×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -




4

リュディガーの治める国の端、広大な土地が広がり豊かな田園の風景を眼下にロルフはそこを治める、己を抱える領主を見た。

ほどなくしてたどり着いた先は豪華な城で、己のすむ城と変わらない。

ゆっくりと床に足を下ろされ、一室へと促される。

「あなたは大切な客人ですのでね。こちらの部屋をご用意させていただきました」

ぐるりと自分に宛がわれた部屋を見回す。
キッチン以外のすべてが備えられた申し分のない豪華な部屋だ。

窓がない以外は。

「なに、あなたの御主人次第ではすぐに帰れますよ。…御主人次第では、ね」

ごゆるりと、と深々礼をして、牢獄の扉が閉められた。
小さく息を吐き、ベッドに腰掛けそっと己の腹を撫でる。

己の腹を撫でながら、この子はなんと頭のよい子だろうかと思った。もしあの場でロルフが抵抗した場合、恐らく彼はなんの躊躇もなくロルフの手足の自由を奪っただろう。そして、ロルフが抵抗せずとももしこの子が以前見せたように彼に攻撃をしていたなら、この子は今ここにはいないだろう。

あの若い吸血鬼が少し前にリュディガーの言っていた年若き領主なのだろう。見た目、実力ともにかなりのものであるのは一目瞭然だ。ヴァンディミオン家直属の執事であるブルーノに全く気付かれることなくああも容易く城に侵入するものなどそうはいない。

だが、それ故に浅はかであるとロルフはため息をついた。

恐らく、彼は挫折や敗北を味わったことがないのだろう。故に、己の力を過信してリュディガーに物申していたはずだ。
きっと交渉に応じないリュディガーに対し、自分と言う担保と引き換えに己の我を通すつもりなのだろうが…

今まで、城に侵入するものなどいなかったのは、確かにブルーノの力が大きい。だが、それと同時に皆知っているからだ。リュディガー・ヴァンディミオンと言う王の恐ろしさを。

「リュディガー…」

愛する夫は、恐らく彼を許しはしないだろう。
リュディガーに、例えどんな理由があろうとも誰かを手にかけるような真似をしてほしくない。

自分にできることなどないかもしれない。だけど、この軟禁の間にうまく城ではなくリュディガー本人の元へと戻れるようにしなければ。

「…大丈夫。俺が守るから」

ロルフの心を感じ取ったのか、とん、と腹の子が軽く中からノックをした。


「おはようございます」

夜が明けて、部屋の扉がノックされ返事をすれば屋敷のメイドが現れた。

「朝食の用意ができております、どうぞ」

機械的に淡々と告げる彼女からはまったく生気を感じられない。連れられて屋敷を歩く中、所々で屋敷の使用人とおぼしきものたちとすれ違うが、その誰もがまるで人形のようだった。
メイドに着いていきながら見る屋敷の中は、広く明るいはずなのにやけに寒々しく暗く感じた。

「おはようございます、妃殿下。よく眠れましたかな?」

食堂につけば、すでに主であるアルベルトが卓についていた。ロルフがメイドに促され席まで行くと、立ち上がり椅子を引いてエスコートする。
二人揃って席につけば、すぐに朝食が運ばれてきた。本当に客人として扱うらしい。

静かに始まった朝食会に、飲み込む食事はあまり味を感じなかった。

「さて、これからのことですが」

食後のコーヒーを口にしながら、アルベルトが切り出す。持っていたカップを皿に戻し、顔をあげればにこりと微笑みを向けられた。

「昨日も話しました通り、あなたは客人です。この屋敷のどこへいっても構いませんが、くれぐれもここから出ていこうとはなさらないことです。互いに無駄な争いはしたくはないものでしょう?」

悠然とカップを口につけるしぐさからは余裕しか感じない。
ロルフは静かにアルベルトを見据えた。

「…いつまで」
「それほど長い期間ではありませんよ。…そうですね、今彼が…、
おっと失礼」

一匹のコウモリがどこからともなく現れ、アルベルトの肩に留まる。なにかロルフには聞こえない超音波で会話をしているらしく、報告を受けたアルベルトはそのまま急用ができたと席を立った。

一人残されたロルフはため息を隠せない。自分も静かに席を立つと、食堂を後にする。
出ていく際にそばで頭を下げる使用人たちに礼を言えば、感情の見えなかった者たちが表情を変えずに驚愕したような雰囲気がうかがえた。

[ 167/215 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



top