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4

目が覚めて、ぼんやりする目で時間を確かめれば昼の11時に近かった。
…ああ、外出申請の時間過ぎちゃったなあ。まあいいか…。早く起きれたとしても、こんな体じゃ出掛けるなんて無理だったろうし。

背中では、まだ眠っているのか高見沢のすうすうと言う静かな寝息が聞こえる。

それを聞きながら、俺は漏れそうになる嗚咽を必死にこらえた。


目が覚めてからの高見沢はいつもいつもすごく優しい。動けない俺のために至れり尽くせりしてくれる。
すごく甘い顔をしていて、胸がいつもどきどきする。けど、今日はなんだか、その顔を見てホンの少し寂しくなった。


「バカやろうが」
「うう…返す言葉もございません…」

まともに動けるようになった休み明けから二日ほどたったある日の放課後、晴彦に会うのを極力避けていたのにばったりと廊下で会ってしまい目があった瞬間に腕を捕まれ近くの資料室に連れ込まれた。事の顛末はなにも話さなかったのに、気まずそうに目を泳がせているだけで何かを悟ったのかしばらく仁王立ちで睨まれた後の冒頭の台詞だ。

「お、ま、え、は、な…!本っとにバカでバカで腹が立つ…!」
「いたいいたいいたい!ごめんなさいてば晴彦ちゃん!てかなんでそんなおこなの!」

がしりとアイアンクローを決められ、容赦なくギリギリと絞められる。晴彦ちゃんてばインドア派の癖に握力パないわね。会長、背中傷だらけなんじゃないの?

「一人で抱え込むな、と何回言ったらわかるんだ。どうせお前の事だから自分のせいで俺と那岐の時間がなくなったらとか下らんことを考えたんだろう」
「う…、いや、そういうわけじゃ、」
「お前に言っても仕方ないな。ならやはりヤツに思い知らせるしかないな」
「やややめて!やめてあげて!」

思い知らせるって台詞、晴彦ちゃんが言ったらシャレになんないから!多少じゃすまないから!

「…千里、俺と那岐は気にするな。那岐はバカじゃない。ちゃんとお前の事を受け入れてるんだ。気を使う所はそこじゃない」
「…」
「わかったなら、ちゃんと言え。頼むから…俺の所に来い」
「…っは、るひこ…っ、」

顔面をつかんでいた手が頭に移動されて、強めに撫でられる。
なんで、なんでこの人こんな男前なんだろ。いつもと同じすっげえうっとおしそうな顔してるのに、その顔が誰よりも泣きそうで。こんな俺を、こんなに大事にしてくれるだなんて晴彦は奇跡だ。自分の事になるとちゃんとできない俺に、いつだって泣く場所を与えてくれる。高見沢と向き合うための力をくれる。

「なに彼氏の前で堂々とイチャイチャしてくれてんだカスが」
「四天王寺かいちょおおおお!」
「うわっ!」

潤んだ目で晴彦を見つめていたら、資料室の扉が開いて四天王寺会長が現れた。俺と晴彦を見るなり変わらずの罵声を浴びせられたんだけどかまわず俺が駆け寄ったもんだから会長は目を見開いて一瞬引いた。

「四天王寺会長っ!もう、晴彦を泣かせたら許さないんだからねっ!晴彦ちゃんは実家で預からせてもらいますからっ!」
「今現在きったねえ顔して泣いてるのはてめえだろうが!鼻水をつけるな!」

しがみ付いて噛み付けば、心底嫌そうな顔をして汚いものでも触れるかのように引き気味に俺を必死に引き剥がした。

「なんでここがわかったのさ、会長」
「晴彦の匂いがしたからな」
「へ、変態!」
「なんとでも言え。俺は晴彦限定で変態だ」

開き直りカッコヨさパネエ!
どや顔で言ってることはおかしいのに、めちゃくちゃ男前に見えた。
ため息をついた晴彦がとりあえず俺の部屋で待ってろと言うので、会長に頭を下げて資料室の扉へ向かう。

「安田千里」
「え?」

一瞬誰に呼ばれたのかわかんなくて、それが四天王寺会長だったからびっくりした。

「俺は晴彦限定で変態だ。だがな、それは俺だけじゃなく愛してるやつがいる男なら誰でもなるもんだ。だから、てめえの彼氏も変態だ」
「…あ、」

しっしっ、と猫でも追いやるように手を振られて、そのまま晴彦に送られて資料室を出る。後ろ手に資料室の扉を閉めた晴彦は疲れたようにため息をついた。

「…晴彦ちゃん、聞いてもいい?」
「ん?」
「か、会長ってさ、キチクじゃん。晴彦もだけど」
「そうか、絞められたいか」
「っ!のーのー、ギブギブ!」

頭にヘッドロックをかけられてぱしぱしと手を叩く。力は緩めてくれたけどそのままの体制でまだ頭は離してくれる気はないらしいのでまた絞められないように抵抗はやめておいた。

「…本気でいやがることはしないからな。それに…さっき那岐が言った通りだから…」
「…そ、かな、」
「那岐はバカだがな、そういう点で間違ったことは言わない。だから、信じろ」

じわり、じわりと二人分の優しさが胸にしみて鼻の奥が熱くなった。絞められてるから顔は見えないけど、きっと晴彦も真っ赤なんだろうな。

「ちょっといい?」

見たことあるチワワなかわいこちゃんに進路を塞がれ、校舎裏に連れていかれたのは晴彦と別れてすぐだった。

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