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榛原も、また信じてもらえなかったらと臆病になるだけで俺のことを嫌っていたり迷惑がっているわけではない。
その証拠に、今でもこうして同室でいてくれるし、得意な料理を振る舞い、毎朝新婚のように起こしに来てくれる。
榛原には告白したが、未だはっきりとした返事はもらっていない。俺の愛をすべて受け入れるにはまだ怖いのだろう。
だけど、べあくんごしに『好きだ』と言ってくれる。
例えそれがぬいぐるみに向けられたものでも、べあくんが話すように告げられたとしてもそのぬいぐるみを通して一生懸命気持ちを伝えようとしてくれる榛原が愛しい。
焦ることはない。
いつか、べあくんごしではなく直接俺に気持ちを伝えてくれるその日が待ち遠しい。
向い合わせでいつものように朝食を取りながら、べあくんにも話しかける榛原を暖かい気持ちで見つめた。
「榛原くんって、よく見るとかっこいいよね」
それは、見回りに行っているときに差し掛かった廊下で話し込んでいる生徒から聞こえた。
榛原の名が耳に入り、思わず足を止めてそちらを見れば一年生だろうか、かわいらしいタイプの生徒が廊下の窓から運動場を見ていた。
少し離れたところから同じ様に生徒たちの見ている先を見る。
するとその先には飼育小屋があり、掃除係りなのか榛原が数人の生徒と共にいた。
「前まではさー、すっごく怖いイメージだったけど最近よく話したり笑ったりしてるでしょ?」
「あ、うん。確かにー。それに、意外に優しいよね」
「そうそう!高いとこ届かなかったり重いもの運んでたら、さりげなく助けてくれるよね」
今まで耳に入ってきた噂とは全く真逆の、榛原を称賛する声に一人口元を緩める。
榛原のことをわかってくれる生徒が増えたんだと思うと同時にちょっとだけ感じる胸の痛み。
「あ、ほら見て!榛原くん、あの子のバケツさりげなく代わりにとった!」
「なんていうか、仕草が紳士だよね!」
「いいなあ、あの子顔真っ赤にして嬉しそう〜」
嬉しい、とは思う。榛原が周りに受け入れてもらえるようになったのは、素直に嬉しいと思うんだが…
「そういや二組の子告白したんだって」
「えっ!なんて返事したんだろ!」
「にっこり笑って、『ありがとう』って言ったらしいよ」
「えー!じゃあ付き合うのかな!ショックー!僕も狙ってたのに!」
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