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3

「きたない」
「ひどいぃ〜」

ドアの外で『晴彦ぢゃああん゛』とピンポンを連打して泣き叫んでいたら、扉が開いてスリッパで叩かれた。
わんわん泣く俺の手を引きながらリビングに連れていかれ、ソファに座らされた。

キッチンに行った晴彦ちゃんは冷たいカフェオレを手に持ち、俺にそれを渡しながら冒頭のセリフを吐いたのだ。
しかも、露骨に嫌な顔をしてため息を吐きながら。

晴彦ちゃんたら…傷心して泣いてる人に普通はそんな態度しないのよ。
普通は。

コップを持ったままえぐえぐ泣く俺の頭を一度ぐしゃりと撫でて、自分も向かいのソファに座る。

「で?」

腕と足を組んでイライラと言われてもびくびくなんてしないんだから!
カフェオレを飲みながら事の顛末を話すと、部屋に来たときより大きなため息が聞こえた。

「そりゃテメエがワリイだろ。ライオン相手に生肉ぶら下げて歩いてるようなもんだろが」
「那岐、だまれよ」

晴彦ちゃんの隣で、晴彦ちゃんよりも偉そうにふんぞり返りながらばっさりと切り落としたのは四天王寺那岐(してんのうじなぎ)で、この学園の生徒会長をしている晴彦ちゃんの彼氏だ。
ちなみに、俺より先に晴彦ちゃんの部屋にいて、泣きながら引き連れられてきた俺を見るなり『不細工が余計に目も当てられねえ顔してどうした』と悪気もなく言ってのけてきた、晴彦ちゃん並の鬼畜だ。
ドSカップルうまうま。

そんな会長をたしなめた晴彦ちゃんはまたひとつため息をついてから、頭をガリガリとかいた。

「那岐の言うこともあながち間違いないがな。お前は無自覚な上に無防備すぎる」
「うぐ…」
「だな。お前がこいつみたいな格好して部屋にいてみろ、泣こうがわめこうがヌカロクだがな」
「那岐!」

お、おお…。晴彦ちゃんが真っ赤だ。なんてレアな。
まじまじ見てればスリッパを顔面に投げられ、ついでに隣でそう言いながら晴彦ちゃんの腰を引き寄せてイヤらしく足をなで回した会長はフォークを手に刺されてた。

「まあ、今日は部屋に戻るな。ここにいろ」
「おっ、視姦プレイか?」
「テメエは帰るんだよ」
「は!?ふざけんな!」

俺を泊めるからと追い出されそうになった会長がぎゃいぎゃいとわめきだす。

「てめえ、クソ腐男子!ケツの一つや二つもったいぶってんじゃねえよ!とっとと部屋に戻ってぶっさしてもらってこい!」
「なにそれぶっ飛びすぎて逆に潔い!」
「いい加減にしろ、カスが!2度とヤらせてやらねえぞ!」

晴彦ちゃんの最後の一言は最強呪文だったらしく、会長は泣きそうな顔をして無言で立ち上がった。すたすた玄関に向かう会長を見送るためにか晴彦ちゃんも同じく無言で後をついていく。俺は二人がリビングの扉から出ていったのを見計らってそおっとソファから降りて、リビングの扉をそおっと、ちょっとだけ開けてこっそり覗いた。

「お前が足りねえ」
「十分だろ」
「なわけねえだろ。俺の中の自分の価値にもっと気付けよ。閉じ込めてずっと可愛がってやりてえ」
「…知ってるさ、それくらい。知ってるから平気なんだ」
「…とんでもねえ殺し文句だな。まじで閉じ込めてやろうか」
「やってみな」

クソ、とか、かなわねえ、とかなんだか拗ねたように呟きながら晴彦ちゃんをぎゅうぎゅう抱きしめて肩に顔を埋めてる会長を、晴彦ちゃんが優しく抱き締め返して頭を撫でて、髪にキスをした。

ひいい!受けに甘やかされる俺様溺愛攻め、萌えええ!

自分がされたわけでもないのに、晴彦ちゃんのあまりに男前で包容な姿にこっちの方が真っ赤になる。
ぼんやりしてると、ばたんと扉が閉まる音がして慌てて我に返りわたわたとソファに逃げ戻った。

戻ってくるなり、なにも言わずにまずスリッパで俺の頭を叩いた晴彦ちゃんを恨みがましく見上げる。
でも、自分のせいで会長に悪いことしちゃったのは確かだし…。

「…ごめんね、晴彦ちゃん」
「そうだな、醜い泣き顔を見せられるこっちの身になってほしいもんだ」
「うう…」

抱き枕をぎゅうぎゅう抱きしめて顔を埋めれば、じろりと睨まれた。京也様は相変わらず好きなのね。
晴彦ちゃんたら、会長らぶなくせに浮気ものなんだから。

「…いいなあ、らぶらぶ…」

なんだかんだうまくいって通じあってる二人がうらやましい。俺も、高見沢とそうなんだって思ってたけど、実際は違った。
俺が断りすぎたから?会長の言うように、もったいぶらずにさっさとヤられちゃえばうまくいった?

「千里」

ぐるぐる一人で考えていると、晴彦が俺を咎めるように呼んだ。顔をあげればまっすぐにこちらを見る晴彦。

「お前の考えは間違いだ。さっきは那岐のいうことに同意ありとはしたがな、だからと言って高見沢が正解な訳じゃない」

なんで考えてる事がわかるんだろう。おれ、何にも言ってないのに。

「大体だな、部屋にあられもない格好でいたからといってイコール『誘ってる』なんて思うなんざただの動物だろ。ましてやそれで拒否したからといって相手を責めるなんざお門違いもいいとこだ。その件に関してはお前に一つの非もないさ」
「でも、でも…」
「でもじゃない。そこは頑として譲るな、そこを譲れば高見沢はお前の嫌いな自己中俺様攻めになるぞ」
「やだ!」

ぶんぶん頭を振る。
やだやだ、絶対やだ。高見沢は、自己中俺様なんかじゃないもん。ちょっとだけ意地悪な時もあるけど、優しくて、あったかくて、俺のことを大事にしてくれて…

「…っ、う、うぅ〜…」
そんな高見沢に、あんな風に言わせてしまった。自分の根性なしにまた涙が溢れる。

高見沢のいう通りだ。散々男同士のエロやいちゃラブをうはうは楽しんでみてたくせに、いざ自分の立場になったら断るだなんて。
腐男子が嫌いだって言った高見沢の気持ちがわかる。俺、王道で友達をわざと巻き込まれに仕立てて喜んでるやつと変わんない。

「おい、それに鼻水をつけるな」
「いたいいたいいたい!」

ぐるぐる考えて京也様抱き枕にしがみつき顔を埋めていたら、晴彦が俺の髪をがしりと掴んで無理矢理顔をあげさせた。
ひい、般若のようなお顔!
晴彦ちゃんたら!ちょっとくらいいいじゃない!

「下を向くな、顔をあげてろ。余計なことを考えるな。お前のそのクソくだらん性格は直らねえないつまでたっても」
「は、晴彦ちゃんだって鬼畜はかわらないよね」
「あ?」
「ごめんなさい!」

光の速さで謝罪を口にすれば、心底うんざりしたようにため息をつかれた。

「前を向いてろ。項垂れるな、胸を張れ。高見沢が好きなら、間違った愛を教えるな」
「…」

髪をつかんだまま、ぐりぐりと回される。きっと撫でてるつもりなんだろうけど、髪をつかんだままだとただのいじめよ晴彦ちゃん。

かなわないなあ、と思う。いつだって晴彦は、俺をとことん甘やかす。
風呂に入れ、と投げられたバスタオルを手に立ち上がってバスルームに向かうその道で、すれ違いざまに頭を撫でられて、風呂場で湯船に浸かりながら号泣した。

明日、ちゃんと話をしよう。
自分の思ってること、考えていること。高見沢の気持ちもきちんと聞いて、そんで、また仲直りできたらいいな。

風呂から上がって寝ろと言われて寝室に向かえば、見たことないキャラクターの抱き枕が晴彦のベッドにあって、それをじっと見てれば珍しく真っ赤になって焦ってもだもだ言い訳する晴彦ちゃんがいてすげえおもしろかった。

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