×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -




9

やわらかな肌着にくるまれ、ベビーベッドの上ですやすやと静かに眠る赤子の横でロルフは幸せに目を細めた。

「ロルフ様、少し一緒にお昼寝をなさってください」
「ありがとう」

ブルーノがロルフのベッドの掛け布団をベッドに入りやすいように捲り、促されるままロルフはベッドに体を入れて横たえる。

それを確認したブルーノが、布団をロルフに掛けたところでバタアン!と大きな音を立てて寝室の扉が開かれた。何事かと驚き2人そろって扉の方へと顔を向ければ、開かれた扉から幾つもの大きなプレゼントの箱と、ぬいぐるみが現れた。

「今帰ったぞ!さあ、お土産だ!好きなのであそぶがいい、我が息子よ!」
「おやめください」

ひょこりと大きな荷物の合間から顔を出したリュディガーは、ロルフの横、ベビーベッドへとそれらを抱えたままいそいそと歩みを進める。それを途中で立ちふさがり待ったをかけるのはブルーノだ。

「なんだ、ブルーノ!」
「なんだじゃありません!なんですかその大荷物は!先日も沢山のおもちゃをお買いになって、もうやめるように申したはずですが!」
「い、いや、しかし、」
「大体、ダンテ様はまだ生まれたばかりの赤子でリュディガー様がお持ちになっているおもちゃ達で遊ぶのはまだまだ先ですと申し上げたでしょう!それになんですか、先ほどの扉の開け方は!ダンテ様は今お休み中です、音に驚いてダンテ様が目を覚ましたらどうするおつもりです!?」
「起きているのか!?」

バサバサと大雑把に手にした荷物を置き、嬉々として我が子の元へ駆け寄ろうとしたリュディガーは、ブルーノに後ろから首根っこを掴まれリードを付けられた犬のようにつんのめる。急にしまった首元に離された直後、ひどくむせて思わず涙目になった。

「な、何をするっ」
「ダンテ様は眠っておられます、と申し上げましたはずですが?それからリュディガー様、お外から戻られました際手を洗ってうがいをされましたか?大事な大事なダンテ様にばい菌をつけるおつもりですか」
「わかった、わかったから!」

目は口ほどに物を言うとはいうが、ブルーノの目は無条件で土下座したくなるほどに冷ややかで有無を言わせぬ圧力を持っていた。主人であるはずのリュディガーはそんなブルーノにたじたじで、ロルフはそんな二人の様子を見てクスクスと笑った。

「ロルフ、体はどうだ?キツくはないか?」
「はい、大丈夫です。ダンテもよく飲んでよく眠ってくれますし、何よりブルーノがずっとよくしてくれるのでものすごく楽をさせてもらってます」
「そうか、ならいいんだ」

部屋の入り口にある消毒薬でしっかり手指を除菌してから、リュディガーはロルフに近寄り額にキスをした。

ロルフはあの時急に起こった陣痛に耐え、無事に息子を出産した。生まれた子はダンテと名付けられ、毎日リュディガーとロルフ、そして何よりブルーノが特に甲斐甲斐しく世話をしている。
初めて生まれてきたダンテを抱かせてもらった時、思わずこぼれ落ちた涙をダンテの顔に落とすまいと上を向き耐えるブルーノの姿を見てリュディガーもロルフも笑った。
生まれてきた子は、赤子ではあるもののあの時に見た少年に間違いがない。赤子でありながらに見目麗しく、溢れ出る魔力で体は銀色の光を纏っている。我が子を見てロルフは目を細め、あの時のことを思い出しては嬉しくなる。

出産してから実に多数の祝いが届けられた。初めは言わずもがな、イアンとレオンから。そして、城下町の皆から。ロルフがさらわれた時にリュディガーが鎮圧をした近隣の国々から。そして…祝いは、なんとアルベルトからも届けられたのだ。

丁寧な祝い状の中からは、さらわれた時の横暴な様子など微塵も感じることなく、アルベルトの使用人達からもアルベルトとは別に祝いが届けられており、そのどれもがロルフの出産を心より喜んでくれているもので、それら全てをリュディガーは当然とばかりになぜか得意げだった。

「迎えに行った時に言ったであろう。お前のことと彼の侯爵のことをよく知っていると。奴は以前の私によく似ていた。まあ、私よりも少しは世間知らずであったが、おまえと触れ合ってきっと変わると思っていたのだ。ブルーノもそうだったろう」

言外に自分の事をひどく褒められ、助けを求めるようにブルーノを見た。だが、話を聞いていたブルーノはその通りですと微笑み頷くので、恥ずかしくてむず痒くなって真っ赤になって俯く。
寛大な心でアルベルトからの祝いに目を通していたリュディガーも、祝いの中にロルフ個人へ送られたバラの花束を見てそれは全て使用人で分けろとひったくった。そして、庭からそれよりも大きなバラの花束を作り持ち込んで、『私の方が美しくこの部屋にふさわしい』とロルフのベッド脇の花瓶に飾ろうとして、あまりの量の多さにまたもやブルーノから大目玉を食らった。

ロルフは知らなかったが、どうやら吸血鬼にとってバラの花というのは特別なものらしく、それを送るのは特別な意味があるのだそうだ。

「今からロルフ様はダンテ様と少しお昼寝をされる予定でしたので、リュディガー様もご一緒にどうぞ。仕事の段取りはこちらで調えておきます」
「おお、そうか。ならば…」
「ただし!」

ブルーノの提案にぱあっと明るい顔をしたリュディガーに、ブルーノがずずいと迫る。

「な、なん、」
「リュディガー様、ロルフ様は産後でお体が大変なときです。く、れ、ぐ、れ、も!変な気を起こしませぬよう!」

ぴしゃりと釘をさして出ていったその扉をリュディガーはなぜバレたと言わんばかりに唖然として見つめた。ロルフはくすくすと笑いながら、リュディガーの背中をそっと撫で、我に返りもそもそと潜り込んできたリュディガーを優しく抱き締める。リュディガーもそれに応えるべくそっとロルフの体を包み、互いに慈愛の笑みを浮かべ見つめあった。

「お前のことは信じていた。信じてはいたが…万が一を考えなかったわけではない。すぐに助けに行けず、すまなかった…」
「いいんだ。俺も、リュディガーを信じていたから。だから、あの時パニックにならずに冷静でいられた。俺こそ、最後の最後で、ダンテを危ない目に合わせてごめんなさい」

あの時、とロルフは目を閉じて続ける。

「…ダンテは、俺を守ってくれたんだ。守るべきはずの子に俺は守られた。俺、この子を見たんだよ。まだお腹にいるこの子が、魔力でその姿を作り出し俺の目の前に現れた。本当に美しくて、とても勇敢で…リュディガー、あなたにそっくりだった」
「私はお前にとても似ていると思う。柔らかで美しい魔力がお前にそっくりだ」

顔を見合わせた後、ふふ、と笑いわずかな隙間でさえも惜しいと抱きしめあう。
すやすやと小さな吐息と、リュディガーの暖かな心臓の音を聞きながらゆっくりと深い眠りに誘われる。

その体に流れる血を確かに受け継ぐダンテは、いつか父であるリュディガーと同じように、母であるロルフのようにその血で誰かと誓約を交わすのだろう。

自分たちがそうであるように、幸せになる誓約を。
その先も、そのもっともっと先も、永遠に未来の子供たちへとつながりますように。


end

[ 172/215 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



top