番外編1
「つっ…」
「名村?」
それは部屋で二人まったりと過ごしていた時だった。並んでソファに座り、寄り添いあううちに良い雰囲気になっていちゃいちゃしようと顔を寄せ、城之内が名村の肩を引き寄せた。
名村が、小さく呻きをあげて顔を歪めた。慌てて手を離すと城之内がつかんだ肩を無意識に手で押さえ、痛そうに眉をしかめている。
「どうしたんだ」
「…わからない」
城之内の問い掛けに当の本人も原因が思い当たらず首をかしげている。
見てくれないか、と服を脱いで向けられた背中を見て城之内は息を飲んだ。
先程痛みを訴えた場所が、青く色が変わっている。
「どうしたんだ…これ」
「え?」
「青くなってんぞ。どっかで打ったのか?」
「…あ」
言われて思い当たる節があるのか、名村は小さく声を出した。なんでもない、とごまかしたのだが怪訝に眉を寄せる城之内に降参して名村は口を開いた。
なんでも、不良同士のいざこざがあり収めようと間に入ったが、逆上して相手が名村に向かってきたのだという。
かわして交渉を求めていたが一向に聞く耳を持たずやむを得ず実力行使に出たものの、五対一で少しやられてしまったのだそうだ。その時に受けた傷なのだろうと名村はけろりとして答えた。
話を聞いた城之内の眉間にますます皺がよる。無言で立ち上がり、救急箱を手に戻るとそっと名村の背中を撫でた。
『よくも俺の名村に』
『ぶっ潰してやろうか』
治療をしながら、ぶつぶつと文句をいう城之内がおかしくてくすくすと笑えば城之内はむうと膨れた。
全校生徒の前で認められたとはいえ、この学園の生徒全員が名村に対しての態度を改めたわけではない。中には未だに城之内をたぶらかしただの言って敵視してくるチワワや名ばかり委員長などとバカにして見下す不良もいる。
そういう輩を実力行使で押さえつけなければいけないことも多々あるのだ。
「ったく…名村に暴力なんざ振るいやがって」
「大したことはないさ、すまないな…城之内」
「大したことなくないだろ!なにも悪くない名村に殴りかかるだなんて許せねえ!どこのどいつだ、探しだして」
「城之内」
ヒートアップしてくる城之内の口を名村がふいに塞いだ。急な出来事に城之内がそのままぴきんと固まる。
「いいんだ、喧嘩なんて風紀委員長になる前からいくらでもあった。風紀委員長であるからには避けては通れない事だ。…だが、俺のためにそこまで怒ってくれて嬉しい…。…嬉しいんだが、怒るよりも俺を甘やかしてくれないか?頑張ったなと誉めてほしい」
犬猿の仲…といっても城之内が一方的に名村を嫌っていただけなのだが、その時には見られることのできなかった名村の素直な気持ちと照れた顔に城之内はやられっぱなしだ。
でれりと締まりのない顔を赤くして名村を抱き締めてキスをする。
キスをしながら、城之内は胸の中にわずかなもやを感じた。
次の日、いつものように生徒会室で仕事をしながら城之内は昨日の胸のもやを思い出して考えていた。何か、何かひっかかる。
「どうしたんですか?」
「いや…」
副会長の柏葉に話しかけられ、ハッとして頭を振るがもやが晴れない。
何がきっかけで、何が気になるのか。
「…名村が昨日、怪我をして帰ってきてな」
「ああ…それは心配ですね」
「会長、溺愛してんもんね〜。大事なだぁいじな委員長傷つけられておこなんだ〜。自分も昔傷つけてたくせにぃ」
「…!」
会計の発した言葉に城之内がばっと顔をあげて固まった。勢いよく視線を向けられ会計が大げさなほど椅子から跳ねる。
「じょ、冗談だよぅ。ごめん、怒った…?」
「…冗談…じゃない…」
「会長…どうしたんですか?」
思い出した。
「あ…、ああ…」
『なるほどな。そいつと出来てるのを手っ取り早く皆に見せつけようとしていたのか』
困惑した名村の顔、足に感じた重み。
「うああ…!」
『いくら生徒会長とはいえ無害な生徒に暴力を振るうのは許されていないぞ』
「…!」
「か、会長!?」
頭を抱えたまま動かなくなってしまった城之内に、役員たちが焦って声をかけるが城之内はただ頭を振るばかりだった。
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