×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -




11

名村が目覚めた時、保健室のベッドの周りにはなんと生徒会役員の皆がいてそのすぐ後ろに、椅子に縛り付けられた城之内がいた。

「あの…」
「名村委員長、だいじょうぶぅ?」

緩い口調で問いかけてくる会計に頷きを返し、ゆっくりと起き上がる。時間を確認しようと室内を見回せば会計の隣にいた副会長が昼前だと教えてくれた。

「随分と深く眠られていましたね。ここしばらくきちんと眠れていなかったんでしょう?…私達のせいです、が…」
「ごめんなさい、名村委員長…」
「ごめんね」

次々と頭を下げてくる役員たちに慌てて気にするなと声をかけ、頭をあげさせるために肩に手をおけばその後ろからがったんがったん暴れる音がした。

「オイコラ!名村が目ぇ覚めたんなら俺がそばにいないとだろ!これほどけ!」
「どうします?名村委員長」
「えっ…、いや、そもそも城之内はなんであんなことになってるんだ?」
「あなたの身の安全のためです」
「身の安ぜ…あっ、」

城之内を自由にするか否かを求められ思った疑問を口にするが、副会長からの答えに自分がなぜここにいるかを思い出して名村は真っ赤になった。

そうだ。あの時、自分が委員長を続けるために城之内を会長のままで、と話した後、急に城之内から…

『俺は名村が好きなんだ、悪いか!!』

城之内が全校生徒の前で放った爆弾を思い出して赤い顔がさらに赤くなる。耳まで真っ赤にしていたたまれなさそうに布団に顔を隠すとがったんがったんと椅子の暴れる音がいっそう激しくなった。

「ほーどーけー!ほーどーけー!」
「うるさいよバ会長!委員長が倒れた後嬉しそうに抱き上げて連れ去ろうとしたくせに!副会長が止めなきゃ名村委員長をそのままぱっくんするつもりだったんでしょ!」
「ソンナコトハナイ」
「嘘くさい!」

ぎゃあぎゃあとわめくやり取りを聞き、名村は顔の熱が下がるどころか更に上がる気がした。
布団の中から目だけを出してちらりと城之内を見ると、自分に向かい溶けそうに甘い笑みを浮かべる。
一体何がどうして城之内はああなってしまったんだろうかと混乱のままに城之内を自由にするように頼むとリードを放された犬のように嬉々として名村のそばに来た。

「大丈夫か?」
「あ、ああ…、…っ!?」

小さく頷き返すと同時に額に柔らかいものがあたる。
なんと城之内が名村の額に口づけたのだ。

「熱はないな」
「…っ?…ッ!?あ、う、」
「ああっ!また手を出してる!」
「何してるんですか!」
「熱計っただけ」
「どさくさに紛れて!」

やいやいとやかましく怒る役員たちなんてなんのその、しれっと返してなんの不自然さも感じさせずに名村を抱き寄せている。
自分に起こっている出来事に混乱しつつも名村はさすが百戦錬磨だなとどこか頭の端で冷静に考えていた。

本当なのだろうか。

あんなに、あんなに自分のことを嫌い、バカにしていた城之内が自分を好きだという。
見たこともないような甘い顔をし、優しく触れ、溶けそうな声をかける。ずっと、ずっと夢見ていた。

城之内が、笑ってくれたら。優しく声をかけてくれたら。

それが現実だなんて、どうやって信じればいいんだ。

「…!な、名村!?」
「い、委員長!?大丈夫!?」
「名村委員長!」

城之内を初め役員たちがひどく慌てた様子で名村を囲む。なぜなら、名村がそのキツ目の切れ長の目からぽろぽろと涙を流していたからだ。

「ご、ごらんなさい!会長がいきなりそんなことするから!」
「会長ひどい!狼!」
「ううううるせえ!な、名村、どうした?すまん、嫌だったか?」

名村が泣いたのを城之内のせいだとわめきたてる皆に悪態をつきながらも、ショックを受けたようにびくびくと名村に話しかける。名村は声を出さずに腕で何度も涙をぬぐい、首を横に振った。

「…ちが…、違うんだ。ただ、信じられなくて…。だ、だって、今まで、お前たち役員は俺をあんなに嫌ってて…、
俺は、夢でも見てるんじゃないのか?本当は、まだ今、あの時のように食堂にいて、皆に責められている中、都合のいい夢を見て俺は現実を逃避してるだけなんじゃないか…?」

わめいていた役員たちの動きが一斉に止まる。誰もそこからなにも言うことができなかった。
初めてなのだ。今まで何を言おうが、どんな態度をとろうが表情ひとつ変えなかった名村が涙を流すだなど誰も思いもしなかった。

思おうとしなかったのだ。平凡だから、何を言ってもどんな扱いをしてもいいと自分達は無意識にそう思っていたのだ。
容姿がただ平凡だからと、傷つくことをなぜ少しも考えなかったのだろうか。

名村の涙を見て、役員たちはこの学園にきて生まれて初めて罪悪感というものに苛まれた。自分達が当たり前に常識だと思うことは間違いで、ただなんの咎もない一人の人間を物言わぬ人形のように扱っていたのだと気付かされた。
同時にこの学園にいる平凡な生徒たちを思い出す。学園に半分はいようかという彼らを、同じように見下していた。学ぶべき学舎の中で、彼らは平凡であるからという理由だけで理不尽な扱いを受け、ろくにやりたいことも出来ぬままにひっそりと草のように静かに毎日を過ごしていたのではないだろうか。

この学園を出て、それぞれの会社をついだ後、自分達がこの学園と同じように自分達の会社の人間を差別したのだとしたら、その会社は成り立つだろうかと。

なんと愚かで、バカな思想に囚われていたのかと羞恥に消えてしまいたいほどだった。

特に城之内は、名村への気持ちを自覚した今、ここにいる誰よりもその涙に打ちのめされ、出来れば過去に戻って自分の首を絞めてやりたいくらいだった。

「…名村…」

自分が傷つくのは間違いだ、と城之内は心の中で自分を叱責し、涙をぬぐう名村をそっと抱き締める。

「謝ってすむ問題ではないだろうが…すまない。だが、これだけは心に留めておいてくれ。今までが今までだから信じられないかもしれないが、俺は…お前が好きだ」
「城之内…」
「今思えば…、俺はずっとお前を嫌いながらも惹かれていたんだと思う。俺が何を言っても表情一つ変えない、俺より上の成績を叩き出してもバカにし返す所か俺の方が優れているという。それが、俺は視野にさえ入れてもらえていないんだとずっと悔しかった。お前を完敗させることでお前を支配したかった」

名村を支配できたなら、どれだけ気持ちがいいものだろうかと。
愚かな優越感を得たいがために名村を虐げ続けてきた。

「典型的な『好きな子をいじめる』パターンですね」
「会長の態度、前に理由を聞いたら完璧に『好きの定義』だったもんね」

名村への暴言が酷くなったことの理由を生徒会室で話したことがあると、副会長たちがその時の会話を教えてくれた。
抱き締められながら、その腕の中でそっと城之内を見上げる。

「ああ、その顔は反則だ。自覚した今俺はお前がかわいくて仕方ないんだからな。煽るのはやめてくれ」
「か、かわっ…?あ、煽る…?」

聞きなれない言葉に目を白黒させてあわあわと慌てる名村の頬に軽く口づける。名村が真っ赤になったのにひどく満足そうに笑い、城之内は優しく名村の頭を撫でた。

「…講堂でも言ったが、チャンスをもらいたい。それはこの学園のことだけじゃなく、俺自身にも」
「城之内自身…?」
「ああ。お前は優しいから、今まで散々虐げてきた相手が好きだからと手のひらを返すように言うことを赦すだろう。俺はそんなお前の優しさに甘えてなし崩しに手の内にしたくない。だから…見ていてくれないか。
俺は今日、今この時からお前に全力で自分の気持ちをアピールする。お前はそれを都合がいい奴だと思ってくれていい。すげない態度を取ってくれていい。俺だけじゃなく学園皆を見下す権利がお前にはある。俺はお前が今までしてきたように己を貫く。何を言われようが、どう思われようが腐ることなくお前を好きだということを伝えるのに全力を尽くす。例え…
その結果やはりお前に許されなくても、受け入れてもらえなくてもお前への気持ちを変えたりしない。お前をずっと好きでいる」
「城之内…」

真っ直ぐに自分を見つめる城之内は、いつものように尊大で、高潔で。
ああ、そうだと。

この自信に溢れる姿に、いつも憧れその背中を追っていたのだ。


名村は城之内の視線を受けながら無言でこくんと頷いた。

自分も好きだとは口にしない。
彼は自分の罪を塗り替えるために努力しようとしているのだ。それを今無条件に許してしまうことを彼は望みはしないだろう。

「カッコいいこと言っちゃってるけどさ〜、今日会長があわよくば委員長連れ去ろうとしたの知ってんだからね!」
「そうですよ、私達が止めなければ保健室ではなく自分の部屋に連れていこうとしていたくせに!」
「うるせえ!そりゃあれだ、咄嗟にだな…」

再び騒がしくなる役員たち。親衛隊たちや不良たちがなだれ込んでくるのはそのあとすぐのことで、城之内一人が皆と対立して言い合いしているのを、名村はこの学園に来て初めて温かい気持ちで眺めることができた。

[ 203/215 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



top