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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -




4

次の日、俺はドキドキしながら学校へ向かった。隣には、いつものように晴彦がいる。
一人で行こうとしたら、なにも言わずに並んで歩き出した。ちなみに、『一人で…』まで言って激しくにらまれ、咄嗟に口をつぐみました。

教室が近付くにつれ、心臓のドキドキが増す。
廊下の先、教室の前に立つ人影を見て一際大きく心臓が跳ねた。

すぐにわかる。高見沢。
相変わらずかっこいいな…。だけど、一歩近付くごとにそのそばに見慣れない小さな影が見え隠れするのに気がついた。はっきり認識したのは高見沢まで三メートルほどの距離に来たときで、そのかわいらしい生徒は確か高見沢のファンクラブだっていって体育とかなんかあるたび高見沢に黄色い声援を送っていた子じゃなかっただろうか。

高見沢よりも先にその子が俺に気が付いて、にやって笑ったあと高見沢に背伸びをしてなにか耳打ちをした。

それからばいばいって別れて、俺の方へ向かって歩いてくる。見送るために振り向いた高見沢が俺を見て、ちょっと怪訝な顔をした。

そんで、その子が俺のとなりを通りすぎる瞬間。

「いくら好きでもヤらせないなら他に取られちゃってもしかたないよね」

どこか遠くの方で、誰かがなにか言っているのが聞こえる。視線の先にいた高見沢がゆっくりと体を反転させて、教室へはいるのが映画のワンシーンのようにスローモーションになっていく。

「…と、…っさと、千里!」

がくんっと思いきり揺らされ、ようやくはっと我に変えれば周りに日常の喧騒が戻る。
声の方を向けば、晴彦がいつものように鬼の形相をして俺の肩を掴んでいた。

「あ…、あ?な、なに、晴彦」
「…なんでもない。廊下の真ん中でぼけっとするな、邪魔だ」
「ウイッス」

ぴしりと敬礼をして端によけると、よろよろと歩き出す。じゃあな、と手を振って別れた晴彦をちゃんと見なかった俺は、晴彦がどんな顔をしていたかなんて全く気付かなかった。

ふらり、と教室に入ってすぐに高見沢の席に目がいく。高見沢はすでに周りを沢山の友達に囲まれて、楽しそうに閑談していた。

「お、おはよ、高見沢…」
「…ああ」

ひどくぶっきらぼうに返された挨拶を遠いスピーカーからのような気分で聞いて、自分の席に向かう。

どうしてそんなに冷たいの?あの子は誰なの?怒ってるの?

思っても口になんてできやしない。
だって、体の関係を拒んだのは俺。

前に読んだお話があったじゃないか、ヤらせない恋人に焦れた攻めが浮気した話。
あの子だってそう言った。
『ヤらせないなら取られちゃっても仕方ない』
って。

あのお話はどうなったんだっけ。ハピエンだったはずなのにな、全くストーリーを思い出せないや。
でも、一つだけ確実にわかること。
現実は空想のお話みたいに必ずしもハピエンにならない。自分の望む結末になんてならないんだ。

ぐるぐる、頭がこんがらがってそのままぱたんと机に倒れて顔を伏せる。
いつもなら教室や廊下でイチャイチャするカップルをウォッチングしてうはうは言ってる俺が、今は彼らを見ても空しくなるだけだった。

いつも休み時間の度に俺の席に来ていた高見沢が、今日一日全く俺のそばに来てくれなかった。話しかけに行きたかったけどまた冷たくされたらどうしようかと怖くて自分から高見沢のそばになんていけない。お昼休み、いつも一緒に食べるけど今日はどうするのかな。仲直りしたいな、ちゃんと話したいな。
意を決して立ち上がって歩き出せば、俺より先に高見沢に明るく元気よく声をかける生徒がいた。

その顔を見てどきりとする。
あの子だ。

「高見沢くん、一緒に食べよ!食堂行くんでしょ?」
「…ああ」

立ち上がった高見沢の腕に絡み付き、歩き出す前にちらりと俺を見た彼はとても勝ち誇った顔をしていた。
俺は声をかけるなんてできなくて、教室から仲良く出ていく二人を茫然と見送るしかできなかった。


あれから、一日どうやって過ごしたかなんてわからない。気がつけば放課後で、夕日が差し込む教室に一人でぼんやりと座っていた。

今何時だっけ。晩御飯の用意しなくちゃ。今日の当番は俺だったんじゃないかな。ああ、でも高見沢はいらないっていうかも。もしかしたら、あの子と食べてくるかもしれない。食べるだけじゃない、お泊まりしてくるかも。1日だけじゃなく2日かも。ううん、3日?4日?一週間?それともずっと?

「ひ…っ、」

ボロボロ、涙があとからあとから溢れてくる。
ごめんね、高見沢。こんな体一つ出し惜しみするような俺より、高見沢に全てを委ねる子の方が良いかもしんない。ううん、きっとそうだ。
だって、好きなら恋人に抱かれたいって思うはずだもの。
恐怖が先立って逃げちゃう俺は、高見沢に対する愛が足りなかったんだろう。

「だからそう間違った考えをするなと言ったろう」
「ぎゃん!」

がつん、と頭に衝撃が走って頭を抱えてうずくまる。何事!?と顔をあげればしょぼしょぼネガティブ祭りな俺の頭をぶっとい辞書で叩いたのは言わずもがな鬼畜晴彦大先生。

「ひっぐ、う゛ぇ゛え゛」
「きたない」

晴彦ちゃんだあ、と思うとさっきよりも涙腺が緩みぶわわと涙が溢れだした。
心底汚いものを見るかのごとく俺をにらんで、だけど晴彦は俺の頭を乱暴にぐしゃぐしゃと撫でた。

「ばるびごぢゃん…」
「いくら言っても聞かないのがお前だったな。そんなに自虐するのが好きか、ドMめ」
「ううえええん」

呆れたようにため息をつかれればその晴彦らしい慰めに涙が余計に溢れだす。子供みたいにしゃくりあげるのを咎めもせずにただ前の席に座りじっと頬杖をついて窓の外を見る晴彦の存在が本当にありがたかった。

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