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7

天ケ瀬の事は、中学の時から知っていた。とはいっても、俺と天ケ瀬は同じ中学ではない。どうして知っているかといえば…

俺の姉が、天ケ瀬と付き合っていたから。

当時の姉は高校二年生、周りからも評判な美少女でそして…それを武器に、平気で複数の男を手玉に取るような女だった。

我が姉ながら非常に自分勝手で、好きなものは何でも手に入れない時が済まない。
本当に、『悪女』のテンプレみたいな女だった。姉は、ものすごく駆け引きが上手くて、演技が上手くて、どんな男も姉に惹かれ身も心も捧げるようになる。


天ケ瀬も、そんな姉に惹かれた一人だった。


俺はあまりにも平凡な顔立ちで姉に似ても似つかなかったから、とにかく姉は俺の存在を歴代の彼氏に隠していた。彼氏が来るときは決して部屋から出ることを許されず、息をひそめて鍵をかけて、絶対にばれない様にしなければならなかった。だから天ケ瀬は、俺の事なんて覚えてもいないししらないだろう。
俺が天ケ瀬を見たのは、隠れていた自分の部屋から喉が渇いて水を飲みに行こうと姉に内緒で部屋を出た時。

たまたま姉の部屋の扉が少しだけ開いていて、中にいる天ケ瀬が見えたのだ。

天ケ瀬は、とても優しく、とても幸せそうに満面の笑みを浮かべていた。

本当に姉の事が好きだったんだろう。その笑顔がとても幸せそうで、今まで姉の為に絶望した顔をした男たちしか見たことがなかった俺はその笑顔が頭から離れなかった。
そして同時に、そんな天ケ瀬の笑顔が今までの姉の彼氏たちの様に絶望に染まるのを想像してひどく胸が痛んだ。

どうか、姉が天ケ瀬に本気になりますように。天ケ瀬を傷つけたりしませんように。
生まれて初めて、姉に苦言をした。もういい加減ふらふらとするのはやめて、彼氏を大事にしてはどうかと。だけど、それが姉の逆鱗に触れたようで姉は俺へのあてつけの様に浮気を始めてしまった。


そして、結果…


その真っ最中に天ケ瀬が鉢合わせ、修羅場となってしまったのだ。
天ケ瀬は本当に姉が好きだったようで、泣きながら姉に抗議をした。そして、懇願した。だけど、姉はそんな天ケ瀬を鼻で笑い、いとも簡単にゴミのように捨てたのだ。

家を出ていく天ケ瀬を自分の部屋の窓から見下ろして、俺は泣いた。あんなに見たくないと願った絶望した顔をして去っていった天ヶ瀬に、申し訳なくて泣いた。あんな顔をさせてしまったのが自分のせいだという事実に泣いた。臆病で卑怯者な俺は、天ケ瀬の背中に向かって願うことしかできなかった。
どうか、この先天ケ瀬が幸せになりますように。姉の事なんて吹き飛ばしてくれるほど、天ケ瀬を包み込むような優しい人が現れますように。


どれだけ月日がたっても天ケ瀬の事を忘れることはなかった。そして、俺は入学した大学で天ケ瀬を見かけて、息が止まった。一目でわかった。中学の時よりも背が高く、幼い顔は男らしさを加えてさらにイケメンへと成長していた。

だけど、そこには俺が願ったあの笑顔はなかった。

そしてしばらくして、天ケ瀬が寄ってくる女や男と手当たり次第付き合っているという噂を聞いた。幾人かとの別れを繰り返したのちに流れてきた付き合っているときの天ケ瀬という人間はという話で、俺は天ケ瀬が姉のせいで人を愛することができなくなってしまったことを知った。


そして俺は、天ケ瀬に告白をした。


天ケ瀬はすぐに俺が自分を手ひどく裏切った女の弟だと気付いたようだった。自分の名前を告げて、告白の際に関係ないけれどわざと自分がどのあたりから通っているかを教えたから、それだけで俺と姉が繋がったのだろう。俺を見るその目が、今までに見たことがないほど憎悪に満ちていたから。

それでもよかった。俺を手ひどく扱うことで天ケ瀬の気が晴れるなら、それでよかった。それで天ケ瀬が自分の中の姉への憎悪を消化できるならそれでよかった。そして気が晴れたなら、俺を捨ててくれればいい。一切の負の感情を俺へ吐き出して、気持ちが晴れてくれるなら。それで天ケ瀬が昔の様に戻れるなら。


だって、気付いたんだ。


あの笑顔を見た瞬間から、俺は天ケ瀬に恋をしていたんだって―――――。

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