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12

「名村はいるか?」
「なんで返事を聞く前に開けるんですか」

こんこん、とほぼノックと同時に風紀室の扉を開け、呆れたように風紀副委員長にたしなめられるも城之内はどこふく風でずかずかと部屋に入り込み、目的の人物の場所へ脇目も降らずに一直線に向かう。

「名村、生徒会からの書類だ。目を通してくれ」
「ありがとう、城之内。だが、わざわざ届けに来てくれなくてもいいんだぞ?毎回忙しいだろうと言っているのに…」
「俺も毎回言ってるだろ。お前に会いたいから来てるんだ」

甘い笑顔とともにさらりと告げられ、名村の顔が一瞬にして真っ赤に染まる。
そんな名村を嬉しそうに見つめる城之内と対称的に風紀委員たちは苦虫を噛み潰したような顔で城之内を見る。

「ったく、こっちも毎回言ってるでしょう。うちの委員長を軽々しく口説かないでくださいって」
「それに対しちゃ嫌だって俺も毎回言ってるだろ。名村が好きなんだからってな。毎回言うが軽々しく口説いちゃいねえよ、全力で口説いてんだ」
「じょ、城之内、もういいから…やめてくれ」

真っ赤になりながらいたたまれなさそうに名村が城之内を止める。そんな名村が制止をかけるために伸ばした手を取り、『かわいいな』などと呟きながらその手の甲にキスをして、またまわりからやいのやいのと言われるのもここ最近で毎回繰り返されるようになった光景だ。
名村が再び風紀委員長として正式に動き出したのは、講堂での学園全体からの謝罪より一ヶ月経ってからだ。

あの日から、すべてが変わった。

親衛隊たちは、今までが嘘のようにその行動を変えた。
それぞれの親衛隊長が、隊員たちの統率に力を入れだした。今までならば平凡は下っ端で使い走りにしかしなかったのを、美形な隊員と平等に扱うようになり、崇拝対象に近付くものは片っ端から排除しようと制裁を加えていたのを止めさせた。
不良たちは、かわらずやんちゃをするが名村を前以上に慕うようになった。

役員たちや風紀委員たちは、あの日から見る目を変えたことにより、名村がいかに人として優れているかを実感させられた。当の名村は今までの事が何事もなかったかのように以前と変わらず接してくる。当人から責められないことが無関心よりもいかにキツいことなのかを思い知らされている。


城之内は…


「名村、今日はそれで風紀の仕事は終わりだったよな?」
「あ?ああ、そうだが…」
「部屋まで送る。そこの隅で待ってるから声をかけてくれ」
「いや、しかし」

名村の返事を聞くよりも先に風紀室の端にあるソファへ向かう。
追いかけて断っても何だかんだ理由をつけられ、結局城之内に言いくるめられるのを自覚しているのでそれ以上はなにも言わずにいる。

城之内は、あれからこのように全力で名村にアピールをしてくる。まるで瓜二つの誰か別人なのではないかと疑うほど名村に優しく甘い。
好意を隠そうともせず、強引に、だが押し付けがましくなく、優しいさざ波のように引いては押して自分の気持ちを表現してくる。名村はそれに未だに慣れない。優しくされたことも甘やかされたことも好意を向けられたこともないのだから仕方のないことなのだが。

だが、自分の中の城之内に対する気持ちがなんなのかは、それだけはわかっている。

「終わったか?」
「あ、ああ…」
「じゃあ行くか」

心持ち片付ける手が早くなっていたかもしれない。机の上をきれいにし終えて他の委員たちを送り出してから、部屋の戸締まりをしてソファへ向かうと、城之内が満面の笑みで立ち上がる。

今日は、今日こそ。

隣に並び、自分の歩幅に合わせて歩く間、いつになく心臓の音がうるさくて城之内にまで聞こえているんじゃないかと気が気ではなかった。

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