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4

ちょっと早目についたけど、ここで待ってたら逃げられることもないだろう。誰もいない鉄二の学校の正門の前で地面に腰を下ろし、一つため息をはく。
もう一週間も鉄二の顔見てない。さみしい。早く出てこないかな、と考えていたらいつの間にかそのままそこで座り込んで寝てしまった。

しばらくして、なんだか回りが騒がしいのにふと気がついて顔をあげれば幾人かの学生が俺を遠巻きに見ていた。

「うおっ!?」
「…おにーさん、大丈夫?」
「不審者にしてはイケメンですね〜」

驚いて起き上がれば、少し離れて見ていたチワワみたいな男の子達があっという間に群がってきた。
やべえ、寝てた!こんだけ人がいるってことはもう放課後か!鉄二帰ってないだろうな?

「ちょっとごめん…」
「待ち合わせですかぁ〜?」
「僕ら案内しますよぉ」

やんわり断っても全然引き下がってくれない。高校の時もこんな感じだったっけ、こいつら可愛いなりしてやっぱり中身は男な上に結構肉食なんだよ!

「ほんと、人探してるから…鉄二!」

わらわら群がる子犬ちゃんたちの合間から、こっちを見ている鉄二が見えた。よかった、まだいてくれた!
こっちを見ていたから俺には気付いていたんだろうに、名前を呼んでも鉄二は表情を変えることなくただじっと俺を見ている。その顔に少し青あざや絆創膏があって、会わない間にまた喧嘩をしたんだと悟った。かわいい鉄二の顔に傷がついたことが悲しい。誰だ殴ったやつ、コロスぞ。

「ちょっとごめん、」

子犬をかき分け鉄二に向かって歩き出せば、
『え…もしかして小池の知り合い…?』
『あの不良の?』
とか、後ろからひそひそと鉄二に対する悪口が聞こえた。

「鉄二は不良じゃないよ。素直ないい子だよ。よく知りもしないのにそんなこと言っちゃだめだよ」

我慢できなくて振り返って子犬ちゃんたちににっこり笑ってそう言えば、子犬ちゃんたちは真っ赤になってもじもじとしだした。その後ろで、鉄二が泣きそうな顔をしたなんて気付かなかったんだけど。

「鉄二、行こう?」
「…」

うつむいたまま動かない鉄二の手を取り歩き出せば素直についてくる。よかった、振り払われなかった。鉄二が本気を出したら多分俺負けちゃうからね。

家に着くまで、俺も鉄二も何も喋らなかった。大人しく引かれるままに着いてきた鉄二を部屋に入れ、リビングまで連れていくと座らせてコーヒーを入れにいく。キッチンから鉄二の様子を伺えば、鉄二はそっとペンギンのぬいぐるみをつかんでぎゅっと抱き締めた。

「はい、おまたせ。砂糖とミルク多目だから」
「…」

ことりと二人分のマグカップを置き、定位置の鉄二の隣に座る。鉄二はぎゅっとペンギンを抱き締めたまま、いつもならしないのに俺からちょっとだけ離れてマグカップを手に取った。
そんな些細な事でめちゃくちゃショックを受けてる自分がいる。鉄二にいつの間にそんなに嫌われたんだろう。

「…鉄二、この一週間どうしてたんだ?」
「…」

沈黙がしばらく続き、いよいよ核心に触れる話を切り出すが鉄二は何も答えない。

「心配したんだぞ?いきなり走っていっちまってから連絡こないし、しても出てくれないし。何かやっちまったかなって今日我慢できなくて会いに行ったんだけど」
「…がまん、…?心配…?」
「あ?ああ、当たり前だろ?すげえ心配した」
「あ…」

さっきまで無表情だったのに、ふわりと嬉しそうな雰囲気になる。こういう所が素直でかわいいんだよな。やっぱりつっぱってても、まだまだ子供なんだな。誰かに心配されるのが嬉しいんだろう。

「小暮さんだってすごく心配してた。だめだろ?お前からしたらいちいち口出されてうっとおしいかもしんないけど、あんな優しい叔父さんに心配かけちゃ…」
「…!」
「お前が自分から仕掛けたりする子じゃないのはわかってるけどさ。小暮さんもな、高校の時までそれですごく嫌な思いしてたって、だから鉄二が余計心配なんだと思うぞ?」
「…せえ…」
「だからだな、ちゃんと小暮さんの言うことも聞いて…」
「うるせえっつってんだろ!」

ばすっ!と思いきりペンギンを投げ付けられて、受けきれずにテーブルの上に落ちコーヒーがこぼれた。液体がテーブルを伝ってぽたぽたと流れ落ちる音がしんとした室内に響く。
怒鳴り付けると同時に立ち上がってわなわなと震えながら俺を睨み付ける鉄二。何が起きたのかわからなくてあぜんとして見上げる。

「…っいつもいつもうるせえんだよ!てめえに迷惑かけたかよ!」
「迷惑なんて誰も言ってないだろ?心配してんだよ、お前その顔の傷また絡まれたかなんかなんだろ?」
「余計なお世話だ!誰も心配してくれなんて頼んでねえし喧嘩だって吹っ掛けられても負けねえよ!」
「今はそうかもしれないけどわからないだろ!?不意打ちとかお前より力あるやつとかにのし掛かられたら振り払えないだろ!そうなった時どうするんだ!」
「なるわけねえよ、てめえだって俺に力で負けるくせに!なった所でなんも困らねえし怖かねえよ!」

すっと自分の中が冷えるのを感じた。気がつけば無意識に俺は鉄二の手を引き、ソファに押し倒して両手を押さえ込んで上に乗り上げていた。
急に視界が反転して自分の体制がどうなっているのかわからず困惑してるんだろう。さっきまで苛立ちに歪んでいた鉄二の顔がきょとんとしたものになり、それから俺を見上げて怯えを含んだ顔色になっていった。

「な、なん、離せよ…」
「逃げてみろよ。なるわけねえし負けねえんだろ?」
「な…っ!…、ど、けよ…!どけ!」

自分でも信じられないくらい冷たい声が出た。鉄二の顔がますます青くなるのをどこか他人事のように眺め、暴れだした鉄二をさらに強く押さえつける。

「い、いた…」
「困らねえし怖くないんだって?よく言うぜ、んな小鹿みたいにぶるぶる震えてるくせに。ほら、振り払ってみろよ。こうなることも想定できんだろ、んで振り払ってんだろ」

なったらなったで困らない?中にはこうして押し倒して屈辱を与えてやろうってたちの悪い輩だっているかもしれねえってのになんでそんなこと言えるんだ。
俺以外のやつが鉄二に触れるだなんて、想像するのもムカついて許せない。
鉄二が固まっているのをいいことに、服の裾からするりと手をいれる。
綺麗に引き締まってすべすべの肌をゆっくりなで回せば、鉄二が目を見開いて俺を見て、じわりとその切れ長の目に薄い膜が張った。

「…っ!や、だ…!やだ、やだやだあ!やめろよ!いやだああ!」
「っ!」

本気で泣き叫んで暴れだした鉄二に、はっと我に返った。慌てて押さえていた手を離して上から下りると、鉄二は体を小さく丸めて自分の体を抱えてぶるぶる震えた。

「あ…、てつ、」

手を伸ばして触れようとすれば、一際怯えて体をすくませ大粒の涙をこぼし絶望したような目を俺に向けた。
大きな槍で突かれたかのように激しく胸が痛む。違う、そんな顔をさせたかったわけじゃないんだ。

「鉄二…っ!」

すぐに謝ろうとしたけれど、鉄二は弾かれたようにソファから飛び下り、呼び掛けに応じることなくばたばたと外に駆け出していってしまった。

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