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「…榛原」
「あ…、」

かわらずそこにいて、べあくんグッズで溢れた部屋を見てほっとする。
榛原の方へ視線を戻し、その顔をじっと見れば、居心地が悪そうに視線をそらした。

「榛原…」

拒否されたような仕草にずきりと胸が痛む。だが、これは自分の自業自得だ。
榛原の名を呼び、座り込む榛原の目の前にしゃがめば榛原は俯いてぐっと唇を噛み締めた。

ずっと、笑っていて欲しかったのに。そんな顔をさせてしまったことが悲しくて、申し訳なくて、情けなくて泣きそうになる。

「はい…」
「委員長、…好き」

もう一度名を呼び、顔を上げてもらおうと手を伸ばせばそれが触れて俺が名を呼び終わるよりも先に榛原の口から思いもよらない言葉が紡がれた。

「好きだよ、委員長。委員長はもう、俺の事なんて見放しちゃったかもしんないけど、ちゃんと、ちゃんと言いたかった。一回でも帰ってきてくれたら、ちゃんと俺が言おうと思ってたんだ」
「…」
「あのね…、委員長に、『べあくんの方が大事なんだな』って言われて、すごく悲しかった。悲しかったけど…考えた。
いっぱい、いっぱい考えたよ。でもね、でもね…、比べらんなかった。だって、べあくんが大事なのと、委員長が大事なの、違うんだもん。違うんだ…。
でも、委員長は俺がべあくんから話しかけたりするの、嫌なんだよね。
だ、だから、あのね、べあくんはもう委員長の目に入らないようにする。俺の部屋だけにするから
…帰ってきて…。
委員長が、好きなんだ」

真っ赤になって泣きそうな顔で気持ちをぶつけてくる榛原を、ただじっと見つめていた。
はやく、はやく何か言ってやらないと。榛原が、誤解をして泣いてしまうかもしれないじゃないか。
思いに反して全く体が動かない。

「…委員長?どうしたの…、やっぱり、だめ?」
「え…」
「だって、泣いてる」

榛原に言われ、その手で自分の頬に触れるまで、俺は自分が涙を流していることになんて全く気が付かなかった。

「あ…、」
「委員長…ごめんね。ごめんね」
「ちが…、ちが、う。違うんだ、榛原」

俺の涙を見て、必死に謝ってくる榛原に首を振る。
そう、ちがう。悲しかったんじゃない。後悔でもない。
榛原に、直接好きと言われたことが嬉しかったんだ。

「いいんちょ…、わっ!」

心配しておろおろと泣きそうになっている榛原を思い切り引き寄せ、腕の中に閉じ込める。肩に埋めた顔からはとめどなく涙がこぼれて、榛原の肩は多分びしょびしょだろう。

「榛原…、榛原、榛原…っ、」
「う、うん」
「好きだ。好きだ、好きだ、栄太…!悪いのは、おれ、おれだ…っ!か、勝手に、やきもち焼いて、拗ねて、お前にっ、悲しい思いばかりさせて…!」
「いいん、ちょ、」
「あり、がとう…。こんな、こんな俺をまだ好きでいてくれて、ありがとう…!か、悲しくて、泣いてるんじゃない。う、嬉しい、嬉しいんだ…!」

『好き』『ありがとう』『ごめん』

三つを泣きじゃくりながら幾度も繰り返す俺を、榛原は恐る恐るその腕を上げてそっと抱きしめてくれた。ぽん、ぽんと優しく背中を叩かれて頭をそっと撫でられて、髪越しにキスをされた。全ての行為が、まるで全てを赦す聖母のようで俺は子供みたいにただただ泣いた。

品行方正、男らしい、凛としている、いかにも理想の男であると皆に称えられる俺なんて、榛原の前ではあっという間にもろく崩れ去る。
こんなにも、榛原を求めていたんだ。

「好き…、好きだ。情けない俺を嫌わないでくれ…」

榛原は、泣きじゃくる俺のほほをそっと包み顔を上げさせると涙を浮かべた目で優しく微笑み、自分から俺に口付けてくれた。

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