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購買にて



その子は毎日、沢山のパンを買いにやって来る。


午前最後の授業が終わり、食堂や購買は徐々に賑やかさを増していく。


そんな中、今日も小柄な生徒が必死に走って来るのが見えた。

周りの生徒や教師も彼の必死さにさり気なく前を譲る。それに彼が気付いているのかは解らないけれど。


「有り難う御座いました。…頑張って」


いつもの言葉と共にパン代を貰い、袋を渡す。彼は大きく一回頷いてから一目散に駆けていく。



一生懸命な姿というのは応援したい気持ちにさせるのかも知れない。


僕自身、彼を見ていて前向きな気持ちを思い出せた。


…今ならあの人に言えそうだと…そんな気もしてきた。



僕は、先月からこの購買に入っている。腰を痛めた叔母の代理で期間は彼女が回復するまでの予定。


とは言っても、元々そこまで悪化した訳ではないから、そんな長い期間では無いと思っている。


叔母から仕事の説明を受けたときに聞いたのが、毎日沢山パンを買っているという彼の話。


「出来るだけ早く精算してあげてね。急いでいるようだから」


そう笑った叔母に言われて意識して彼を見た。


実際に注文を受けて気付いたのは、彼が購入していくパンの種類と数が幾つかのパターンに分かれているということ。



だから予め数通りのパターンのパンを袋へ詰めておけば、後は当日の彼からの注文(メモ)で幾つか足したり減らしたりするだけだ。


暗算は得意でも叔母のように、瞬時に判断したりテキパキすることが苦手な自分にとってこういった下準備のような事は必須事項にもなる。



そんな風に工夫している内に毎日来る顔ぶれは、大体覚えてきた。


それと。


必死で駆けてくる彼の前に来た、あの人。


その人は購買に居たのが叔母でないことに少し驚いたようだった。

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