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「千代田…」
「こないで」
どうして。どうして追いかけてなんて来たの。
柴島の側にいたくなくて、立ち去ろうとしたけど行き止まりだったため柴島の方にしか行けなくて。なるべく距離をとって横を通り過ぎようとしたけど、腕を捕まれてしまった。
離して、とお願いしたけど柴島は離してくれない。
いやだ。話なんてしたくない。
「な、千代田。聞いて。あの時はほんとにごめん。俺、ばかだったから、そんなにひどいことしてるつもりなんて全然なかったんだ。ちょっとからかうだけのつもりだった。川島たちだって、いつもからかってるって、それでもそいつは次の日には平気そうだって言ってて。…ガキだったから、そんなにお前が傷ついたなんて」
「聞きたくない」
あの出来事を、必死になって謝ろうとする柴島の言葉を遮る。もう、いいんだ。何も考えたくない。
「千代田…、お願い。女の子たちに言ってた言葉も、本気なんかじゃないよ。ただ…」
「やめてよ!もう聞きたくないんだってばっ!」
柴島の口から、女の子たちに言ってた事についての話が出た瞬間、僕はかっとなって思わず大きな声を出してしまった。
柴島のような人気者たちは皆そうだ。
『ちょっと言ってみただけ』
なんて、何を言ったって、どんなことをしたって、皆に好かれる君は簡単に許して受け入れてもらえるからそれが相手にどれほどの影響を与えるかだなんて全く気にしない。
僕はだめだ。
嘘と真実を見抜けないから。せっかく柴島が昔に教えてくれたのに、それをすぐ忘れちゃうから。
ああ、でもよかった。きちんと思い出せて本当によかった。
――君を好きになる前に、気付けてよかった。
なかば八つ当たりのような僕の叫びを聞いた柴島は、真っ白な顔をしていた。力の抜けたその腕を振り払い、僕は柴島を置いて教室に向かった。
それから、その日一日、柴島が僕に話しかけてくることはなかった。柴島の周りにはいつものように人だかり。ただ、柴島が声を出しているのは聞こえなかったけれど。
僕はその日一日、休み時間の度に教室から抜け出した。
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