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「#幼馴染」のBL小説を読む
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6

その日から、役員たちの名村への当たりはますます強くなった。
城之内は、それに賛同するわけでもなくただその光景をいつも黙って見ていた。

『これだから平凡は』
『ふさわしくない』

役員たちの言っている事は間違っていない。間違っていないはずなのだと思おうとするのに、心の中が二分割されてしまっている。ただ、割れた片方が一体何を訴えているのかわからず…
いや、城之内の中の今までと変わらずいようとする片側が認めるなと止めるのだ。

以前より燻っていた名村批判の渦は更に本人の知らぬところで大きくなり、そしてそれから幾日かたったある日、お昼の食堂で最悪の事態を引き起こした。

それは、親衛隊が不良と揉めていると報告を受けた名村が訪れた時だった。
食堂の中央で幾人かの不良と親衛隊が対立しており、1番前にいる一人の不良が親衛隊の一人の胸ぐらを掴んでいた。

「テメエ、もう一回言ってみろ!」
「な、なんだよ!ほんとのこと言って何が悪いの!」
「やめろ!」

駆け付けた名村が親衛隊を掴む不良の手を離させ、二人の間に割って入る。不良は名村を見とめるも親衛隊を睨む目は揺るがない。

「どうしたんだ、落ち着け。こんな所で問題を起こせばお前が大変なことになるんだぞ」
「だって、こいつが…!」
「な、なんだよ!ただほんとのこと言ってただけじゃん!風紀委員長は平凡で能力もなくて相手にしてもらえないからってその立場を利用して何か弱味でも握って会長様に迫ってるんだって!」

「…は?」

食堂で大きく叫ばれたそれは名村が理解するのにかなりの時間を要した。
「まだ言うかテメエ!証拠もねえくせにでたらめ抜かすな!」
「きゃあっ!」
「!やめろ!」

何を言われているのかわからず、一瞬呆けてしまったがかっとなった不良が再び親衛隊に掴みかかる。ふいに勢いよく身を乗り出した不良に押され、名村はバランスを崩して食堂の床に倒れこみ、前に乗り出していた不良もその勢いのまま倒れた名村に躓きその上に押し倒す形に倒れこんだ。

「大丈夫か!?」
「い、いや、俺は平気…委員長こそごめん!大丈夫!?」
「俺ならなんともない。お前に怪我がなくてよかった」

先に倒れた自分よりも、その上に乗り上げてきた不良の心配をして慌てる名村はその無事を確かめるとほっとして顔を緩ませ不良の頭を子供にするようにぽんぽんと叩いた。

「…何をしている」

一瞬、空気が張りつめたかと思うと凛とした声が響く。
そこで初めて、名村はその姿勢のまま声が聞こえた方へ顔を向け、そこに立つ城之内が無表情にこちらを見つめていることに気がついた。

「城之内…、なんでもない、俺が」
「はっ、なるほどな。ソイツと出来ているのを手っ取り早く皆に見せつけようとしていただけか」
「え?…ぐあっ!」

そばまで来ると、立ち上がろうとした名村に嘲笑をぶつけ、言われた意味がわからず中途半端な体制のまま城之内へ顔を向けた名村の肩を城之内は思いきり蹴り飛ばした。

勢いよくすぐ後ろの机に体をぶつけ、その場に倒れた名村に不良たちが駆け寄る。

「委員長!…城之内ィ!テメエ何しやがる!」
「やめろっ…、ぅ、」
「委員長!」

城之内に食ってかかろうとする不良を止めると、名村は痛みに顔を歪めたが駆け寄る不良たちを制して立ち上がる。

「城之内…いくら生徒会長と言えど無害の生徒に暴力を振るうのは許されていないぞ」
「ハッ、無害だと?ふざけるな、たった今証明されただろうが!こんな食堂のど真ん中で学園のガンといちゃつくなんざ、テメエの方がよっぽど有害だろうが!あんなに…っ、あの時のお前は、あんな風に俺を…」
「城之内…?」

怒りに燃えた眼差しをふいに陰らせ、悔しそうに唇を噛みしめる城之内。どうしてそんな表情をするのか全く意味がわからず名村は混乱する。
横でその様子を見ていた役員たちも戸惑いを隠せないようだ。

暫しの静寂の中、城之内に名村が声をかけようと手を伸ばす。だがそれは触れる前にぱしりと叩き落とされた。そして、名村が問いただす間もなく城之内は急に駆け出しその場から走り去ってしまった。

誰もが一言も発することなく、今目の前で起こったことを理解できなかった。

会長はなんていった?
風紀委員長は何をした?

「ほら!聞いたでしょ!風紀委員長は会長に手を出そうとしたんだって!」

だが、そんな混乱した空気を打ち破ったのは先程まで不良たちと揉めていた城之内の親衛隊だった。
ざわりとにわかに食堂がざわめき出す。

「今、会長がおっしゃったじゃないか!『あの時あんな風に俺を』って!
それって、会長に風紀委員長が無理矢理迫ったってことでしょう!?」
「いや、なんのことか…」
「ほ、ほんとかよ…!委員長…!」

今度は真横から聞こえてきた驚愕の声に名村はぎょっとしてそちらを向く。そこには先程まで名村のことを庇い、心配していた不良たちが困惑した眼差しを向け、名村を見ていた。

「お、俺たち、風紀委員長はそんなことしないって信じて…、う、うそだよな…?」
「…嘘もなにも…」
「ほら!皆、聞いた!?今、風紀委員長が認めたよ!」

なんの話をしているのか全くわからない、と続けようとした言葉は親衛隊の叫びにより消えた。

ざわめきが段々と大きくなり、回りに不穏な空気が漂い出す。
名村にのみ注がれる、その場にいる皆からの視線はそれぞれ負の感情しか浮かべていない。


「…リコール」


誰かが、ぽつりと呟いた。

「リコールだ…」
「そうだ、リコールしよう。名村は風紀委員長にふさわしくない!」
「リコールだ!」

さざ波が風に吹かれ大波に変わるように、徐々に食堂中に声が上がっていく。それは教師が騒ぎを聞き付けてやって来る頃には食堂全体を揺らすほど大きな波となり、ただ名村はその場に立ち尽くすしかできなかった。

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