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2

コンコン、と控えめなノックが聞こえて、返事をして顔を上げるとゆっくりと生徒会室の扉が開く。
そこからびくびくと怯えたように顔を覗かせた小柄な青年は、キョロキョロと中の様子をうかがってから俺を見てぺこぺこと頭を下げた。

「お、お疲れさま、あやのこうじく…わっ」

おどおどと俺に挨拶をしながら入ってきたはいいが、すぐに何もないところで躓いて転んで見事に顔面を打ちつけた。
あ〜あ、とため息をつきながら立ち上がりそばまで行くと手を取って起き上がらせてやる。

「大丈夫?先生」
「ご、ごめんね、」

真っ赤になりながら慌てて立ち上がるこの人は、多田治幸(ただはるゆき)。今年の春から赴任してきた、新人の先生だ。
この人が、今回俺たち生徒会の仕事を台無しにしてくれた張本人。

「お、お茶を煎れようかと思って、お菓子を持ってきたんだ。あっ!」
「おっと!」

俺に見せようと手に持っていた袋から何か取り出そうとして、手を滑らせて落としそうになったそれをすかさずキャッチする。

「ご、ごめんね、ごめんね綾小路くん!」
「いいよ、先生大丈夫?」

はい、と渡せばまたまた真っ赤になって何度も何度も頭を下げた。
もうお分かりだろうが、この先生、とにかくドジっこなのだ!

期日に仕上げた俺たちの仕事を、張り切って受け取って職員室に帰ったはいいがなんとコーヒーを飲もうとして自分の机の前ですっころび、倒れまいと机を持とうとした手で間違えて机の上をなぎ倒し、それが運悪く生徒会の仕事で、床一面に零したコーヒーの上に書類を全て落としてしまったらしい。

「い、いまお茶煎れてくるねっ!」
「いいですよ、先生。俺が煎れてくるから座っててください」

備え付けのキッチンに向かおうとした先生の肩をつかんでくるりと向きを変え、そのままソファーに座らせる。先生が何か言う前に渡したお菓子をひょいと取り上げ、さっさとキッチンへ向かった。
あの先生に煎れさせて、もし万が一また仕事が台無しになりでもしたらたまったもんじゃない。

「お待たせ」

お皿に盛り付けたお菓子と一緒に紅茶を持って行く。先生の向かいに座って自分の分のコーヒーに口を付けると、先生がマグカップを持ったままじっと俺を見つめていた。

「なんですか?」
「う、ううん。綾小路くん、コーヒー飲むとか大人だなぁって…」
「ああ、先生は飲めないんでしたよね」
「あ、うん。苦いのが苦手で…」

もじもじとうつむくのを見てくすりと笑うと、先生が真っ赤な顔を俺に向けじろりと睨んできた。

「…どうせ、お子ちゃまだとか思ってるんでしょう」
「いや、思ってないですよ。そうじゃなくて、俺の恋人は苦いって言うくせにコーヒーが好きでミルクと砂糖をたっぷり入れるなあって思い出しただけ」
「あ…、そ、そっか。…小暮くん、だっけ。たしか」
「うん」

小暮を思い出して微笑めば、先生も笑みを浮かべながら小暮の名前を出した。
ああ、早く仕事を終わらせて小暮といちゃいちゃまったりしたいなあ。

「…わ、わりと、怖い感じの子だったよね。あんまり社交的でない感じだし、…あ、綾小路くんとは、真逆っていうか」
「ええ、ちょっと恥ずかしがり屋で人見知りなんです。でもすごく優しくて、誰よりも思いやりがある自慢の恋人です」

仕事になってから夜遅く帰るのでほとんど小暮とはゆっくりできない。もう少し早く帰ってもいいけど、そしたら仕事が片付くのが伸びてしまうかもしれない。
小暮と少しでも早く1日いられるようにするため頑張らなきゃな。

カップのコーヒーを飲み干し、立ち上がる俺の背中を先生がじっと見つめていたなんて知らなかった。

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