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2

ある日、リュディガーが疲れたようにため息をつきながら屋敷に戻ってきた。部屋のリクライニングチェアにぎしりと背を預け、天井を仰ぎ目頭を軽くおさえている。
ロルフはそんなリュディガーの後ろからそっと労るように腕を回した。

「大丈夫?」
「ああ…、少し交渉が難航していてな。なかなかに話の通じない相手で困っている」

詳しくは聞かされてはいないが、リュディガーは先月より他領地の領主から領土拡大の申請を受けているらしかった。数百年前ならば争いによって奪い奪われていた土地、力の強いものが支配する吸血鬼の世界を、ロルフと婚姻を結んだ今リュディガーは力ではない統治を進めている。

以前の恐怖支配ではないやり方に吸血鬼一族は戸惑うものも多かったものの、賛成の声も多く聞く。それはひとえに誰よりも強くありながら妻を迎えたことにより守るべきものの強さを知ったリュディガーの絶対的王者であるカリスマ性と言うべきか。

だが、そんな中でもそれに対して付け上がったり、伴侶がワーウルフであることからその立場を奪わんと誘惑を持ちかける輩もいる。

今回、領土拡大を申し出てきた領主はリュディガーによれば父から受け継いだばかりの新領主で、年も若く血気盛んで己の力に自信を持っており、向こう見ずな所のある吸血鬼なのだと言う。
以前のリュディガーならば、完膚なきまでに叩きのめし屈服させていただろう。だが、その領主は噂には聞いているものの実際に冷酷であった頃のリュディガーと相対したことがないらしい。故に、今の温厚なリュディガーしか知らない新領主はリュディガーが穏便に話し合いで事を進めようとするのをどこか挑戦的に返してくるのだと言っていた。

「力で捩じ伏せるのは簡単だ。だが、よき方向へと変わり始めたこの世界をまた元の闇に戻したくはない。なんとか話し合いで済ませたいものなのだが…」

片手を伸ばして、後ろにいるロルフの頭に手をやりそっと自分に引き寄せ、口付ける。

「…力だけでは手に入らぬものもあると知った。やつにもそれをわかってほしい」
「リュディガー…」

どちらからともなくふいに唇を寄せ、次第に深くなるそれにロルフの呼吸が乱れだす。
リュディガーは息苦しさに逃れようとするロルフを己に引き寄せ、そのまま軽く抱き上げ自分のひざの上に倒し逃さぬよう覆い被さりキスをした。

「まっ、リュディガー、待って…」
「…ロルフ、」

いとおしいと、だが確実に欲に濡れぎらつく眼差しでロルフを縫い止めたリュディガーはロルフの服の裾から脇腹に手を這わせる。
その瞬間

バチイッ!

「うおっ!」
「うわっ!」

リュディガーの撫でていた腹から、大きな何かが爆ぜたような音と共に、腹を撫でる手に向かい魔力が放たれた。
リュディガーはじん、としびれる我が手とロルフ、そしてロルフの腹を見比べ、驚愕に染まっていた顔に喜色満面の笑みを浮かべた。

「見たか、ロルフ!今の魔導波を!なんという子だ、まだ生まれぬうちからこのような強力な魔力を放つことができるとは!ブルーノ!すぐに来い!」

嬉々として笑いながら手を叩き、主人のもとへ現れたブルーノに祝いの準備を命ずる。リュディガーは鼻唄を歌いながらロルフに軽くキスをして、くるくると回りながら上機嫌に少し買い物に出ると出ていった。

「…あの方は、ご自身がお子さまからロルフ様に害をなそうとしていると判断されて攻撃されたと気付いておられるのですかね…」

浮かれすぎておかしくなった己の主を憂いてブルーノがため息をつく。

「本当に変わられました。あのままでは生まれたお子さまに激甘なバカ親になるでしょうね」

そう言いながらもブルーノはひどく嬉しそうだ。ロルフは自分の腹にそっと手を当て、我が子に心で語りかける。

『…俺がひどい目に遭うとでも思ったんだね。ありがとう、でも大丈夫だよ。お父さんはいつも俺を大事にしてくれる。守ってくれる。そしてお前のこともだ。愛してるよ…愛しい子』

ロルフの心に答えるかのようにぽこぽこと腹の中から小さな振動が伝わる。そしてそこから先程とはまた違う、温かな回りを全て包むような魔力が溢れる。

「ブルーノ、みて。すごくいい子だよ」
「あ…」

傍らに立つブルーノの手を取り、己の腹に当てる。

「坊や、これはブルーノだよ。俺たちをいつも労って大事にしてくれる。とても助けてくれるんだ。君のことも今からとても大事にしてくれているんだよ。生まれたらたくさん遊んでもらおうね」

急なことに困惑するブルーノの手のひらから、ロルフの語りに応えるかのように温かな魔力が伝わる。

「…次期主様、よろしくお願いいたします」

なんと幸せな、心地好い力なのだろうか。ロルフと腹の子の温かな魔力に包まれ、涙を浮かべたブルーノの後ろの扉から、両手一杯に赤ちゃんのおもちゃを抱えたリュディガーがブルーノに大目玉を食らうのは数秒後だった。

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