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5

「鉄二!鉄二!」

大声で叫びながら町中を走り回る。回りの人間が奇異な目を向けてくるが構ってなんていられない。
どこに行ったんだ、鉄二。あんな様子で町に飛び出すなんて、格好のカモにされてしまうかもしれない。もし万が一鉄二に何かあったら…

考えるだけでゾッとする。
必死に嫌なイメージを振り払い、鉄二を探し回る。

「なんだテメエ、泣いてやがんのか?」

げらげらと下品な笑い声が聞こえて出元を探れば、なんだかやんちゃそうな学生が三人くらい誰かを囲っているのが見えた。

その真ん中に立っているのが鉄二だと気付いて真っ青になる。
だって、鉄二、なにもかもに絶望したような顔をして俯いている。どうしよう、もしどうなってもいいとか考えてたら。
だけど、事態はもっと深刻な方向に向いていた。次の瞬間にふと相手に目を向けた鉄二を見て俺は更に青ざめた。

だってあの顔、どうなってもいいと思ってるけど自分が何をされてもって顔じゃなく、相手に何をしてもって顔だ。
笹岡と七元が俺と仲良くなる前に、よくあんな顔をして暴れていた。

「なんとか言えよ、オラア!」
「だめだ、鉄二!」

相手が鉄二を挑発した瞬間、俺は鉄二の前に飛び出していた。
ガツン!と骨に太く響く音がして、脳がぐわんと揺れて、体がスローモーションのように傾いていく。

倒れる瞬間に見えた鉄二の顔は、幼い頃の泣き顔そのままだった。


「…!……!」

なんだろう。誰かが誰かに怒ってるような声がする。さっきの不良たちが鉄二に罵声を浴びせたりしてるのかな。
やめてくれよ、見た目は厳つくても誰よりも傷付きやすい優しい子なんだ。

「う…」
「!一颯くん!」

止めないと、と目を覚まそうとして眩しさに小さなうめきをあげながら体を起こそうとすれば、怒っていた誰かに体を支えられた。うっすら開けた目から心配そうな顔が見える。あ、小暮さんだったんだ。それにここ、俺の部屋?じゃあ怒られてたのは?

「鉄二!鉄二はっ?無事に…っ鉄二!」

慌てて目を開け、周りを見回すと俺のいるベッドから少し離れた所にいる鉄二を見つけてベッドから飛び下りて鉄二にしがみついた。

「…!」
「鉄二!よかった、無事で…!どこもなんともないか、痛いところは…って、いってええ!」

ペタペタと鉄二の顔やからだを触りまくって無事を確認する。
よかった、なんともないとほっとした瞬間に自分の頬にするどい痛みが走って頬を押さえながらしゃがみこんだ。

「一颯くん、大丈夫か!?」
「あれ?なにこれめっちゃ痛い!あ、そうか。あん時…」
「すまない、一颯くん。鉄二が本当にとんでもない事を…」

俺を支えながら小暮さんが眉を寄せて幾度も謝罪する。あの時、鉄二に暴力を振るわせたくなくて止めに入ったら鉄二のパンチをまともに受けちゃったんだ。心配させちゃって申し訳ない。こんな小暮さん見せたら兄貴にしばかれちまうよ。
安心してもらうためにそっと俺の肩に置く小暮さんの手に触れて、首を振る。

「いいんだ、小暮さん。心配させちゃってごめん。俺より、鉄二がなんともないならいいんだ。鉄二は怪我したりしてない?」
「…んで…」
「鉄二?」

鉄二を見れば、鉄二は小暮さん以上に顔を歪めて血が出そうなほど拳を握りしめていた。小さく何かを呟いて、何かを伝えたいのかと小暮さんから離れて鉄二に近付き顔を覗き込めば、鉄二はその目からぼろりと大粒の涙をこぼした。

「て、鉄二!?どうした、どこか痛いのか!?」
「やめ…っ、も、やめてくれよ…っ!」
「やめるわけないだろ!大事なお前に何かあったら」
「鉄兄に嫌われるからだろ!?」


………は?


いやいや、まてまて。なんでそこで小暮さんが出てくる?小暮さんに嫌われるからとか意味がわからん。いや確かに小暮さんも心配するしってのはあるけどそれは身内だから当然だろ?

「俺なんて、鉄兄の代わりでしかないくせに…!なんでそんな、俺を心配するふりするんだよお…っ!」
「はあ!?」

ぽかーん、とはこの事だ。何言ってんだ鉄二。小暮さんの代わりとか、心配するふりとか、なんでそんな風に思っちゃってんの!?

「も、いやだ…!いぶ、いぶは、鉄兄が好きなくせに…っ、」
「まてまてまて、ウェイトウェイト!落ち着け鉄二、誰が誰を好きだって!?」
「いぶは鉄兄を好きなんだろ!?初めて会った時からずっと鉄兄が…っ」
「いやいやいやないないない、ないから!」
「うそつき!」

とんでもない勘違いに詰め寄るけど、イヤイヤと頭を振ってちっとも聞いてくれない。
そこに自分がいたら余計に鉄二が聞かなくなるからと小暮さんは俺たち二人を残して部屋から出ていった。

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