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Sweet Valentine 

━━━━ Sweet Valentine ━━━━



2月14日。製菓会社の陰謀により発生した恋人達の為の甘いイベント、バレンタインデー。
昨今では逆チョコなるものもあり、男子がチョコを買い求める姿も珍しくなく、例に漏れずここにもチョコを持ってレジに並ぶ二人の男子。

『しーちゃんはブラウニー、克也先輩はガトーショコラで、他のみんなにはトリュフにしよ!』

一人は女の子と見紛うほどに愛らしい小柄な木村梨音。お菓子作りも得意な梨音は手作りするのか、チョコと一緒に副材料も籠に入れていく。

『あ、これにゃんこちゃんの形だ!可愛いなぁ』

もう一人は厳つい外見とは裏腹に可愛らしい内面を持つ木村紫音。コーナーに置かれた猫型チョコを手にニコニコしている。

男子校の寮に併設してある購買に何故バレンタインコーナーが大々的に設置されているのかはこの際問題ではない。
いや、気になる問題かもしれないが、ご覧の皆様には納得出来るだけの知識があるだろう。とりあえず気にしたら負けだ。

『あ!ダメだよ、しーちゃん!今年は一緒に作るって言ったでしょ?』
『大丈夫だよ、りーちゃん。これは自分にだよ』
『そうなの?』
『うん。だって可愛いから。ほら、うさぎさんのもあるよ』
『ほんとだ!かわいいねっ。僕も自分用に買おうかなぁ』
『でしょ?じゃあ、りーちゃんのうさぎさんと俺のにゃんこちゃん交換っこしよ?』
『うん!』

なんとも微笑ましい会話をする愛らしい少年と厳つい男。そんな中身はそっくりな双子を見る周りの生徒達の目は温かい。
あの公開告白以来本当の自分を隠さなくなった紫音は笑った顔の破壊力から陥落する生徒が増え、虎視眈々と機会を狙う輩が後を絶たない。
今も見守る視線に混ざって熱の篭ったものが紫音にも、もちろん梨音にも送られている。



愛情に慣れていない紫音や無防備な梨音がそれに気付くことはなく、買い物を終えた二人はチョコを作るため仲良く自室へと戻っていった。



〜 克也×梨音 〜


『克也先輩!』

お馴染みの屋上でのランチタイム。克也を見つけるなり笑顔で駆け寄る梨音。毎日のように見る光景に克也の目尻は下がりっぱなしだ。
そして、その後の展開も多々あることで、

『わわっ』
「っと。・・・ったく、あぶねぇから走んなって言ってんだろ」
『あぅ・・ごめんなさい。あと、ありがとうございます』
「いい子だ」

だらしなく相好を崩すこの男が近隣の街をも制するチームの総長だと何人が気付くことだろうか。
しかし、それほどまでに威厳を欠落させている克也をチームの奴らが嘆くことはない。理由は3つあり、一つは梨音に対してそうなるのは皆同じだからだ。
二つ目は昼休みにこの屋上に克也達4人以外が立ち入る事がないから。故にこの甘ったるい二人を見る機会がないのである。

では何故、今日に限ってメンバーが屋上に集まっているのか。自分達の可愛い恋人に頼まれた二人が断るなんて出来ずに招集をかけたからだ。
木村兄弟いわく、『お世話になった皆にお礼をしたい』とのこと。

バレンタインにするお礼なんてチョコに決まっている。例え義理でも(恐らく)手作りチョコを易々と与えてやりたくない。
正直なんとか断るつもりだった二人だが、潤んだ瞳と小首を傾げてされたお願いに瞬殺されたのだった。先に惚れた方の負けである。

『克也先輩、コレもらってくれる?』
「お前から以外いらねぇよ」
『ほんとに?絶対だよ?』
「当たり前だろ」
『えへへ。先輩大好きっ』

元来甘えたな梨音は付き合ってからというもの、それが顕著になった。今も薄く頬を染め克也に抱きついて擦り寄っている。
しかし、本命にはヘタr・・・ごほんっ、奥手な克也にしてみれば悩ましい行動でしかない。毎度疼く本能を押し込める為に苦労している。

『先輩?』
「(上目遣いはダメだろっ!!)」
『あ、そうだ!ねぇねぇ先輩』
「お、おお・・どうした?」
『あのね、えっと、“今夜は僕を好きにしていいよ”』
「ブッ!!!ッ、ごほっ!」
『わっ、先輩だいじょぶ?』
「けほ、おまっ、それ意味わかって・・・」
『意味?なんかね、クラスの友達がバレンタインには恋人には絶対言うんだって。先輩も喜ぶって教えてくれたの』

梨音からもらったガトーショコラを喉に詰まらせ噎せる克也に事も無げに言い放つ梨音。とりあえず、クラスの友達には個人的に拍手を送りたい。

「(これは、据え膳・・だよな?)」

据え膳食わぬは男の恥だぞ、克也。

『ちがうの?先輩嬉しくない?意味ってなに?』
「いや、めちゃくちゃ嬉しい。意味は今夜ゆっくり教えてやる」



そんなこんなで梨音が意味を知れたかどうかは皆さんのご想像にお任せしたい。



〜 晴海×紫音 〜


ピンク色の空気を醸し出す克也と梨音を他所に晴海の視線は一箇所に固定されている。そう、屋上に入ってからずっと浮かない顔をしている紫音に。
弁当を食べているときも晴海と話しているときも、梨音が克也にチョコを渡したときは一瞬だが泣きそうだったくらいだ。

「しお、」
『あ!しーちゃん、アレは?』
『ここにあるよ』
『じゃあ皆に配っちゃおう!』
『うん』

そんな紫音に声を掛けようとした晴海を遮るように梨音が紫音に駆け寄り、紫音の持つ紙袋を一つ受け取った。
そして二人で小さな包みを傍観していたチームのメンバーに配り始めた。

『いつもありがとうのお礼です!』
「え?お、俺らにも!?」
『うん。しーちゃんと二人で作ったんだよ』
『作ったのはりーちゃんでしょ?俺は袋に詰めただけで・・』
「木村紫音が俺らの為に・・・・!」
「俺、この袋飾ろうかな・・」

以前ならありえない光景。紫音に群がり、我先にとチョコを受け取る不良たちは一様に顔を赤らめ喜んでいる。
それに晴海の機嫌は滝の水流の如く下降していく。しかし、紫音の笑顔に違和感を感じてしまう。どこかぎこちないのだ。
だがそれも紫音達がメンバー全員に配り終わる頃には別のことにかき消されて霧散してしまった。

『晴海先輩。これ二見さんにも渡しておいてくださいね。じゃ』
「(え・・・俺には!?)」

なんと、チームの奴ら全員の分を配り終えた瞬間に鳴り響いたチャイムに紫音たちは足早に戻っていったのだ。
少し、いやかなり期待していた晴海には信じ難い衝撃で、そんな春海を克也を始めチョコを受け取った皆が気付くことはなかった。



『うぅ・・・先輩びっくりしてた・・・寂しそうだった・・』

時間は過ぎ、夜。子猫のいた中庭に紫音は来ていた。いつも落ち込んでいるときは晴海の部屋で優しく甘やかされて慰めてもらっていた。
だが今日は街に行くと連絡があり、それは出来ない。そうじゃなくとも今日は無理だった。

『ごめんね、晴海先輩。でも、こんなの渡せないもん』

晴海を悲しませ、紫音を落ち込ませている原因。それは紫音の両手に乗せられた物。形の歪な、恐らくハートのチョコケーキ。
これでも梨音と一緒に何度も作り直し、一番マシなものだった。

『大好きを大好きな人にあげる日なのにっ・・・ふぇ』

朝までは晴海に渡すために学校に持って来てはいた。
しかし、見てしまったのだ。可愛らしい生徒が晴海の靴箱に何かを入れているのを。
カラフルなハートのビニール製の袋に包まれたソレは綺麗なハート型のチョコチップクッキーで、紫音は自分のケーキが途端に不細工に思えたのだ。

ケーキだけではなく、自分までもが晴海に不釣り合いに思え始めた。
晴海の愛情を疑っているわけじゃないが、自分なんかよりももっと可愛い子の方が良いのでは・・・と。

『でも、やっぱり渡せばよかったよぉ』

屋上を去るときに見た晴海の顔が紫音の脳裏を埋め尽くす。驚きに見開かれた瞳にはありありと寂しさが現れていた。

『ひっく・・・ふっ、おれのばかぁ・・』


「ホント、馬鹿だね。紫音ちゃんは」
『ふ、え?』

本格的に泣き出す紫音を後ろから優しく抱き締め、殊更甘い声で耳元で囁く声。居るはずない慣れた香りに紫音の涙は瞬時に引っ込んだ。

「あのね紫音ちゃん。俺はね、好きな子、紫音ちゃんに貰えるならどんなものでも嬉しいんだよ」
『はる、み・・せんぱっ』
「ねぇ。それ、俺にでしょ?ちょうだい」
『でもこれっ』
「ね?」

晴海の笑顔に逆らえずにおずおずと差し出されたケーキを受け取り、嬉しそうにする晴海に紫音も漸く肩の力を抜いた。


『先輩ごめんなさい』
「ダメ。許してあげない」
『っ!なんでもするから嫌いにならないでっ』
「嫌いになんてならないけど、なんでもしてくれるの?」
『う、うん』
「じゃあ、とりあえず俺の部屋に行こっか」
『えっと・・・やっぱり、』

月明かりですらわかる晴海の瞳の変化に紫音は自分の失言に気付く。この流れで部屋に行くことがどれほど危険なことかわからない筈がない。

「やっぱ無しはないよ」
『でも、そのっ』
「紫音」
『せんぱ、い・・』
「おいで」



その後の二人は皆さんのご想像通りかと思いますが、紫音が晴海の許しを得たのは翌日だったことだけ記しておきます。



END



AI様、ありがとうございます!
うわあああ!晴海めえええ、なんて腹黒いんだ!許してもらおうと必死な紫音ちゃんにあんなことやこんなこと…!妄想で脳みそが溶けてしまいそうです(笑)なんてかわいらしいバレンタインネタ…!克也も梨音には振り回されているようですね。総長形無しです(*^_^*)
企画にご参加ありがとうございました!これからもはるうららをどうぞよろしくお願いいたします!

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