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3

廊下を歩きながらお腹のなかがなんだかもやもや。
会長がもらうって言った一言が忘れらんない。
確かに、ルイくんはすごくかわいいもんね。おっきなお目目に、ぷっくりとした薔薇色のほっぺして、さらさらの染めてないけど茶色がかった髪の毛とか、小さくてちゅんと上がったまるでキスでもねだってるようなつやつやしたぴんくのお口とか。

それが会長の腕の中にあることを想像してなんだか余計に悲しくなった。

「あ、会計様!こ、こんなところにお一人でどうしたんですか?」
「あ、ううん。お散歩だよ〜。きみは?」
「えっ?あ、ぼ、僕はその、たまたま廊下を歩いていたら、会計様をお見かけして…、その、」

下を向いて歩いていたら、前からきた小さい可愛らしい子に呼び止められた。顔をあげてにっこり笑って応対すれば、お顔を真っ赤にしてなんだか期待したような嬉しそうな顔。

「…このあと、ひま?」
「…!は、はい!」

すべすべのほっぺたにそっと手を滑らせてにっこり笑えば真っ赤になって大きく返事をした。


ベッドで横になりうっとりと俺を見つめる子の頭を軽く撫でる。あれからすぐに部屋にかえってえっちしたんだけど、今日はルイくんに突入されなかった。
それにほっとするはずなのに、なんだかすっきりしない。気持ちよかったのに、なんでだろ。

もう一回ヤったらもっとすっきりするかなあなんて少し期待した目を向ける子に顔を近づける。

「失礼します」
「きゃあ!」

もうすぐ口が触れる、というところで寝室の扉が開かれた。顔を向ければ、やっぱりそこにいたのはルイくん。
じろりと大きなお目目で睨まれて、焦ると同時になんだかちょっとだけほっとしたような気がした。
さっきまで甘い雰囲気だったかわいこちゃんが慌てて服を着替えて出ていく。二人きりになってちょっとあせたらたら。
ちろん、と上目使いでルイくんを見れば、そのかわいいお目目がキリキリとつり上がった。こわい。

「…栄さま、僕が言ったこと覚えてますね?」
「…はい…」
「じゃあ!どうして!今!あなたは裸なんですかね!」
「ごめんなさい!」
「こないだもそう言いました!」
「だって!」
「だってじゃありません!」

腕を組んで仁王立ちになって、きゃんきゃんと吠えるルイくんに体が縮こまる。チワわんここわいよう。

「る、ルイくん、今日は遅かったね。どこ行ってたの」
「なに話をすり替えようとしてるんですか。ていうかなんですかそれ、あなたは僕に行為の真っ最中に来てほしいんですか、僕にそんな趣味はないですよ」
「そ、そういう意味じゃないよ!」
「とにかく!さっさとお風呂に入って来てください!その間にシーツを取り替えます、嫌ですけど。すっごくいやですけどね!」

ぷりぷり怒るルイくんの横をそそくさと通りすぎてお風呂に向かう。シャワーを浴びていればすりガラス越しにルイくんが洗濯機にシーツを入れようとしてるのが見えてなんだかちょっとだけよくわかんない感覚が心臓の辺りをうずまく。

俺と誰かの情事のあとのシーツを、どう思ってるのかな。さっき
『すっごくいやですけどね』
って言ってたの、どういう意味なのかな。
そう考えると自分が何を知りたがっているのかわかんなくて余計に頭がこんがらがって、シャワーを顔面に思いきり当てた。

「ですから、僕はそんな気は…」

お風呂から上がるとルイくんは誰かとお電話中。
じっと見てれば俺に気づいたのか慌てて挨拶をして電話を切った。

「今紅茶を入れますね」
「ねえ、今の誰?」
「…えっと…」
「俺に言えない相手?…彼氏?」
「ちがいます!僕に彼氏なんていません!」

彼氏、って聞くときにやけに嫌な汗をかいた気がする。シャワー浴びたばっかりのはずなのになんかすっきりしなかった。自分で聞いておきながら即座に否定されたことにほっとする。でも、さっきの電話じゃちょっと困っているような感じだった。

「じゃ、だれ?」
「…会長です」
「は?」

会長?会長って、あの会長だよね?なんで会長がルイくんに電話かけんの?

「なんで?」
「大したことじゃありません。そんなことより、」
「俺には言えないことなんだ?」
「栄さま…」

はぐらかそうとしたルイくんにいらいら、むかむか。ついつい口調がいつもみたいじゃなくキツくなっちゃう。
だって、会長との話なら俺に言えないなんておかしくない?

「ほんとに大したことじゃありません。ただ、…自分のところに来ないかと言われただけで」
「…会長の?親衛隊に?」
「あ、で、でも、断りました!ずっとお断りしてるんです、だって僕は」
「へえ、会長に誘われてたんだぁ。知らなかったなぁ、俺にあんなに下半身ユルいって怒ってるのに自分は俺よりユルい会長のお相手するんだぁ」
「!してません!」
「今日も来るのが遅かったのって、会長のとこ行ってたの?」

黙って唇を噛んだってことは肯定だ。
さっきよりももっとずっとむかむかが酷くなって、いらいらして爪を噛む。

「も、いい。帰って」
「栄さま」
「帰ってってば。俺の親衛隊なんでしょ?俺のいうこと聞けないの?」
「…失礼します。夕食の用意は…冷蔵庫に入ってますので…」

ぷい、と顔をそらした俺に深々と頭を下げてルイくんは部屋を出ていった。ぱたんと扉が閉まる音が聞こえてからもしばらく何も考えられなかった。
喉が乾いて冷蔵庫を開ければ、中にある料理が目に入る。
キレイにお皿に盛り付けられた状態で置いてあるそれは全部俺の好物ばかり。
なんでなの、ルイくん。俺の好物たくさん知ってるくせに、おれのえっち止めるくせに、なんで会長なんかに誘われてるの。

水をがぶりと飲んでも、潤った気がしない。さっきかわいこちゃんときもちいーことしてもやもやすっきり欲求不満も解消されたはずなのに、喉も心も乾いたまんまのような気がした。

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