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「#幼馴染」のBL小説を読む
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3

それから、一週間ほど経ったある日の事だ。城之内は放課後に一人旧生徒会室のある旧校舎の廊下を歩いていた。
もうほんのり薄暗く、理科室や家庭科室や資料室など普段あまり実用のない教室ばかりのある旧校舎はどことなく不気味だ。
早く用事を済ませてしまおうと足早に歩いていくと、目的の部屋へたどり着く直前の廊下の角から、何やらもの音が聞こえた。

「…誰かいるのか?」

声をかけるが返事がない。訝しく思いながら少し小さな歩幅で近付く。そっと角から覗き込めば、幾人かの生徒がそこにたむろしており、その中に名村の姿が見えた。
名村以外の生徒は皆どう見ても不良だ。

なんだ、風紀委員長自ら不良と密会か?

城之内は名村を失墜させるのにいい材料が手に入るのではと咄嗟に身を隠し会話に耳をそばだてた。

「なあ〜、名村委員長〜。たまには一緒に遊びに行こうよ〜」
「お前たちがきちんと規則を守るならな」
「守る守る!俺ら超いいこちゃんだし!」
「じゃあ今も大人しく寮の部屋に帰れるな?」
「ええ〜」

ぶーぶーと渋りながらも徐々に立ち上がり固まって歩き出す不良たち。
くすくすと笑いながらそんな彼らの背中を軽く押し、一人一人に言葉をかける名村の顔は普段の無表情からは想像もできないほどに優しく、またその柔らかな雰囲気に城之内はその思考回路を止めてしまった。

「そういやさ、委員長、生徒会にいじめられてんだって?」
「あ、俺もそれ聞いた!中でも会長がすげええらそうに上から物言って委員長をバカにするって聞いた!」
「あいつらあれだよな、この学校の腐った思想そのまんま正しいとか思ってるクソ野郎の集まりだもんな。どうせ見た目で判断して毛嫌いしてんだろ。見た目がいいやつは考えも正しいとか思ってるんだろ」
「委員長大丈夫?そんな委員長の中身をちゃんと見ようともしないバ会長俺らがシメてやろうか?」

各々好き勝手に生徒会をこき下ろす輩の言葉に城之内はかっと頭に血が上った。

こいつらは何を言ってるんだ。見た目がいいやつは自分に気を使いその評価を得ているんだ。見た目が悪いやつは所詮その見た目通りの下らない人間に違いないだろう。人に見られる努力をしていないやつを下に見て何が悪い!

「そんなことはないぞ」

思わず身を乗り出しそうになった城之内の足は、名村の一言にぴたりと止まった。

「確かに城之内は口調はキツいがな、それを言えるだけの実力がある。それ以上にそれに見合う努力をしているんだ。城之内は自分に課せられるプレッシャーをものともせずに悠然とそれを受けてこなす、すごいやつなんだ」
「え〜!委員長それ良いように見すぎだって!」
「実際さあ、会長は頑張ってる委員長をちゃんと見ようとしてないじゃん!」
「俺らみたいなどうしようもないやつ、ほっとくんじゃなくて対等にちゃんと相手してくれんの委員長だけじゃん!」

どうしようもないと自覚しているくせに何とかしようとしないやつらの相手なんかしていられるか!

「それは違う。きっと城之内はちゃんと話せばわかってくれる。だけどそう思わせたら俺が悪い。城之内に他の仕事に集中してもらうように、俺が勝手に役割分担してかって出てるだけなんだ。…お前たちと話すのは楽しいからな」

根が単純なんだろう。名村が笑いながら言えば不良たちは同じように笑い、『俺らも委員長と話すの楽しいぜ』なんて肩を叩きあった。

やがて不良たちがいなくなり、一人残された名村はすぐそばの窓の戸締まりの確認をしだした。
窓から差し込む夕日が名村を照らす。
その横顔が、なんだか消えてしまいそうに儚く、泣いているように見えて…
城之内はそんな名村の姿をただじっと見つめていた。


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