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「委員長?どうしたの、電気もつけないで」


夕方、日も落ちた頃榛原が部屋に戻ってきた。俺は一人リビングのソファに腰掛けていて、榛原が帰ってきて今電気をつけるまで自分が電気が必要になるほど暗くなるまでそこに座っていたなんて気がつかなかった。

心配そうに顔を覗きこむ榛原に、無言で微笑みなんでもない、と軽く首を振る。だけど、いつもと違う様子に余計に心配になったのだろう、榛原は眉を下げてじっと俺を見た。
それから、そばにあったべあくんを手に取り軽くおどけたように動かす。

『委員長、元気ダシテ〜』

声色を変え、俺を元気付けようとべあくんを操る。いつもなら微笑ましいなと緩むほほは全く動かず、じっとべあくんを見つめた。

「…栄太、好きだ」
「…!」

気持ちを告げれば、途端に榛原は目を見開いて真っ赤になった。
じっと見つめていると、キョロキョロと視線をさ迷わせ持っていたべあくんを顔の前に持ち上げ、べあくんの両手でべあくんの顔を『恥ずかしい』と隠す。

『す、好き、』

べあくんごしに伝えられる、榛原の気持ち。
いつもなら嬉しいそれが、素直に心に響かない。

「…栄太、好きだ」
『…!あ、ぼ、ぼくも、スキダヨ』
「栄太。俺は、栄太から聞きたい」
『え…』

いつもなら、微笑んでそっと抱きしめていただろう。榛原もまさか違う答えが返ってくるとは思わなかったのだろう、少し下げられたべあくんの向こうに見える顔が困惑しているのがわかる。

そんな榛原を見て、俺は自分の胸の中にある黒いものが広がっていくのがわかった。

「いつも、いつも榛原はその熊ごしにしか返事をくれない。俺はいつまで待てばいいんだ?これからもずっとその熊と会話しなければならないのか?
俺はくまに好きだと言ってる訳じゃないし、くまに好かれたい訳じゃないんだ。榛原は、いつだってちゃんと俺と向き合ってくれない。くまを盾に都合よく逃げてるとしか思えない!」

目の前の榛原の目が驚愕に見開かれ、すぐに悲しみに揺れた。それでも、一度開いた口は止まらなくてまるで自分の口ではないように動く。

「…そうか、そうなんだな。本当は迷惑していたんだな。それもそうか…俺は真実を見ずにお前を簡単に裏切った。そんなひどい男にずっと気持ちを告げられても迷惑でしかなかったんだな」
「ちが、」
「悪かった、押し付けて」
「ど、どこいくの」

腰をあげて榛原の横を抜け、リビングから出て玄関へ向かうとあわてて榛原が追いかけてきた。玄関の取っ手に手をかけて振り向くと、榛原はべあくんを俺の方に向け、ぬいぐるみの手を持ち自分と同じ様におろおろと焦らせていた。

「…しばらく、帰らないから…」
「い、いいんちょ…」


俺を引き留めようとしたその手は、べあくんの手を持ちこちらに伸ばされていた。
それを見て、俺の心の中にますます黒いものが広がる。

「俺なんかいなくても、そのくまさえいればいいだろう…?俺はそのくまほどお前にとって大事なものにはなれなかったし、な…」

一度も振り返らずに閉めた扉は、自分の一番きれいなものを閉じる心の扉のような気がした。

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