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千里とようやく結ばれた俺は、若干スキップ気味で冷蔵庫にあるドリンクを取りに行く。途中でインターホンがなり、誰だろうかと思いながら開けた先には、野原がいた。
「これを千里に渡せ」
差し出されたのは痔の薬と円座というやつで、なにもかもお見通しかと少しにやついてしまった。
だけど、その後に続いた野原の話は、かなりショックなものだった。
あいつ…『相談にのる』と言って、今回の作戦を立ててくれたあの子は、俺を狙っていたんだそうだ。
昨日、俺を引き留めている間に自分の知り合いのあのチャラ男に、千里を犯すように頼んだんだそうだ。
千里の性格からして、もし万が一にもそれが現実のものとなっていたとしたら、俺に別れを告げただろう。それだけじゃない、間違いなく自分を責めて責めて…恐らくは学校をやめて、俺の目の前どころか野原の目の前からも姿を消し、二度と誰も千里を見つけることはできなかっただろう。
野原は事前にその事を知っていたから、俺が止めなくても野原が止めていただろうしきっと最悪の事態になることはなかっただろう。だけど、あの時俺がついていかなければ二度と千里に会えないだろうと思ったことに関しては間違いはなかったわけで、絶対になかったとは言え計画されていた事柄にぞっとする。
「大体において、自分の非を考えようともせずに他人に頼ろうとするからそういう目に合うんだ。貴様が千里の事をきちんと考えてやれていれば起こらなかった事実だ。千里を大事に思うなら…もっと話し合え」
お前も千里も、自分の中でだけ消化しようとしすぎる
相も変わらずに芯を突く野原の言葉は、呆れは含んでいるもののどこか安心した色を含んでいた。
野原は、俺の事を心底嫌いだという。千里がなぜ俺をそこまで盲目に近いほど愛せるのかわからないと。
俺も…そう思う。
前回といい、今回といい、こんなにも自分の事しか考えない俺を一途に思う千里は俺にとっての奇跡だ。
その奇跡を、ずっと、この先も…
俺の奇跡でいてくれるよう、願わずにはいられない。
千里の元へ戻った俺は、ありったけの愛を込めて千里を抱き締めた。
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