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3

 後ろを見なくとも声で誰だかわかるほど慣れきってしまった氷見を振り返ることなく草薙は驚いたように草薙を――――正確には、草薙の後ろにいる氷見を見る秋田を無視し、今まで使っていた敬語を使うことも無く言葉を紡いだ。


「おい、一体何時、何処で誰が誰のものになったよ、副会長」
「今のこの状況でそれ言うかなぁ?約束してた時間に来なかったひぃを心配して腕掴まれてたから助けてあげようとしただけなのにね」
「ほざくなよ。ただ単にこの場をもっとややこしくしてるだけだろーが」


 吐き捨てるように草薙が言うと、いつの間にか秋田の手から解放されていた片腕を氷見にとられ、草薙が氷見に抱きしめられる形となった。

 不満げに己を見る草薙の何処が面白かったのか、氷見は音を立てて笑う。
 こんな状況だというのにその笑みは相変わらず優美で美しい。そのせいか、草薙の中でイライラが募り、そのストレス発散に軽く足を踏みつけた。

 ――――他の人間の前で笑顔を見せた氷見にイラついた。という事実は草薙にとっては馬鹿らしい。の一言で終わるものだった。


「ふーん?その子って副会長のなの〜?見た所そうは見えないのにねぇ」
「素直じゃないのが草薙人見だからね。ひぃが迷惑でもかけたのかな?」
「おい、副会長、苦しいわ。とっとと腕を解け」
「だってひぃを離したら僕を置いてとっとと逃げちゃうじゃないか」
「当たり前だろ、ボケ」


 未だ氷見の腕の中にいる草薙が上を向いてその整った顔を憎々しげに睨み付けるとゆるりと瞳だけを細めて氷見が嗤う。
 いつものそれとは違い、どこか違和感が付きまとうその笑いに眉間にしわを寄せたところで、草薙の服が引っ張られる感覚に氷見から視線を外して引っ張った人間へと向ける。

 ――――ややこしい。もはやこの状況にキャパオーバーになりかけた頭が出した答えはそれだった。忘れてはならない、草薙人見は変に図太く性格がどこか捻くれているだけの只の男子高生なのだ。


「……あの、くさなぎせんぱい?どうしたの?お顔、こわいこわいだよ?」


 顔が怖いのは寧ろ弟気味の方だろう、中身は知らないが。心配気味にこちらを見る梨音に対して失礼ともいえる言葉を草薙は心中で考える。

 あまりにもなその考えは草薙の中に渦巻く嫉妬といらつきとぐちゃぐちゃの感情のせいだ。


「大丈夫ですよ、機嫌が悪いのはコレのせいですから」
「これって酷いなぁ。ひぃだって僕のせっかくの忠告無視した癖にさ?それにしてもひぃの敬語って懐かしいね、僕には合って数時間で使ってくれなくなったしね」
「使ってくれなくなったじゃなく正しくは敬語で話さないようにお前が脅迫したんだろーが、事実を捻じ曲げるなこのナルシスト野郎が」
「僕ナルシストじゃないと思うけどな」


 草薙の罵倒に氷見は苦笑した――――脅迫の所に反応どころが否定すらしないのは恐ろしいことに事実だからだ。


「今までの言動一変全部思い出しやがれ。利己主義者は自己愛の権化な奴が多いんだよ。俺の幼馴染は違うが」
「まあいいんだけどさ。そんなことよりひぃ、なに勝手に触らせてるの?」
「は?」


 するり、と秋田に触られていた草薙の手首に氷見が唇を寄せる。
 その意味を微弱ながら理解した草薙が眉を寄せて離れようと身体を動かせようとしたが、その体は未だ氷見に拘束されているので動けないのは当然だろう。

 チュッという小さなリップ音が草薙の耳に聞こえた瞬間に彼がとった行動は顔を赤らめるでもなく体を震わせるでもなく――――ただ単純に振り上げた片手を躊躇いも無く振り下ろすという単純ながらも威力の高い、只の攻撃だった。


「……思いっきりやったでしょ」
「当たり前だ馬鹿野郎。お前の頭はまともに機能してるのか?つーか馬鹿か、馬鹿なのか。馬鹿だろ。死にやがれくそが!」
「口悪いよね。そんなところも人見らしいけど」


 ぴたり、とまだ残る罵詈憎恨を止めた草薙は胡散臭そうに氷見を見る。理由は単純明快、今までひぃという愛称で呼んでいた氷見が名前で呼んだからだ。


「相変わらず察しが早いな。大体、この行動の意味分からない?僕、嫉妬してたんだけどね」
「はあ?」
「だからさ、僕以外の人間が人見に触ったことに嫉妬したのー」
「バカらしい」


 さっきから馬鹿って言ってばっかりだよね。という科白にアホか。という台詞が自然と草薙の唇からでてくる。先程の怒りがどこかに行ってしまったことに草薙は己をせせら笑った。

 ――――本当に、馬鹿らしい。草薙にとって何度も思うそれに対してもはや慣れ切り、癒着してしまった現状を数年前の自分は一笑にせすだろうとあっさりと考えがつくことに、訳も分からず自然と笑いがこみあげてくる。


「っははっ、ははははっ!!」
「……どおしたの〜?気でもふれたわけぇ?」
「あはっ、あははっははははははっっ」


 この場にそぐわない笑い声をあげる草薙に呆れ、疲れ切ったような声が草薙に寄越される。

 当たり前だろう、目の前でされるそれらは所謂惚気であり、傍目を顧みない様ないちゃいちゃを見させられるものからすれば堪ったものではない。さらには、そのいちゃいちゃ自体がかなりわかりにくい挙句にそれらの行動自体シュールだ。

 おちゃらけて見えるがその実聡い秋田晴海がそれに気付くことは不幸その物でしかないだろう。
尤も、この場にいたかの双子は弟の方が氷見がキスをしでかす前にそれを兄に見させるまいと(+自分が恥ずかしいという理由で)既に立ち去っている。


「人見?」
「くっ、くくくっ、ちょ、ストップ。笑いが止まねー」
「何処かに笑う要素ってあったっけ?笑い上戸でもないよね?」
「くっ、くく、あ、はーっ、何とかおさまったわ」


 笑いすぎで目元に浮かんだ涙を指でふき取り、草薙はその口元に微かに笑みを浮かべた。


「いきなりどうしたの、やっぱ気でもふれたとか?」
「お前じゃあるまいし」
「あ、うん。どうやら通常運転みたいで安心したよ」
「で?本当にお前は嫉妬したのか?」
「したよ?ひぃのこと好きだしね。ひぃも好きでしょ?」


 くす、と小さく笑い問いかけてくる氷見に草薙は呆れたように分かり易く溜め息を吐いた。

 ――――言うまでもないだろうに。という言葉が草薙の頭を過ったが、それを無視して草薙は氷見に近づき、軽くその唇に口づける。


「当たり前だろ。じゃなきゃ誰がてめぇ何かとキスするか」
「酷いなー、仮にも好きな人にそんなこと言う?まあ、そんなところも可愛いけどね。愛してるよ」
「恥ずかしい科白をさらっと口にするなよ。たらし男が」
「ひぃが顔赤くさえしないのに言われてもねー、大体ひぃが照れたところとか一度も見たことないよ?」
「必要ないだろーが」


 あるよー、という愉しげな声に氷見の機嫌が上がっているのを感じた草薙は素直に呆れた。

 それは、たかがこれくらいのキスはいくらでもしているはずなのに気分を簡単に浮上させた氷見に対してとそれに満たされた己に対してだ。


「で?お二人さんは付き合ってるの〜?言うまでもないだろうけどさぁ」
「「付き合ってないけど」」
「……はぁ??」


当然のように言い放った二人のセリフに心底不思議そうな、訝しむような顔をした秋谷に対し、むしろなぜそんな様な顔をするのかというように草薙は言葉を口にする。


「お互い好きなんだしそれで満足だろ?付き合う必要がどこにある」
「お互い好きならふつう付き合うものなんじゃないの?そういう形って欲しいじゃん」
「別に。それぐらいで揺らぐようなもんいらねーよ。大体付き合ったところで何も変わんねーし。そんな形式上のもんなんて面倒なだけだろ。体は重ねてるんだし」
「ははっ、ただ単に幼馴染に付き合ってるっていうのが嫌なだけのくせにね」


 あっさりと事の真相をばらした氷見を草薙が非難するように睨み付けるが、それを気に留めることなく氷見はくすくすと笑う。


「は〜?意味わかんないんだけどー」
「分からなくて結構。己をネタにされて小説を書かれるなんてイラつくことこの上ねーんだよ。大体役職持ちとか知ったらアイツは確実に狂喜乱舞するに決まってる。面倒くせーのは勘弁だ」
「その幼馴染が腐男子なんだっけ?ひぃの性格が捻くれた原因って」
「捻くれてない。人並みだっつの」
「えー?」


 不機嫌だというように眉を寄せ、もう勘弁だと言うかのようにくるりと後ろを向いた。それを見た氷見が愛しげに笑ったのを秋田は見、かすかに溜め息を吐く。


「おい、行くぞ。近衛」
「わかったよ。でも名前で呼ぶなんて珍しいね」
「気分だよ、呼んでほしくねーならもうよばん」
「そんなわけないじゃん」

  ――――囚われたのはどちらが先だったかなどと、そんなことはどうでもいいことだろう。



end



この二人は一応お互い好きです。と言うか全然はるうらら様のキャラさんと交流してないことに気付きました。交流って言っても主人公が他をあまり受け付けない奴なので交流できないんですよねぇー、と、今更ながらに気付きました。
最後に感想として一言。
ラブラブバカップルを目指して書いたと完成した小説を(勝手に)見た友人に言ったらどこがだと言われました。
これが私のラブラブの限界値です。ハッピーエンドになってるといいなー、とか勝手に思ってます。

それでは、これからもサイトをがんばってくださいね。



海上結城様、企画ご参加いただきましてありがとうございました!確かに、ご自身のキャラがしっかりと立っていられるのでうちののほほんとしたあのふたりとは絡ませるのは難しかったと思います(^_^;)それでもこの子たちを選んでくださったと言うことはこの子たちは多少なりとも主人公の興味を引けていたんでしょうかね?いや、海上結城様の興味と言い直した方がよいでしょうか。
草薙君と副会長はこの先もこんな感じでお付き合いしていくんでしょうね。うちの子たちの愛情とはまた一味違った愛情表現ですね。
この度はご参加いただきまして本当にありがとうございました!これからもはるうららをどうぞよろしくお願いいたします。


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