪われた時だった。
脳天気とも取れる声が唐突に降ってきた。
見上げると、僕を囲むように立っていた男達の顔色が明らかに悪い。
僕を挟んで男達と対峙しているのは…。
「…え」
それは一度だけ購買に来たあの人だった。
あの時隣に居た人にアツと呼ばれていたのをふと思い出す。
「大丈夫?…つーかお前ら早くそれ返せ」
ナチュラルな動作で手を貸し僕を立たせてくれた彼は、前半は僕に、後半はやたらデカい男達にピシリと言い放った。
「ひっ!」
「うわぁっ」
するとまず最初に金庫を持っていた奴がその場にそれを放り出し、見事な位のうろたえっぷりで逃げ出した。
その、あまりの変わり身の早さに開いた口が塞がらなくなる。
アッサリ逃げていった男達を何気なく見ていると、不意に肩を叩かれた。
「怪我はない?」
あの人が苦笑いを浮かべてそう聞いてきた。
あいつらに引き倒されて少し手を擦りむいただけだ。
「大丈夫です。あの、有り難う御座いました」
礼を告げ頭を下げた。すると彼が頭を横に振る。
「そんなん良いって。たいっちゃんに協力してくれてる兄さんのピンチは助けないとね」
あの、毎日駆けていく子はたいっちゃんと言うらしい。
…それがあの人こと、アツ君との2度目の会話でこの日に漸く彼の口から名前を聞くことが出来た。
年下で真面目ではない彼に惹かれて、想いを打ち明けるのはこの日から数えて3ヶ月後のこと。
エンド
主人公…東 貴之(あずまたかゆき)
購買のおばちゃんの身内でアツ君のいる学校の卒業生で21歳。
元陸上部の為逃げ足は速いけど短距離だったせいか長い距離は苦手。
菜月様、ありがとうございましたー!この度は個々の携帯機種による文字数の制限を把握できておらずご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。
たいっちゃんを影で応援している人がいただなんて、たいっちゃんはきっと必死になりすぎて気付いてないでしょうね(笑)そしてその小さな舞台裏で、同じく小さな恋が始まっていただなんて…。なんというおいしいシチュなんでしょう!
アツ君はチャラそうに見えて実は一途で優しいはず(笑)なので、東君はデロデロに甘やかされちゃうと思います。おいしい(#^艸^#)
そして、勝手なことを、とお叱りを受けるかもしれませんが主人公の設定を載せさせていただきました。
企画のご参加いただきまして本当にありがとうございます!これからもはるうららをどうぞよろしくお願いいたします!
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[mokuji]
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