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8

「知って…たのか」
「うん」
「知ってて、お前は、俺に近づいたのか…。あいつの代わりに罪滅ぼしでもするつもりだったのか!?」
「…罪滅ぼしに、なればいいと思ってたのは事実だよ。だけど、そうじゃない…」

触れた手に力を込めて、天ケ瀬の手を握りしめる。

「好きだったから。天ケ瀬が好きだから、近づいたんだ」

でも、どれだけ好きだと訴えた所で俺がしたことはただの自己満足にしか過ぎないし天ケ瀬にしてみればただの嫌がらせにしか過ぎなかったのかもしれない。自分にトラウマを植え付けた原因の弟が傍にいるなんて苦痛だっただろう。

「ごめんね…。もっと早く、離れればよかった。天ケ瀬を苦しませるために、近づいたわけじゃなかったんだ。傷を開かせるために、近づいたわけじゃなかったんだ…」

最後に天ケ瀬が帰ってこなくなったのは、俺を見ると姉を思いだして辛かったからなんじゃないだろうか。
俺で気を晴らせだなんて、迷惑でしかなかっただろうことに気がついたのがこんなに遅くで申し訳ない。

「天ケ瀬…、今まで、そばにいてごめん。俺の自己満足を押しつけて、ごめん。もう、いいよ。俺を捨てて。だけどお願い」


前みたいに、人を好きになってよ。それで、あの優しい笑顔を見せて。


俺が言えた義理じゃないけれど。あんなに素敵な、人を想う笑顔ができるのにそれがなくなってしまった原因の弟の俺が言うのは間違っているかもしれないけど。

どうか、どうかもう一度、あの時の天ケ瀬の笑顔を見せて。

小さな声で紡いだ願いと同時に、俺は天ケ瀬に抱きしめられていた。


「…ありがとう」
「…っ!なん、で、お前は…っ、なんで、なんで…っ、」
「天ケ瀬が好きだから…最後に、こんな風に抱きしめてもらえて嬉しいから」
「最後なんかじゃねえ!最後になんかしねえ…っ!」

抱きしめてもらえたことにお礼を言うと、天ケ瀬は大きく首を振りながら更に俺を抱きしめた。

「ごめん…、ごめん、ごめんな、優真…!ごめん…!」

初めて呼ばれた名前。ただそれだけで息がとまるほどに喜びが体を駆け巡り、涙が目から溢れ出す。
告白した時から今まで、名前なんて呼ばれたことなかった。いつだって天ケ瀬は、俺の事を『おい』としか言わなくて。それに不満があったわけじゃないけれど、俺の名前を覚えててくれたんだと思うとそれだけで幸せで。

「ひ…っ、う、っ、」
「優真」
「ごめ…、な、泣いたりして、ごめ…っ、…ん…!」

謝罪をしている最中に、温かい何かが口に触れ、それ以降の言葉が全てのみ込まれる。涙にぼやけた目を必死に開けて、自分の口づけたのが天ケ瀬だと知っても理解する事ができなかった。

やがてゆっくりと合わされていた唇が離され、そっと顔が離れると天ケ瀬も俺に負けないくらいに涙を流していた。何が悲しいのかわからなくて、泣いてほしくなくて力の入らない手をゆっくり持ち上げて頬に添えるとそのまま天ケ瀬は俺の手を包み込むように握りしめた。


「優真…好きだよ」

聞き間違いかと思うような一言の後、天ケ瀬はポツリポツリと話しはじめた。

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