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6

涙の跡の残る頬をそっと撫でると、その温かさにじわりと胸が熱くなる。そこにはこれほどまでに泣かせてしまった後悔もあってシクシクとしみるような痛みが混じり、無防備に眠る千里が愛しくて切なくて、その暖かな頬にそっと唇を寄せた。

千里と恋人同士になれた俺は、それまでノーマルだったのが嘘にようにここ最近ずっと千里に欲情していた。猿と罵られてもいい、それぐらい千里の一挙一動全てに煽られた。ただの同室者だと、友達だと思っていたときにはなんとも思わなかった千里の仕草、ただ歩くその後姿だけでも左右に動く尻に目が行く。こんなエロ可愛い男をよくなんとも思わず放っておいたものだ。

キスは散々していたけれど、いざ一線を越えるのはなかなかに難しい。
それもそのはず、千里は腐男子ではあるが男どころか女とも付き合ったことなどないと言う。

対して俺は、実は童貞ではない。男は経験したことがないが、女は結構経験している。それこそ初めての女も。
どの子も大事にはしていたけれど、千里はその非じゃないほどに大事にしていた。
一度、初めてそういう雰囲気になったとき、千里に拒まれた。笑ってごまかしてはいたけどふるえているのは丸わかりで、怖いんだと気付いた俺は無理には行為に及ぼうとは思わず千里がその気になってくれるまで何時迄も待つ気だった。

けど、悲しいかな、一度でもそういう行為を覚えている俺は千里に拒まれるたび『いくら初めてでもそこまで怖いものなのか?』とか、そんな風に思う気持ちがどこかにあった。

そんなある日、部屋に戻れば千里が先に帰ってリビングのソファでくつろいでいた。ちらりと一度見て、思わず二度見した。千里は、暑かったのだろうかタンクトップにショートパンツという出で立ちでうつ伏せに転がっていたのだ。
クッキリと形が張り出されているプリンとした尻に目が釘付けになり、思わずゴクリと喉を鳴らす。

「千里…」

小さく名前を呼んで覆いかぶさってキスをすれば、初めは驚いて目を見開いたもののすぐにとろんと溶けて伏せられた。
角度を変えて啄むように口付けるたび、小さくくぐもった声を出す千里に一気に体が熱くなる。
千里の体をひっくり返し、向かい合わせにさせてからぐっと後頭部を掴み、啄むだけだったその口を貪るように塞ぎ、口内を蹂躙した。

急に激しくなった口付けに驚いた千里が目を見開いて体を引こうとした。だけど、そんな小さな抵抗が更に俺を刺激して弱々しく押し返す千里の抵抗を『いやよいやよも好きのうち』なんて都合の良いように変換して更に行為を進めた。
するりと服の裾から手を入れてすべすべした素肌を撫でれば、その手触りのよさに下半身が熱を持つ。
俺の名を途切れ途切れに呼びながら行為の中断を懇願する千里に更に熱が上がる。

脇腹を撫でていた手を上に上げて胸の頂きにある小さな突起を指で軽く弾けば、千里の体が一瞬大きく跳ねて先ほどの非ではないほどに激しく抵抗し始めた。
はっと我に返り、しまった、と口を押さえて千里から体を離せば、千里は見るからに怯えて涙を浮かべて震えていた。

だけど、その時に俺の頭に浮かんだのは最低なことで、それが口から出てしまっていた。

千里の顔がみるみる絶望に染まり、震えながら自分で自分を抱き締める千里を見てもしまったと思う気持ちよりもあざといという気持ちの方が強かった。
でも、千里が大事なのも確かで、なんで、とだめだ、の二つの苛立ちに板挟みにされた俺は、このままでは無理矢理千里をどうにかしてしまいそうで、でも苛立ちもおさまらなくて、頭のはしにあった今まで抱いた一人の女の『女はその気もないのに男の前で無防備に肌なんかさらさないのよ』というセリフを自分の正論にして千里にぶつけてしまった。

部屋を飛び出して中庭を歩きながら、ようやく頭が冷えてきた俺は千里にしてしまったことと言ってしまったことを反芻して頭を抱えてうずくまった。それでも、酷い言い方はしたとは思いつつ千里を責める気持ちも無くならない。
だって、やっぱりどうしたって好きなやつを抱きたい。ヤりたいのは男の性で同じように男の千里だって好きなやつとヤりたいと思わないのかよ、と思う気持ちと、いつまでも待つと言ったはずの自分の堪え性のなさに言い様のない焦燥感を感じた。

しばらくして、気まずいながらも部屋に戻れば千里の姿はそこになく、ああ、きっとまた野原の所だろうと少しだけほっとした。

一晩空けても千里の姿はない。学校であったらなんて話しかけようかと悩みながら登校すれば千里はまだ来ておらず、でも大人しく教室でいるのもいたたまれず廊下でぼんやりと窓から空を眺めていたら、一人のかわいらしい男子生徒に声をかけられた。確か俺のファンだと言って、体育の時に声援を送ってくれたりなんだかんだと差し入れをくれたりして、千里との仲を応援してくれていると言っていた。

『どうしたの?何でも力になるよ』

そう言ったそいつの言葉に甘えて千里とまだ一線を越えられないことをぽつりと溢してしまった俺はそれだけ誰かのほんの少しの助けでも欲しかったんだろう。
そいつはにっこり笑って自分に任せるようにと耳打ちをしてきた。作戦を成功させるために、今日1日は自分と行動するようにと。

どんな作戦かは内緒だと言われたが、昼休みにも呼びにきたそいつと一緒に教室を出ていくと焦っているような千里を見て、あ、もしかしてやきもちを妬かせようっていうことなのかなんてその時は安易に考えていた。

1日千里との接触を避けていれば、みるみる落ち込む千里を見てちくりと胸が痛む。だけど浮気じゃないしなんてへんな言い訳をして、これだけ1日避けてれば今日の夜にはイケるかもよ、なんて言われてそうなのかな、なんて思う。放課後も、迎えにきたそいつと一緒に教室を出て、もっと焦らすために部屋に帰るのを遅らせようと中庭に連れていかれた。

ベンチに座ってなんだか色々話しかけられた気もするけど、段々こんなことをして千里を抱くなんて間違ってるんじゃないかと思えてきた。

抱きしめながらキスをした時の、嬉しそうにはにかむ千里の顔が浮かぶ。初めての朝を迎えたらどんな顔をするのかななんていつも想像していた。きっと幸せそうに微笑んで、でも恥ずかしがって布団に潜り込んだりするんだろう。

…今のまま、初めてがそんな始まりでいいのか?不安で泣きそうな千里を抱いて、それで千里が幸せだと思ってくれるのか?

いてもたってもいられなくなって立ち上がるのと、野原が目の前に現れたのは同時だった。

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