×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -






榛原との部屋を出た俺は、一人部屋である風紀の副委員長の吉木の部屋に転がり込んだ。
吉木は初めひどく困惑をしていたが、俺が見たこともないほどに憔悴した顔をしていたからだろう、なにも言わず部屋にしばらくいたいと言う俺を受け入れてくれた。

その日から、榛原を避けに避けている。榛原がどんな様子だとか言う話も聞かない。自分から離れたくせに、俺と離れたところで榛原はなんとも思わないんだなとショックを受ける。
四日ほど経ったある日、部屋で大きなため息をついた俺の前に吉木がコーヒーを置いてくれた。

「お二人の事ですし、口を出すのはおこがましいかと黙っていましたが…少しも解決しないようなのでお伺いします。一体何があったんですか?」

向かい側に座り、心配そうに眉を下げている吉木に顔を上げる。
なにも、と言うには嘘がつけないほどに参っている。誰かに聞いてもらえば少しは気が楽になるだろうかとポツリポツリと吉木に話はじめた。

全てを話終えたあと、吉木は口をあきれたように開け、盛大なため息をついた。

「あほですか、あんたは…」
「なんだと」
「だってそうでしょうが。彼を一緒になって責め立てた私が言うことではありませんが、許す許さない信じる信じないを決める権利は被害者にのみあるんですよ。危害を加えた者の立場であるくせに相手が自分の反省を認めないからと責めるとは何事ですか」
「べ、別にそれを責めた訳じゃ…」
「同じです。だって、熊を介してじゃないと話してくれないとか、待てないとか言ったんでしょ?」

吉木の言うことがもっともすぎて、うなり声しか口にできない。

「人間てのは勝手な生き物ですよね…自分が悪いことをしたくせに、または第三者のくせに長くなったり幾度か繰り返されたりすると『引きずりすぎじゃないか』とか、『もういいんじゃないか』とかまるで自分がさも被害者だとでもいうように思ってしまうんですから」

口がひどく苦味を残すのは、先ほどのコーヒーのせいだろうか。

「…違うんですよ。加害者や第三者にとって、それは終わったことでも被害者にとっては終わったことじゃないんです。受けた心の傷が癒される時間というのは、他人が計るものじゃないんです」

ぐうの音も出ないとはまさにこのことだろう。確かに、吉木のいう通りだ。
ふと吉木の顔を見れば、俺に説教をしながらも吉木もひどく傷ついているような顔をしていた。

「吉木」
「あなたは、そばにいることを許してもらえているんですよ。相手に許しを乞う、心の傷を癒す手伝いをさせてもらえるんです。ラッキーじゃないですか」
「吉木、お前は…」
「…彼を見るたび、自分の仕出かしたことを思い知らされます。彼は私たちの罪を許してはくれました。ですが未だに風紀委員の誰一人として心を開いてはくれていないんですよ。あなたを除いてはね」

しん、と静寂の中、時計の音がやけに響く。

そんな風に思っていたのか。

吉木は元々とても正義感の強い男だ。まっすぐで、曲がったことを何より嫌うこの男は榛原を見るたび、口に出せない後悔に苦しんでいたんだろう。

「…委員長、彼にとってその熊はどういう意味で友達なのかを考えてみてはいかがですか」
「どういう意味で…?」
「彼は、母子家庭で育ったと言っていましたね。つまり、春休みや夏休みなど長期休暇…普段だって、何時に帰ってくるかわからない母親を小さな子が一人で留守番をして待っていたんでしょう?そんな彼にとって、そのくまは兄弟だったのではないでしょうか」
「…長く邪魔をした」

頭を鈍器で殴られた気分だった。弾かれたようにソファから立ち上がり、玄関に向かって駆け出す。頭のなかは、くまを抱き締め幸せそうに笑う榛原しか浮かばなかった。

[ 135/215 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



top