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5

「なん…、」

定まらない視界の中、目の前に座っていた先生がゆっくりと紅茶を一口飲む。それが横になった時に初めて俺は自分がソファの上に倒れこんだのだと気がついた。

「せん、せい…」
「…大丈夫だよ。ちょっと体の力が抜けるくらいで害はない薬だから」
「…くす、り…」

先生が立ち上がって俺のそばに来て顔を覗き込む。いつもと違い全く表情がない先生はまるで人形のようだ。
先生の用意してくれたお茶の中に仕込まれたのだろう。でも、どうしてそんなことを。先生は、俺に薬なんて飲ませてどうするつもりなんだろうか。
ふと、中学部時代に親衛隊の中でも過激な奴らがわざと俺にいかがわしい薬入りのお茶を飲ませてなんとか既成事実を作ろうとしたことがあったのを思い出す。
まさか、先生がそんなことをするために?

朦朧とする俺の上に乗り上げ、力の入らない俺の手を持ち上げて自分の首へと回させる。

「せん…」

なにを、と聞こうとした瞬間にバタンと扉の開く音がして、そこにいるはずのない小暮の姿を見た俺の視界はすぐに先生の顔でふさがれてしまった。

「…小暮くん、ごめん。綾小路くんが急に…、僕、だめだって言ったんだけど」

すぐに顔を上げ、その場で立ちすくみじっと俺たちを見つめる小暮に先生がひどく申し訳無さそうにしどろもどろと言い訳をする。
ちがう、ちがうんだ。
誤解を解きたくても声がでなくて、顔だけ真っ青にして横たわりそれでも先生から腕を離せないようにさせられている俺は小暮からみれば自分から仕掛けたようにしか見えないだろうし、完全に浮気現場を見つかったという図だ。

ただでさえ前科の多い俺は、今までそのせいで小暮を散々悲しませてきたというのにまた同じ思いをさせてしまうんたろうか。

小暮、と小さく呼びかけると、小暮は真っ直ぐに俺たちの元に歩いてきた。

あれ、と思った。

小暮の性格からして、こんな場面に出くわせば涙を耐えてまたあの全てをあきらめた笑顔を浮かべ黙って出て行くものとばかり思っていたから。

近くにきた小暮は、なんの表情も浮かべてなんていなかった。だけどそれは無表情なのではなく、いつもと変わらない、俺をちょっと心配しているときの顔だった。

「小暮く…」
「…大丈夫か?綾小路。気分が悪い?体調崩していたのか?」

ソファで抱き合う俺たちのそばに普通に座り込み、問いかけられるそれは嫌みなんかじゃなく本当に純粋に俺を心配していた。

「先生、すみません。重いでしょう。ほら、綾小路。こっちに腕を回せ」

未だに先生の首に回されたままの俺の手を先生から外して、自分の肩に掛けさせる。
そのまま起き上がらせて自分にもたれさせると、小暮はひょいと俺を持ち上げて立ち上がった。

…小暮にお姫様だっこされてるとか、変な感じ。

「先生、ご迷惑おかけしました」
「待って!」

ぺこりと頭を下げてそのまま退室しようとする小暮を先生が切羽詰まったような声で引き止める。

「…ど、どうして何も言わないの?綾小路くんが、君以外に手を出そうとしたんだよ?」

小暮をじっと睨みつける先生の目は、憎悪に燃えていた。どうしたんだろうか、どうして小暮をそれほど目の敵にするんだろうか。

小暮は自分を睨みつける先生をじっと見つめた後、ちらりと腕の中にいる俺をみて大丈夫だとでもいうように微笑んだ。


「…綾小路は、無理やり誰かに手を出そうとするような人間じゃないから」


先生が、一瞬息をするのを忘れたかのようにはっと息をして固まった。小暮に対して憎悪で燃えていた目に、動揺と焦りがうつる。

「なん、で、でも、わからないじゃないか。僕、僕が、君に見られて気まずいのをそう言ってごまかしたとか、」
「…綾小路は、確かに遊び人でしたからね。確かに手当たり次第だった。でも、そのどれ一つとして同意でないものはなかった。同意でない限り事には及びません。…それに、本当に俺に見られてごまかそうとするならもっと必死になって叫びます。綾小路が悪いことをして見つかった時って、小さい子供みたいなんですよ」

そう言って笑う小暮は、とてもきれいだった。

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