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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -




4

「失礼する」

ノックをして返事が返ってくると中に一声かけながら扉を開いた。中にいる面々は名村を一瞥してからその目に嫌悪と侮蔑を浮かべもう一度ちらりと名村を見た。
いつものことだ、と当の名村は意にも介さないといった態度で目的の人物の元へと歩を進めた。

「今日の分を頂きに来たんだが」
「…」

城之内は目の前に来た名村に向かい顔を上げると、無言で書類の束を差し出した。
差し出された書類を受け取りながら、名村は何か違和感を感じた。なんだろう、と首をかしげて気が付く。
城之内の視線がずっと自分から離されないのだ。しかも、真っ直ぐに自分を見たまま微動だにしないどころか全くの無言のままだ。
こんなにもずっと間近で城之内に見つめられたことなどなく、名村は顔に熱を集めないように必死だった。だって、好きな人に、見つめられているのだから。

「あの…城之内…」
「なぁにしてんのぉ〜、さっさと会長の前からどきなよ、めいわくでしょお〜」
「そうですよ、書類を受けとるだけで何をもたついているんですか、わざとですか?会長はあなたと違って忙しいんですよ。…ああ、もしかして実は会長に憧れていて厚かましくも高嶺の花である会長にのそばに少しでもいたいのですか?」
「い、いや…」

後ろから散々に罵倒する言葉を投げ掛けられ名村は困ってしまった。

「じ、城之内…手、手を…」
「…」

そうなのだ。副会長たちからはちょうど名村が城之内の前にいるので見えないだろうが、城之内が書類から手を離してくれないのだ。
素直にそう訴えた所できっと今度は嘘つきだなんだと責められるだろう。名村は小さな声で城之内本人に手を離してくれるよう訴えた。

「…そうなのか?」
「え?」
「その…お前は、俺に、あ、あ…こがれ…ていたりするのか?」
「あ、ああ…?…ぅん…?」

肝心なところが小さくてよく聞こえず、考えるような声を出したのを聞いた城之内は何かを堪えるように俯いて顔を背けた。

「そ、そうか…」
「…城之内?」
「…っ!クソッ!な、んだ貴様!そんな仕草見せてもなんとも思わねえぞ!気持ちわりいんだよクソ平凡風紀が!」

具合でも悪いのかと首をかしげ城之内の顔を覗きこんだ名村に真っ赤になりながら怒鳴る。
名村は瞬間、息を詰めたような表情をした。

「…すまない、次から自重する。手を離してくれるとありがたいんだが」
「…あ…、お、おう…」

それも一瞬で、瞬時にスッと無表情になって謝罪をして来た名村に今度は城之内がしまった、と言うような顔をしたが名村はそれを見ること無くくるりと城之内に背中を向けて生徒会室を出ていってしまった。

「…」

書類を渡す形のまま固まってしまい動けずにいる城之内に副会長以下役員たちが訝しげな、疑問に満ちた目を向けている。

「…なんだ?」
「い、いえ…、あ、あの、城之内会長があのような罵倒をするのは珍しいかと思って…」
「あのような…?」
「その…、『気持ち悪い』とか…」
「確かにかわいくはないけどぉ〜」
「…今まで、直接的な言葉を言ったことはないですよね…」

うんうん、と役員たちが頷くのを見た城之内は、しどろもどろと口ごもる。いつも自分の発言にはきちんとした理由や正論があるはずで、言い訳の出来ないその様子に役員たちはますます首をかしげるのだった。


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