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6

「鉄二、頼むよ。落ち着いて、話をちゃんとしよう。な?」
「う…っ、ちゃんと、って、なに…っ、お、俺は、ただの身代わりだったって、ちゃんと言うの…?」
「だぁから、違うったら!なんでそうなんの!」
「だって!」

涙でぐしゃぐしゃの顔は、いつものつんとした鉄二の欠片もなくてそんな顔を見ても小さい頃のままだとすげえかわいいってきゅんとなっちまう俺はバカだ。

「し、知ってんだ。いぶが、鉄兄のこと、ずっと好きだったの。お、俺、覚えてるもん。初めて会った時、いぶ、鉄兄のことベッドに押し倒してた。あん時はわかんなかったけど、おっきくなって、あれはいぶが鉄兄を襲おうとしてたんだってわかって」
「わああああ!?」

そ、そんな昔のこと覚えてんの!?
確かにあん時ちょっとはいいなって思ったりしたけどあれは完全にただの悪のり的なもんで兄貴に対する対抗心とか中二病だったというか、
ああくそう!なんで俺はあの時あんなことを!幼い鉄二の心に残してしまうようなバカな行動をなんでしたんだ!

「それから、ずっと、大きくなってからも、いぶは何かって言うと『小暮さん小暮さん』って…、鉄兄と会うとすげえ嬉しそうだったり、話して楽しそうだったり、そ、んで、俺のこと、いつも鉄兄に似てるって…、それで、気が付いたんだ。いぶは、鉄兄が好きなんだろ?でも、桂さんともうできちゃってるから、似てる俺をいつも代用にしてたんだろ?」
「ちっがあああう!!」

なんって勘違いをしてるんだ!それはいただけない!絶対に全否定だ!

物凄い勢いで鉄二に迫れば、鉄二は驚いて目を見開いて固まった。

「違う、違うぞ鉄二!断じてない!ありえない!小暮さん見て嬉しそうだったり楽しそうだったりすんのはただ単純にもう一人の兄貴として好きなだけだしお前に似てるからだ!」
「な…、う、嘘つくな!だって、だって、大学に行った時だって、いぶは俺じゃなくて鉄兄とだけ連絡してた!」
「お前の様子を聞くためだ!お前はあの時小学1年だったろう?俺は大学で勉強やら課題やら実施やらで寮に帰るのは夜の九時とかそんなんばっかだったんだ。お前に直接連絡したくても、もう寝てる時間だったし休みの日だってお前は習い事で試合やらなんやらでいなかったり…だから、小暮さんに聞くのが一番手っ取り早かったんだよ。画像とかも送ってもらったりしてたし」
「…うそだぁ…」

多分、信じたいのとまだ疑ってるのが入り交じっているんだろう。さっきまでの勢いはないものの、それでもまだ首を振る。

「…だ、て…っ、俺に、話すとき、いつもいつも鉄兄がとか、比べることばっか…っ。お、俺、いつもそれ言われるたび、いぶは鉄兄が好きで、俺に鉄兄みたいになれって言われてるみたいで、それで、それで…」
「鉄二…」
「それでも、いいって、思ってたんだ。だけど、やっぱりイヤで、苦しくて…っ!」

ああ、それで小暮さんがと小暮さんの名前を出すたびに無表情になっていたのか。一番身近にいる人で、鉄二もなついていたし、見た目が似てると言う共通点のある人間が経験した事で得たものを例えに使えば納得するかと思っていたのに、俺がしてきたことは鉄二を傷付けていただなんて。

震えて泣く鉄二を、優しくそっと抱き締める。一瞬強張ったけど嫌がらないで受け入れてくれた鉄二の背中を幼い頃よくしたようにぽんぽんと叩けば、遠慮がちに額を俺の肩に着けてきた。

「…いつも小暮さんの名前を出してたのは、別にあの人みたいになれって意味じゃないよ。ただ単純に、あの人が自分がした嫌な思いを鉄二にさせたくないっていつも言ってるから、小暮さんはお前をこんだけ想ってるんだよって伝えたかっただけだ。あの人が手に入らないからお前を代わりに仕立てあげるためにとかそんな最低なことしようとするわけないだろ。
…むしろ、逆に近い」
「ぎゃ、く…?」

困惑と疑惑に揺れる瞳が、俺を捕らえる。その中に俺が望む光が見えるのは都合がよすぎかな?

「小暮さんが鉄二に似てるから、会って話したりするのも楽しいんだ。鉄二に似てる仕草を見つけてはにやにやしてさ、違うとこ見つけては『鉄二はこうだよな』ってにやにやしてた」
「え…」
「あのさ、俺の世界ってバカみたいに鉄二中心に回ってんの。俺が獣医を目指したのは、鉄二が初めて飼った金魚が死んでしまってからお前が祭りに行けなくなったから。初給料ででっかいペンギンのぬいぐるみを買ったのは、お前が幼稚園の時の発表会で、俺に見に来てほしいって泣いて電話掛けてきた時の演目がペンギンだったのと、その後俺とするペンギン親子歩きごっこにハマってたから。そんで、未だに割りとどこに行くのもチャリなのはお前が俺の後ろに乗る自転車が大好きだったから。それから…」

徐々に赤くなる鉄二の頬を、そっと撫でる。
ああ、この顔。

鉄二だ。
幼い頃俺に向けていたあの顔だ。

「…俺が地元に帰ってきたのに実家に住まずにここに住んだのは、お前の高校が近いから。お前がすぐに来れるように、お前をすぐに迎えに行けるようにだよ」
「ひ…っ、う、ぅ…っ、」
「ずっとずっと言ってたのになあ。言い過ぎてちゃんと伝わってなかったかなあ?」


好きだよ、鉄二。
お前があの日、自分のしでかしたことの罪の重さにどうしていいかわからなかった俺を抱き締めて一緒に謝ろうって言ってくれたあの時から。
無償の愛をくれたあの時から。


「代わりなんかじゃない。俺、もうずっとずっと鉄二一筋なの。ショタコン犯罪って言われようがなんだろうが、お前が三才の頃から好きなの。
鉄二、俺はうぬぼれるよ?お前が持ってるその気持ちが俺の気持ちと同じだって。
だから、12年分の片想い受け取りやがれ」
「…っ!い…!」


両頬を両の手のひらで包み込み、告白に目を見開く鉄二にキスをした。

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