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6

「…小暮…」

ふるえる手を伸ばして、俺を抱く小暮の首にしがみつく。
ああ、俺、愛されてんだなあ。
今まであんなに傷つけたりバカなことばかりしてたのに、それを全部こうして乗り越えて包んでくれる。

愛しくて、もどかしくて、力の入らない手でその存在を確かめるかのようにしっかりと抱きしめれば、小暮は大丈夫だとでもいうように俺に頬をすり寄せてくれた。

「…っ、そんなの、わかんない、じゃん…。ほんとは、君より僕をいいなって思って」
「あとは、そうだな…


先生が、泣きそうだからかな」

後ろの方で聞こえた息を飲むような音は、先生が発したものなんだろう。少し顔を上げれば、小暮がひどく心配そうな顔で俺ではなく真っ直ぐに先生を見つめていた。

「廊下でさっき会った時に、生徒会の書類を俺の前で落としたの…わざとですよね。俺をここに来させるために。今のシーンを見せたかったんでしょう?…俺を傷つけようとしてるはずなのに、先生が泣きそうだから…」



がたん、と音がするのと、嗚咽が聞こえるのはほぼ同時だった。



「…ぼくにも、ね。恋人がいるんだ…」

向かいのソファで小さくなってぽつりと先生が話しだす。
小暮は目の前で泣き崩れた先生をソファに座らせ、ゆっくりと背中を撫でた。ようやく落ち着いたのか俯いたままに話し出したのはなぜこんなことをしたのかという理由。

先生には俺たちと同じく同性の恋人がいるらしい。しかも先生はこの学園の出身者で、その相手とはここで学生の時に知り合ったんだそうだ。

「僕の恋人はね、君と同じく学生の時に生徒会長だったんだ。当時からものすごくもててね、セフレがたくさんいて…かっこよくて、いつも自信に満ちあふれてて。平凡な僕が近づけるような人じゃなかった。だけど、彼が僕に交際を申し込んでくれて…それからずっと、もう5年以上になるかな」

学生の頃からそのその性格は変わらない。彼はいわゆる俺様という感じで、甘い言葉一つかけてもらったことはないし、先生を優先するわけでもない。それに不満があったわけじゃなかった。それは自分に甘えてくれているのだと思っていたから。
ここに来て俺と二人で仕事をして、噂を聞いて彼を思い出した。小暮と出会う前の俺と、自分の彼はとても似ていた。
でも、決定的に違うところを見つけてしまった。それは、小暮という恋人が出来てからの俺の態度。先生は、小暮と自分を重ねてしまった。

ここに来て、母校で働くことになったことを伝えた時ひどく不機嫌になって猛反対をしてきた。それでもどれだけ自分がここに来たかったのかを話せば、
『俺に関係ない』
と出て行ってしまった。帰ってきたのは日が過ぎてから、どこに行っていたのかを聞くと遊びに出かけていたと。
ここで先生が働くようになってから彼は夜遊びをするようになった。帰ってくるのは夜遅く、しかも香水の匂いをつけて帰ってくる。

自分がこの学園に勤めるようになって、先生は彼が学生時代に楽しかったことを思い出したんじゃないかと…いろんな相手と遊ぶことを思い出してしまったんだと思ったんだそうだ。

学園に来るたび、小暮のことをのろける俺。いく日も続く彼の夜遊び、そしてここにくるたびに目の当たりにする俺という彼に似た存在。

どうして、小暮だけが。

同じような恋人をもつはずなのにどうして小暮だけがこんなにも愛されているのだろうか。

日に日に自分が惨めになって、悲しくて、悔しくて、どんどん追いつめられていってしまった。
決定的になったのは、俺が言った一言のせい。
大事な人のために変わったのならば、自分の彼はどうして変わらなかったのか。
それは、自分が愛されていないから。


どうして、どうして同じはずなのに自分だけが。


追いつめられた先生は、その黒い感情を小暮にぶつけてしまった。
小暮も、自分と同じ思いを味わえばいい。だって、そんなの不公平だ。


「…ごめんね。ごめんなさい。僕、最低だ。君たちはなんにも悪くないのに…き、君が、同じように、悲しい思いをすればいいだなんて…
まさか、君が綾小路くんを疑うことをしないだなんて思わなかった。…僕と君は、ちっとも似てなんていなかった。…僕の方こそ、もしかしたら彼を愛してなかったのかもしれないね…」
「先生」



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