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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -




6

――――ガカッ!!


「グオアァッ!」
「!」

ロルフとアルベルトの間に激しい稲妻の閃光が走り、アルベルトは吹き飛ばされた。稲妻はロルフの全身を包み、まるで何人も触れることは許さないとばかりに威嚇して光る。
そして、稲妻はロルフの前で固まり、一層の光を放ち、やがて小さな人形を作り、その中心には、

「…坊や」

金と銀の髪、赤と金の瞳、大きく、だがキリリと流れるような涼しげな目。まがうことなき、リュディガーに似た小さな子供はロルフを振り返りにこりと微笑んだ。

「き、さま…!」
『…ママニテヲダスコトハユルサナイ。パパヲオトシメルコトハユルサナイ』

アルベルトにその意識の塊を向けると同時に、ロルフを包む稲妻が更に大きく激しく光る。己に向かい今にも走ろうとする稲妻に一瞬命取りとも言えるほどに見入ってしまったアルベルトは、その先にいるロルフを目に入れた瞬間に己の血がカッと熱くなるのがわかった。

リュディガーとの、子供か…!

理解すると、一気に激情が跳ね上がる。
ロルフを守る意識の塊に、己の覇気を全てそちらへ向け放とうとしたその時。

「だめ…!」
『…ママ』

己を守る子を、後ろから包み込むようにロルフは抱き締めた。ロルフが抱き締めると、ロルフの子はその腕を甘えるように掴み、ロルフの頬に子犬のようにほほをスリ寄せふわりと消えた。
同時に、ロルフが月に向かい赤き目を大きく見開き、ひときわ大きく長く咆哮する。

「グルルアアア…!」

花園の木々で静かに眠っていた鳥たちが一斉に飛び立つ。メキメキメキ、と骨がきしむ音と共にロルフの体は大きく膨れ上がり、髪は逆立ち、茶色だった髪は水が流れるように銀に変わる。
前のめりになると同時に地についた腕は後ろ足と共に力強く土を踏んだ。

「オオオォ――――ン」

月の光を浴びながら立つその姿に、アルベルトはひとときの間目を奪われた。

「銀狼…!」

ワーウルフの中でも最高クラスと言われる銀狼。アルベルトも噂にしか聞いたことはないが、ワーウルフを見下す吸血鬼一族でさえもその毛並みの美しさには一目を置くと言われていた。まさにその銀狼を目の前に、アルベルトもその美しさに息をのむ。それがロルフであると理解すると、全身の血が逆流したかのごとく心が昂った。

―――すばらしい!

心の高揚のままに手を伸ばせば、銀狼がじりりと一歩下がる。次の瞬間には、驚異的な速さでアルベルトの前から姿を消した。
どこへ、と一瞬焦り、すぐ我に返り気配を追う。まるで銀の弾丸のように花園の閉ざされた門へと駆ける姿を確認するとアルベルトは慌てずにマントを漆黒の翼に変え、一息深呼吸をすると矢のようにロルフの後に向かって飛んだ。

「は、ははははは!どこへ行かれますかな、奥方様!」

いくら最高峰のワーウルフとはいえ、トップクラスの吸血鬼の気を破れるはずがない。自分ではこの城から逃れることができないとロルフ自身も知っていたはずだ。だからこそ大人しく捕らわれていたはずだろうに。
自分よりも大きな気に飛び込めば、いかに人狼といえどただではすまない。大ケガをするだろう。
そうなれば、鎖に繋いで飼ってやろう。あの美しき銀狼は消してしまうには惜しいと、アルベルトは内心ほくそ笑んだ。

――――ロルフの後ろ、二メートル程の距離に迫る。

『この子は、俺が守る…!』

一際大きな咆哮に大気が揺れる。花園の扉前の空間が咆哮に呼応するかのように波紋のように振動を伝え、次の瞬間にはアルベルトが張り巡らせていたオーラの壁が粉々に砕け散った。

「なに…!?」

アルベルトの目が驚愕に開く。壁が砕け散ったと同時にロルフが地を大きく蹴り、月に向かい飛び上がる。

「まっ…、――――!」

待て、と言う制止の言葉は最後まで音になることはなかった。

「――――随分熱烈なお出迎えだ、我が妻よ」

ロルフの飛んだ先、青く輝く月を背にマントをたなびかせ悠然とそこにあるのは、リュディガーだった。

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