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11

次の日、先生は目を真っ赤にして生徒会室に現れた。ひどく腫れぼったい顔をしていたけれど、その表情はどこかとてもすっきりとしていて開口一番俺に深々と頭を下げて礼を言い、改めて謝罪をした。

事の経緯を詳しく教えてくれて、無事彼氏と仲直りをし…それどころか以前からは考えられないほどに甘い時を過ごしているという。
そして、退職届を出してこの学園を去るつもりだと聞いた。教師の立場でありながら自分の感情で俺たちを別れさせようとしたこと、俺に薬を盛ったこと、全て許されるものではないからと。自分の罪を全て暴露して退職するつもりだと言ったのを俺が引き留めた。

「先生、俺は今回のことは誰にも言うつもりはありませんし公にするつもりもありません。初めから、俺をどうこうするつもりなんてなかったんでしょう?それに…先生のおかげで小暮ともっと深くつながることができたんだし…先生だって、彼氏と上手くいったんならもう二度とそんなことしようなんて思わないでしょ?」

先生は、本当に俺をどうこうするつもりなんてなかったんだろう。ただ、同じ境遇のはずの小暮を自分と同じだと思いたかっただけ。それは確かに教師としてあってはならないことなんだろうけれど、成功していたとしても先生はきっとこの学園を辞めていたはずだ。

反省を生かすも殺すも、自分次第。今回のことで自分も傷ついていた先生はもう二度と同じことをしようなんて思わないだろうから。
万が一彼氏と別れたりすることがあっても、今の先生ならきっともう一度同じ過ちを繰り返さない。彼氏への悩みで泣く子たちの味方にもなってくれるだろう。
それに、

「予防線は張ってあるんですよ。ね、岸本先生?」
「ああ」

俺が顔を向けて仮眠室の方へと声をかけると、がちゃりと扉が開いて現れた男を見て、先生が口を開けたまま固まった。

「ど...して...」
「教員の方で欠員が出て、臨時募集をした所に応募してこられたんですよ。岸本灯(きしもとあかり)先生です。来月頭から学園の社会科の教師として来ていただきます」

にっこりと笑う俺と、岸本先生を何度も交互に見て驚愕している先生のそばに、岸本先生がずかずかと大股で歩み寄る。

「ってことで、来月からここでも一緒だ。お前は俺が見張ってなきゃどんな馬の骨に言い寄られるかわからねえからな」
「なん、だって、一言も、そんな、」

今日の朝早くに、学校の方から俺に連絡が入った。この人が臨時募集で応募してきたのは本当だけど、先生の彼氏だって知ったのはその時だ。ここに来ることはずっと先生が就職してから考えていたそうで、昨日の夜に和解してから、先生から俺の話を聞いていた岸本先生は俺を見るなりすぐに頭を下げてきた。その時に、先生が学校を辞めるつもりでいることやその後どうするかなどを俺と二人で話し合った結果の上の決定だ。
その時の話し合いで...俺に対して申し訳ないと謝りつつもその目が嫉妬で燃えていたのが笑えたけど。
俺、この人に似てるかなあ?俺の方が溺愛で甘やかして優しいと思うんだけど。

ひどくどもりながら信じられないとばかりに緩く首を振り後ずさる。一歩、また一歩と下がる度に岸本先生がその分歩み寄り、先生は後ろを見ないままに歩いたせいでカーペットで躓いた。

「あぶない、」
「おっと」

俺の方に後ろ向きに倒れそうになった先生にさっと手を伸ばすとそれよりも早く岸本先生が手を伸ばし、掴んだ腕を引くと同時にすばやく腰にも手を回して先生の体を自分へと引き寄せた。

「さわんじゃねえよ。こいつは俺んだ」
「…!」

岸本先生に抱きしめられながらじわりと涙を浮かべる先生は真っ赤で、だけど前とは比べものにならないほど幸せそうな顔をしていた。

「ご心配なくー。俺にはかわいい小鹿ちゃんがいますからー」
「はっ、オレのこねずみの方がかわいいっての」
「俺のバンビちゃんの方がかわいいですう!」
「やんのかクソガキ!」
「あぁ゛!?」

「綾小路」

お互いガキのような言い争いをする中、こんこんと軽くノックをする音が聞こえて控えめに生徒会室の扉が開かれた。
ひょこり、と顔を出した小暮はキスをしそうなほど近くに顔を寄せていた俺たちを見て不思議そうに首を傾げた。

「あっ、こ、小暮!」
「綾小路…好みが変わったのか…?」
「ちっっがあああう!」

しゅん、と悲しそうに眉を下げる小暮に慌てて弁解をする。冗談じゃない、こんなバカ俺様と誤解されてたまるか!

慌てふためいて小暮に駆け寄ると、小暮はくすくすと笑い出し俺の頭を撫でた。

「うそだよ。岸本先生だろう、今朝挨拶されたから知ってる」

なんとも手回しのいいことで、岸本先生は今朝のうちに俺の恋人である小暮も訪ねて謝罪していたらしい。

「まあ、処罰の一つとしては、先生には生徒会顧問を外れてもらうことにはなるんだけど…」
「…ううん、当然の処置だよ。ここに残ること事態本当は許されることじゃないのに…」
「ま、そのへんはもう岸本先生にお任せすることで…ね」
「ああ、任せろ」
「…先生」

胸を張ってふんぞり返る岸本先生に抱きしめられている先生に、小暮が声をかける。
皆が小暮に注目する中、小暮が静かに口を開いた。

「お幸せに」
「…!、あ、あり、がとう…」

ふわりと笑いながら先生に告げた一言に、先生はじわりと涙を浮かべて頭を下げた。

「…綾小路くんが君を選んだ理由が、よくわかるよ」

生徒会室から二人出て行く時に、ぽつりと先生がこぼした。

「小暮」

二人きりになった部屋で、そっと小暮を抱きしめる。

「どうしたんだ?生徒会室に来るなんて珍しいな」
「あ、うん。さ、最近、ずっと一緒に食べてなかったから、お昼、どうかと思って…。お、お弁当、作ってきたんだ」

そういえば、ここ最近は仕事をとっとと片づけて早く小暮と冬休みを満喫するために昼も仕事を片しながら済ませられる簡単なものしか食べないからと弁当を作ると言った小暮の申し出を断っていたんだっけ。

嬉しい。だけど…

「…じゃあ、食べようかなあ?おいしい小鹿のお肉を、いただきます」
「えっ、あ、あやの、」
「ばかったれ!」
「いでえ!」

グイ、と小暮を引き寄せて腰を抱き、両手で尻たぶをがしりと掴んでもみながら首筋を舌でなぞると同時に俺の頭めがけてスリッパが飛んできた。
久しぶり。久しぶりだぞ、この感触。

「全く、久しぶりにお会いしたかと思えばこれですか」
「会長、ひっさしぶりい〜!俺たちいないからってここでこぐちゃんとにゃんにゃんしようとしちゃダメでしょ〜」
「会長、お久しぶりです。この度はご迷惑をおかけしてすみませんでした。僕らのかわりにお仕事をしてくれてた会長がこの生徒会室という名のホテルを作ろうとしても僕はなにもいいませんよ」

山本、上村、草壁のインフルエンザ三人組が、本当にナイスなタイミングで生徒会室に現れた。久しぶり、と声を掛けたいがその前にこいつら今まで一人で頑張ってたオレに対しての扱いがひどいんじゃないか?

「それはさておき…本当にすみませんでした」
「かいちょ、ごめんねえ〜。一人で大変だったでしょ?あとは俺たちでやるからいいよ〜、こぐちゃんとにゃんにゃんしておいでよ」
「そうですよ、会長。例えいつもは仕事を僕らに押し付ける会長でも倒れている間には一生懸命僕らの代わりをしてくれたんですから…」

何気に相変わらずひどいな、草壁。
そろって頭を下げて、俺に生徒会室から引き上げるように促す奴らを片手を上げて制する。

「これくらいでどうにかなったりしねえよ。病み上がりのお前ら残して帰りでもしたら小暮が怒る。それにな…」

皆に見られたのが恥ずかしいのか、真っ赤になってぷるぷる震える小暮の頬に手を当ててちゅ、と軽くキスをする。小暮は更に真っ赤になって俺の肩に顔を埋めてしまった。

「お前らが戻ってきたからにゃあ、千人力だ。だからとっとと終わらせて…すぐに戻るから、ベッドでいい子で待っててくれよ?小暮」

最後の言葉を耳元でささやけば、ぶるりと体を震わせてとろんとした目を俺に向けこくりと小さく頷いた。

「あ!の前に弁当!弁当だけ食わせて!」

俺の色気に当てられてふらふらと先ほど差し出した弁当を手に持ったまま忘れて生徒会室を出ようとした小暮を慌てて引き留める。それにはっと我に返った小暮が慌ててくるりと体を戻し、弁当を差し出した。

「いいですよ、ゆっくりお食事なさってください。お茶を入れますね」

けらけらと楽しそうに笑う皆を見て、ほっとする。
戻ってきた日常は、オレと小暮で築き上げてきた幸せだ。

山本の入れてくれたお茶を飲みながら、小暮の作ってくれた弁当を食べる。
いつもの、その幸せを噛みしめながら。


end


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