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とかしてはにぃ

『蜂蜜はにぃ』のSSを、書かせて頂きました。

奏さまの、桜庭さんのイメージを激しく壊してしまっているかも知れません(>_<)! 
そして、『蜂蜜はにぃ』の大切な「ハニー」を蔑ろにしているように感じられる方もいらっしゃるかも知れません。

奏さまの『蜂蜜はにぃ』を大切に思っていらっしゃる方には先にお詫びします。ごめんなさい。

それでも、構わないと仰って頂けるなら、どうぞ宜しくお願い致しますm(__)m



――――――――



「綺麗な髪の色だね」


聞こえてきた声に振り向くと、見知らぬ男の人がいた。
それが僕に掛けられたものだとは思わずキョトンとしていると、その男の人は柔らかい微笑みを浮かべて、
 
「あ、突然ごめんね。実は僕、美容学生なんだ」

だからつい人の髪に目がいっちゃうんだよと苦笑まじりにそう言った。

「でも流石にいきなり声を掛けたりはしないんだけど君の髪があまりに綺麗な色だったから自然に声が出ちゃった」

驚かせてごめんね、そう続けて謝られてしまったけれど僕は凄く嬉しかった。
だってこの髪の色は僕の特別で大切な宝物だから…


その後、お詫びにとお茶に誘われてしまい、
何度も断ったのだけど、初めて会った人なのにその人の柔らかい物腰のせいか自然と打ち解けていた。

彼の名前は、橘 勇吾(たちばな ゆうご)さんと言って専門学校の2年生。
美容師の卵だけあって、髪型や服装もとてもお洒落だし、身長も高くて優しい顔立ちのイケメンさん。

どことなく、桜庭さんに似ているような気がしてそれが警戒心を解いたのかもしれない。

「じゃあ、橘さんは卒業したらやっぱり美容室で働かれるんですよね。」

「うん、働きたいお店があるんだ。けど、そこは凄く人気のある処だから難しいと思うんだけど憧れてるんだ…。」

夢を話す橘さんはとても輝いていて、昔の桜庭さんもこんな感じだったんじゃないかなと思うと、なんだか嬉しくなってしまった。


それから、僕の学校の話とかも聞いて貰ったりして、橘さんは話すのも聞くのも上手で接客業の美容師さんはぴったりだと思えた。

一時間くらい話しをして、思いがけない楽しい時間を過ごして帰路に着いた。


―――――


「啓太君、こっちも合わせてみない?」

そう言って桜庭さんはオフホワイトの可愛いらしいセーターを見せてきた。

「こ、こんな可愛いの無理ですよ!」

「そんな事ないよ。こうゆうユニセクッスなのは啓太君の可愛いさを引き立たせるから絶対似合うよ。」

ニコニコ笑いながら、桜庭さんはそんな恥ずかしい事をさらりと言う。

今日は、桜庭さんと映画館も入っているショッピングモールに来ていた。
所謂、で、デート…な訳だけど、もう何回目かになるのに、やっぱりなんだか恥ずかしい。

前から観たかった映画を観て今は桜庭さん行きつけのショップに来ていた。

桜庭さん行きつけのお店だから、洗練された大人な感じの品揃えで、僕に似合うような服なんてないんだけど、桜庭さんはレディースエリアから選んだのだろう淡い色合いのセーターを僕にあてて

「うん。やっぱり凄く可愛い。」と満面の笑みでそう言うので、僕は顔が熱くなるのがわかった。

桜庭さんの笑顔に顔を赤らめたのは、僕だけでなくそのお店にいたお客さんや店員さんもだけど。

本当に桜庭さんは格好いい

こんな優しくて格好良くてカリスマ美容師と言われている桜庭さんが、僕の彼氏だなんて今でも夢なんじゃないかって思うときがある。

今日だって、二人で歩いていると桜庭さんを見つめる周りからの視線は凄いし、綺麗な女の人が声を掛けてきたり、改めて桜庭さんの魅力を思い知る

そんな事を考えて、ボンヤリしていた間に桜庭さんはさっきの服を購入しようとしていて、慌てて止めさせようとしたけれど破壊力抜群の笑顔で阻止されてしまった…。うう…。

桜庭さんと付き合い始めてから、こんな風にプレゼントされることは良くある。

誕生日とかクリスマスとかの記念日ならまだしも、「啓太君に似合いそうだったから」とか「僕が選んだものを身に付けてくれると、啓太君がもっと僕のものって感じられて嬉しいんだ」なんて、
顔どころか全身が真っ赤になって蒸発しちゃいそうな言葉と一緒に贈られる品物がひとつ増える毎に、確実に幸せも増えていった。

髪の色だけでなく、すべてを貴方の色で染めて欲しい…なんて、乙女な思考に自分でも恥ずかしくなってし
まう…。


―――――


「あれ?啓太くん?」


お店を出ようとしたところで聞き覚えのある声がして声のした方を見るとそこにいたのは先日会った橘さんだった。

「橘さん!」

「やあ、偶然だね。啓太くんも買い物かい?」

この間と同じ様に柔らかい笑顔で聞いてくる橘さん。偶然の再会にびっくりしながらも、正直にデートですなんて言えるはずもなくて
「橘さんはこのお店よく来るんですか?」と誤魔化すように、返事をする。

「うん、好きなブランドなんだよね」

確かに、桜庭さんもだけど橘さんの雰囲気にもこのお店の服はよく似合いそうだ


「啓太君。知り合いの人?」

偶然の再会に驚いて、 桜庭さんの事を置いてしまっていたことを思い出す


「あ、ごめんなさい。えっと、この人は…」と紹介しようとしたところで橘さんが


「…桜庭篤弘さん?」


えっ…?


「桜庭篤弘さんですよね?レクサスの!」


いきなり桜庭さんの名前を呼ばれて驚く


「あ、すみません!俺、美容学生で雑誌とかでみて桜庭さんに憧れていて…。お店にも行った事あります。なかなか予約が取れなくてまだ一度だけですけど、桜庭さんにやって貰ったの。」


興奮した様子で桜庭さんに話し掛ける橘さんに僕は驚いてしまった。
あの穏やかな橘さんとは思えないようなハイテンション振りだ。


そんな僕とは裏腹に、桜庭さんは慣れているのか

「それは、有り難う。確か4ヶ月くらい前かな。僕がスタイリングとカラーもやらせて貰ったよね?」


凄い!桜庭さん、一度だけのお客様もちゃんと覚えてるんだ。


「…覚えていて下さってたなんて…。」と感激した様子の橘さんが嬉しそうに言った。
そうだよね。憧れの人に覚えていて貰えたなんて嬉しいに決まってる。


「今は、友人同士で練習台になったりしてるので髪型かわっちゃってますけど…でも、あの時やって貰った髪型は写真に撮って残してます!宝物です。」


橘さんも、宝物貰ったんだ…。


「そんな風に思って貰えるなんて、美容師冥利に尽きるよ。」


宝物を貰った同士だとわかって、橘さんに親近感が湧いて嬉しくなる。


―――――


「じゃあ、啓太君の髪の色がきっかけだったんだね。」

「はい、啓太君の髪が凄く綺麗な色で、無意識に魅き寄せられて、つい声を掛けてしまって…。
あとから考えたらナンパみたいだったなって恥ずかしくなりました。でも、おかげで桜庭さんとこうしてお話し出来て凄くラッキーです。」


本当に嬉しそうに話す橘さん。

あれから、モール内のカフェに入って3人でお茶をする事になった。
橘さんにとって桜庭さんは本当に憧れの人みたいで、仕事の話や、桜庭さんの美容生の頃の話なんかが聞けて凄く嬉しそうだ。
やっぱり美容師同士(橘さんは、まだ卵だけど)話が合うんだな。 初対面みたいなものなのに、すっかり打ち解けてる二人を見ていてそう思った。


それにしても、さっきから周りからの視線が凄くて、ちょっと恥ずかしい。
今もモデル並みに格好良い桜庭さんと王子様タイプの橘さんの二人が座るこの席は、注目されまくってて、僕はひとり場違いな気がしている。
だって絶対、浮いてるよ…。こんなキラキラオーラな二人の横に、平凡な僕…。

ちゃんと僕も話の輪に入れるよう、時折僕の方にも話を振ってくれるけど、僕は昔の桜庭さんの事とか、仕事の話とか知らない事がわかって、二人の話を聞いてるだけで、充分楽しかった。


でも、桜庭さんはどうなんだろう…。
ただの高校生の僕と、同じ志を持つ橘さん。
この間、ほんの少しの時間でも楽しませてくれた人。
桜庭さんも、橘さんみたいな人となら充実した時間を過ごせるんじゃないだろうか…。
ふと、そんな事を、考えてしまった。


―――――


あれから、橘さんとは時々メールで連絡を取り合う様になった。
大体、他愛のないやり取りが殆んどだけど時折、桜庭さんの事も聞かれる。


橘さんは、本当に桜庭さんを尊敬してるみたいで、初めて会った時に話していた働きたいお店が『レクサス』の事だったのは驚いた。でも、橘さんがもし本当にレクサスのスタッフになったら嬉しいな。


なのに、そう思う気持ちとは裏腹にそうなったら橘さんと桜庭さんはずっと距離が近づく事になるんだ…。そう思うと、心の中の不安が膨らんでいく気がした。

桜庭さんに、告白されて付き合うようになってからも僕は時々、これが自分が見ている都合の良い夢なんじゃないかって思う時がある。
桜庭さんは、いつも恥ずかしくなるほど気持ちを口に出してくれるし、たくさんの贈り物や態度でも示してくれる。


桜庭さんが、僕を大切に想ってくれている事に疑う余地なんてないハズなのに…。

僕にとっても、桜庭さんはかけがえのない大切な大事な愛する人。
そんな愛する人と恋人でいられる奇跡が、何の取り柄もない平凡な僕に起こったことを、まだどこかで信じられずにいるのかも知れない。


だって、神様の気紛れか何かでなければ桜庭さんみたいな人の傍には、綺麗で自信に溢れた人がいるのが当り前で…。
そう、橘さんみたいな人がきっと並び立つのに相応しい。


こんな事を考えるのは、僕を大事にしてくれている桜庭さんに凄く失礼な事だってわかっていても、自分に自信がもてない。
愛されている自信ではなく愛されるにたるだけの自分である自信…。


レクサスで、桜庭さんにアプローチするお客様や街で逆ナンされたりするのを見る度に、積もっていくものが時折、言葉にならない大きな何かになっていた―。

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