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3

時は穏やかに過ぎていくはずだった。
事実、ロルフの妊娠経過は順調そのものでいつ生まれてもおかしくはない。

そんなロルフとは反対に、リュディガーは交渉がさらに難航し目に見えて疲れているようだった。

まるで何かに触発されたかのように、リュディガーの治める国の近隣で小さないさかいが起きるようになっていた。今日もリュディガーは小さな近隣の両国で揉め事が起きているからと呼ばれ、帰りはいつになるかわからないと告げていた。

夜半過ぎ、未だにリュディガーの帰る様子はない。一人広いベッドの上で夫の無事を祈り月を見上げる。ゆらゆらと夜空に浮かぶ月はまもなく満月となる。
せめて、帰ってきたときにゆっくり疲れを癒してもらいたい。
魔物の中で万能薬と言われる月光草をお茶にして、眠る前にリュディガーにとキッチンに向かう。ポットとカップを手にキッチンから戻る最中、ロルフは寝室から不穏な気配を感じた。

ロルフたち人狼は、耳と鼻がよくリュディガーやブルーノでは気付かないような気の乱れなどをいち早く察することができる。
相手は気配を完全に殺しているようだ。これでは一階にいるブルーノは気付かないだろう。

1歩進み、寝室の扉に手をかける。そっと開けば、ベッドのそば…大きな窓のふちに悠然と立つ黒い影。

「今宵の月は一段と美しいですな」

静かに発するその声に、ロルフの全身が逆立ち耳がぴんと立つ。

「初めまして、ヴァンディミオン妃殿下。私はアルベルト。
アルベルト・クリストフ・ダールマイアー。以後お見知りおきを」

ゆったりとした動作で恭しく礼をする男は、その柔らかな物腰とは裏腹に黒い邪気を纏っていた。頭の先から尻尾の先まで突き抜けるほどの緊張感。背を向けて駆け出さず、その場に面と向かい合うロルフの態度は正解だったろう。

「…言う通りにします。ですので、この家の者には手を出さないでください」
「さすがは王妃…よく理解なされましたな。いいでしょう、ではこちらへ」

レディをエスコートするようにロルフの手をとる。
その瞬間、ロルフはアルベルトに抱えあげられ夜空に消えていった。


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