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イライラと気が荒ぶるのを隠そうともしないままに生徒会室に歩を進める城之内の後ろを役員たちは黙ってついて歩く。
やけに重苦しい空気の中、部屋につきそれぞれが自分の席についてちらちらと城之内の様子をうかがう。
「…なんだ」
「な、なんでもないよぅ。ただ、あのさ…」
「なんだ」
「…あなたらしくないと思いまして」
ぎろりと不機嫌に睨まれ、言い淀む会計の代わりに副会長が発言する。その目が自分に向けられ、目をそらすも副会長はぼそぼそと続きを漏らした。
「今までの会長でしたら、その…核心を言及せずに曖昧に相手を責めたりしないのに、と…。今回のあなたは、なぜ名村に対して怒っているのか私たちには理由がわからないんです」
「は?理由ならあるじゃねえか!食堂という公共の場で堂々といちゃついたりなんざ許されねえだろうが!」
「食堂でいちゃつくカップルなんてたくさんいるじゃないですか。しかもあれはいちゃついたと言うよりはただ倒れこんでいただけのようにも見えましたし。…もし事実そうであるなら、それは付き合っているもの同士ならなんの咎めもないのでは…」
「付き合っているだと!?な、名村はあの不良と付き合っているのか!?」
「し、知りませんよ!どうしたんです、例えそうだとしてもあなたがそこまで怒ることではないでしょう!?」
ばん!と両手を机について身を乗り出して詰められ副会長が慌てて首を振る。
「なんで俺が怒ることじゃねえんだ!あいつはっ、あいつは俺に『あこがれてるだの尊敬してるだの』言ってたんだぞ!?散々気にさせといて…それなのに他のやつとだなんて怒って当たり前だろう!」
「「「は、はああ…!?」」」
カッとなって一気に捲し立てた城之内を役員たちが一斉に見つめ、ポカンとした顔で全員に見られていることに気付いた城之内が怪訝な顔をして役員たちを見回す。
「なんだ」
「いや、なんだもなにも…それで会長、さっき食堂であんなに怒ったの?」
「そうだ!」
「もしかして急にやたら暴言吐いたり冷たくしたりしたのもそれ言われたから?」
「そうだっつってんだろ!定義がなってないだろう、そんなこと許されるか!?」
役員たちは呆れた顔のまま互いに目をあわせた。まさか、自分達の尊敬する会長が。
「なんの定義ですか…」
「ほ、本気で言ってるの?」
「会長…それって」
「失礼します」
役員たちが次々と城之内に話しかけたと同時に、生徒会室の扉がノックされた。入室を促すとそこにいたのは風紀副委員長で、どこか得意気に胸を張っている。
一礼して中に入ると、一枚の書類を差し出した。
「喜んでください。先程、あなた方が食堂から退去された後そこにいた全生徒から名村風紀委員長に対するリコール要請がありました」
「な…!?」
差し出された書類を乱暴に奪い取り、書かれている文面を読んでいる城之内の眉間にみるみるうちにシワが寄る。
「リ、リコールって…」
「あの後、名村は風紀委員長にふさわしくないと全生徒の意見が一致しまして。名村も大人しくそれに従い、黙って受け入れました」
「なんだと!?」
書類に目を落としていた城之内が大声をあげて顔を風紀副委員長に向ける。風紀副委員長はその勢いに多少驚きはしたが、すぐに背筋を伸ばし得意気に胸を張った。
「元々あの名村はこの学園の歴史ある委員長にふさわしくありませんでしたからね。我ら風紀委員一同も皆喜んでいます。あなた方の…特に会長のお陰です。跡は私が引き継ぐことになりました、ありがとうございます」
「な…!なんで僕たちのお陰なの?」
「そ、そうだ!特に俺とはどういう意味だ!?」
「え?それはそうでしょう?だって今までどこでも名村を皆様でふさわしくないと詰め寄っていたし、最後にはあんな全生徒の半数が集まる場であなたは名村に迫られたと明言して尚且つ不良とも関係を結び委員長自ら風紀を乱していると宣言したではないですか」
それが決め手ですよとさも愉快そうに口を歪める風紀副委員長を唖然として見つめる。
「…名村は、」
「リコール決定の集会が行われる二週間後まで自室謹慎となりました。なにも言わず大人しく黙ってみすぼらしく一人去っていきましたよ」
それでは失礼しますと副委員長が出ていき、誰もなにも発することなくただ気まずい空気が流れる。
「…俺のせい…」
ぽつりと城之内の溢した言葉は誰に拾われることなく、誰もが澱んだ水の中にいるようだった。
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