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9

名村が自室より姿を現さなくなった次の日、見回りの時間に風紀は新たに風紀委員長を買って出た副委員長を先頭に大名行列のように新校舎を練り歩いていた。そんな中、学園の小柄な生徒が襲われた。
幸いにも大事には至らなかったのだが、その生徒は更に傷口を広げられた。なんと、事情聴取をした風紀委員に初めに『君みたいな平凡が?』と言われ、そのあともどこかおざなりに対応され、最中には慰めるどころか見下したような聴取をされたのだ。その事件を皮切りに徐々に荒れていく学園の対応に少しずつ風紀事態が乱れていく。
その生徒だけではなくその後起こる暴行事件全てでそんな対応で、風紀はかわいい子のみ護衛と見張りを強化した。『平凡が襲われることなどないだろう』という正にこの学園の悪風を元に活動する風紀となってしまっていたのだ。そして、事件の被害者たちは段々と不登校になっていった。


初めは大したことはない、自分達は名村とちがい優秀なのだからと思っていたが学園が荒れるにつれその対処に『こんなはずでは』と焦る。
そこで初めて気がついたのだ。
思えば、名村が委員長であった時には見回りの配置から時間、やり方まで全て名村が指示をだし、ここ最近事件が頻発する旧校舎は名村がいつも一人で回っていた。旧校舎だけではない、危険とされる場所は全て名村が回っていた。今まで、自分達はそんな意識など全くなく、名村がいなくなったことで名村がしていたことを全て自分達がしなければならないということにそこでようやく気がついたのだ。

名村は在任中、よく皆に注意点や取り締まり方などを指導していた。だが、それらを自分達は真面目に聞いていたかと言われれば否で、自分達でいざ名村の穴を塞ごうとしてもできるはずがない。

それもそうだろう、自分達は名村のことを『平凡のくせに委員長に選ばれて偉そうにしている』としか見ていなかったのだから。

見回りをしていても、向けられる目は羨望などではなく懐疑。
たった二週間の間に風紀の評判は地に下がり落ち、学園はひどく荒れ、その為の書類が倍に増え、生徒会の仕事もそれに従いみるみるうちに増えていく。役員たちの親衛隊同士や他生徒とのいさかいも知らぬ間に増えた。
荒れる学園の中、城之内は自らなんと風紀の見回りや取り締まりなどに参加していた。役員たちや親衛隊が止めるのも聞かず、まるで名村の足跡を追うように時間の許す限り行動する。
そしてその度、名村がどれほどのことをたった一人でこなしていたかを思い知る。

「あいつは…こんなにも努力していたんだな」

ぽつりと皆の前で城之内が溢した言葉に誰もなにも言えなかった。自分達がいかに名村に守られていたかを思い知らされたのだ。



城之内の話を聞き終えた名村は泣きそうになるのを必死に堪えた。あの城之内が自分を認めてくれた。
今まで、『資格なし』と言われ見てもらえなかった自分を城之内が見てくれたのだ。そのためにあの気高い男が全生徒の前で自分に土下座までしてくれている。そんな城之内にいつまでも自分のために頭を下げさせてはいけないと名村はそっと城之内の肩に手をおいた。

「…ありがとう、城之内。お前がそう言ってくれただけで救われる」
「名村…」

顔を上げた城之内は正面にある名村の顔を見てぎゅっと心臓が掴まれたような感覚に陥った。
名村は、自分に向かって優しく微笑んでいた。

なんて綺麗なんだ。

その感情は素直にすとんと城之内の心に落ちてきた。
ああ、これは。

「さあ、立ってくれ。お前はこの学園の誇りある生徒会長だろう。これで思い残すことはない。リコールを受けよう」
「だめだ!」

だが、その次に微笑みながら名村の口から出た言葉は城之内の予想していなかった言葉で、思わず城之内は前のめりになりながら名村の両肩を掴んで噛みつかん勢いで却下の意思を吐いていた。

「じ、城之内?」
「だめだ、名村!違う、お前をリコールなんてしない!その為の集会なんかじゃない!聞いただろう?俺は反省した、お前は間違っていなかった。お前はこの学園になくてはならない存在だったんだと!」
「だが…」
「お前はリコールしない、させない!リコールは…リコールされるべきは俺だ」

しんとした会場に響いたその声には、さすがに今まで黙っていた生徒たちからもざわめきが起きた。

「な、何を言ってるんだ!なぜお前が!」
「なぜ、だって?当然だろう!俺はっ…、俺は、学園のトップでありながら偏見と差別の目でしかお前を見ていなかった。歴代の風紀委員長と違うからと、お前自身を見なかった。将来、会社を継ぐ身でありながら人の中身を見ようともせず、己の傲慢で真に優秀な人材を無くすところだった!
俺は、俺こそが生徒会長失格だ…。本来ならば率先してお前に対する態度をきちんとしなければならなかったのに。
許してくれ、名村…。俺は全責任を負って、生徒会長を辞任する。お前は今までのまま、お前がまだこの学園を見捨てないでいてくれるなら、風紀委員長としていてくれないか」
「そんな…、」

名村は答えることなどできなかった。城之内が、生徒会長でなくなるなど考えられないからだ。
ならば、自分がいなくなればよいのではないか?元より学園において城之内の代わりなどいるはずもない。だが、自分ならば代わりはいくらでもいる。

「…だめだ、城之内。お前は…お前以外に生徒会長なんていやしない。皆お前を慕っている。お前を敬愛しているやつらがどれほどいると思っているんだ。お前がそうして俺を認めてくれた。それだけで充分だ。お前が会長でなくなるなんて、誰も望まない。俺はいいんだ、元々学園の皆からふさわしくないと散々言われてきた。同じ委員でさえも認めてもらうこともできなかったほどの大したことのない人間だ。だから…」
「…っうわああああん!」


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