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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -




14

固まった思考回路が動き出すにはかなりの時間が必要だった。

これは…一体。
今、何が起きたのか。どうして名村の顔がこんなに焦点が合わないほど近くにあるのか。

ゆっくりと離れた後でも、まばたき一つすることなく同じ体制のまま、両腕をまるで小さく前へならえのように肘から先を突き出したまま。抱き締めていた腕をほどいた形のままだ。

「…俺も、好きだ…」

頬を染め、目を伏し目がちにぽつりとこぼす。それでも動かないままの城之内に、名村はもう一度軽く口づけた。

「あ…?」
「ふふ、お前でもそんな顔をするんだな」

何がなんだかわからない、と驚愕のままハテナを飛ばしている城之内がかわいくて、笑みがこぼれる。

「…ちゃんと、言わなきゃと思っていた。
あの時、俺を認めてくれてありがとう。お前があの時、俺を認めてくれたから今俺はこうして風紀委員長としていられる。お前には感謝してもしたりない」
「それは…俺の方だ」

中身を見ずに見た目と噂だけで名村をことごとく虐げてきた自分に、なぜ感謝などできるのか。
感謝なら、しなければならないのはこの学園の皆だ。
あのまま社会に出たとしたら、と考えるとゾッとする。城之内だけでなく、恐らく学園のほとんどの者が社会に出て、この学園の歪んだルールに従おうとして世間というものに洗礼を受けただろう。
その時に初めてきっと名村のことを思い出し、許されることのない己の罪の記憶は一生自分を苛んだはずだ。こうして名村が許してくれたからこそ、学園の皆はその罪に苦しむことなく巣立って行ける。

「ずっと、ずっと憧れている人がいた。その人はいつだって自信に溢れ、まるで本人が輝いているようにその人がいるだけで周りの全てを照らしているようだった。おれはその光が眩しくて、羨ましくて…自分もその光に照らされたいと願っていた」

名村の独白に城之内の目が見開く。
その相手を想っているのかほんのりと赤くなる頬と幸せそうな笑みに城之内は嫉妬に狂いそうになった。

「少しでも追い付きたくて、認めてほしくて…やっと、やっと俺を見てくれた」
「そ、いつは…」
「返事が遅くなってすまない。

……好きだ、城之内」

人間、処理しきれない出来事に遭遇するとその時間が止まったように感じるらしい。
城之内は先程と同じく、同じ姿勢からぴくりとも動かずただ名村を見ている。見ているかどうかも怪しいほどに、城之内は本当に魔法にでもかけられたかのように止まったままだ。

「…城之内…?っわ!」

あまりに長い時間動かないために、心配した名村が城之内の顔を覗きこむ。その瞬間、いきなりがばりとしがみつかれ名村はへんな声をあげてしまった。

「城之内、」
「…本当か?名村…、名村、本当に、」
「…ああ。本当だ。信じてもらえないか?」
「信じられない…こんな、こんなこと、名村がっ、名村が、俺を…!う、…っ、」

自分の肩に濡れた感触がして、名村を抱き締める城之内の体が震えている。城之内が泣いているのだ。

あの城之内が、泣いている。

それが自分の告白を聞いてだとすれば、なんという幸せなのだろうか。

「好きだ…」

自分を抱き締める城之内の背中にそっと腕を回しながら、名村もまたその目に涙を浮かべた。

どちらからともなく顔を上げ、見つめあい、互いの泣き顔に少し照れ臭くて笑い、同時にそっと目を閉じてキスをした。


「ん…っ、ンぅ、」

触れるだけから、啄むようなキスを繰り返し、徐々にキスが深くなる。

「…っ!ふ、…っ、はぁ…、ん」

ぬるりと名村の口内に城之内の舌が入り込み、いきなり自分の舌に絡められたことに驚いて体が逃げをうつとそれを許さないとばかりに城之内は名村の背中をしっかりとホールドし、後頭部を掴み再び深く口づけた。

「…城之内…」

角度を変える息継ぎの合間にひどく甘い声で名を呼ばれ、ずくんと腰が疼く。少し顔を離して薄く目を開け名村を見れば、とろんと溶けたなんとも言えない顔で自分を見ていて、腰から下腹にかけての疼きがさらに増した。
勢いに任せて押し倒しそうになるのを理性を総動員させて押さえ、ぐっと堪えるように唇を噛み締める。

「城之内…?」
「名村…すまない。欲に負けそうだ。今日はこれで…」
「…ん」
「…っ、!?」

帰る、と離れかけた所を不意打ちでキスをされ、驚きに目を見開く。
触れるだけでなく、なんと名村は緩く口を開けて自分から城之内の口を自分の舌で割りねだるように城之内の舌を絡めとった。

「なむ…っ、」
「はぁ…っ、じょ、のうち…」

水音をたてて離れた互いの口に銀の糸が引く。名村は溶けた顔のままもう一度軽く口づけをし、城之内の首に腕を回して互いの体を密着させた。

どくどくと互いの心臓がどちらも激しく脈打っている。愛撫のように互いの体に振動を伝え、触れ合う腰にも確かに互いの熱があり意識した途端にかっと熱が上がる。

「…かまわ、ない。お前がほしいと言うのは浅ましいか…?」
「…っ!」
「気持ちが通じあって間もない、とか、段階を踏んでから、なんて俺はどうでもいいんだ。気持ちが通じあったなら…今幸せを感じたい。」

それは、城之内の理性を吹き飛ばすに十分な言葉だった。

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