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10

月明かりの差しこむベッドの上でお互い抱きしめあいながら口づけを繰り返す。触れ合うだけのそれは愛おしいと己の中にある愛情を確かめるためのもので、ふとした瞬間に離れ目が合うとロルフは幸せそうに微笑んだ。

「…体は、大丈夫か」
「うん…」

ロルフの言葉にほっとしたようにため息をつくとリュディガーはそっとロルフを胸の中に閉じ込めた。

「…どうして、わかったんだ」
「あの時…ブルーノさんが、あなたに魔力を向けられた時に」


本当に自分のしていることが正しいと思う者は、あんな風に笑ったりはしない。ブルーノがあの一瞬に見せた笑みは、間違いなく安堵だった。

「きっとブルーノさんは、はじめからあなたの手で消されることだけを望んでいたんです。それだけ、あなたを愛していたんだと思います」
「…そうか」

ロルフをそっと抱きしめ、うなじに一つキスを落とすとリュディガーはそっとロルフの腹を撫でた。

「…お前に、一つ謝らねばならんことがある」
「え?」
「…赤子の事だ。お前は、まだ私の子を宿していない」

どういうことだろうか。確かにあの時、幾度も体の中に子種を注がれたというのに、それが息づいていないとは。

「お、俺の体が、いけない…?」
「ちがう!そうじゃない…。…私はあの時、生殖機能のある子種をお前の中には出さなかったのだ」

驚いて振り向くと、リュディガーはひどくばつの悪そうな顔をしていた。

「…お前を、それで縛り付けるのは簡単だ。だが、私は…お前との子は、そんな怒りに任せての行為などではなく、お互いに想い合っての行為で授かりたかったのだ」

リュディガーにキスをされ、ロルフの頬が朱に染まる。己の腕をリュディガーの背に回し、ぎゅうと抱きつくとそのたくましい胸に頬を摺り寄せた。

「…あの時は、ごめんなさい。あなたに何も言わずに、逃げようとして。でも…」
「よい。お前の事だ…。我が子を守ろうとしたのだろう?そして、私の事も」


ブルーノが、我が子を奪おうとしていることに気が付いたロルフは、一時城から出てイアンと弟のレオンの所へ行くつもりだった。そこでイアンに、リュディガーへの言伝を頼もうと思っていたのだ。

ブルーノの事をリュディガーに言おうとは思わなかった。二人を見て、リュディガーがブルーノの事を心から信頼していることが分かったから。人を信じるということを学んだリュディガーがもしブルーノの事をロルフから聞けば、どれだけ傷つくだろうか。そう考えると、ロルフはどうしてもブルーノの事を言えなかったのだ。

結局、バラ園でブルーノに見つかって、リュディガーにもそれがばれてあんなに悲しい顔をさせてしまうことになったのだけれど。

一歩間違えれば、ここにいる全ての者がその心に大きな決して癒えることの無い傷を負うことになっていたであろう。その前に、気付けてよかった。ブルーノの真実を見極めることができてよかったとロルフは心から思った。

人の人生を左右するほどに、吸血鬼の王族の力というものはすごいのだと改めて思う。だからこそ、ブルーノに誓った。ヴァンディミオン家に恥じない妻になろう。誰にも文句を言わせないほどの妃になろう。そして、もう誰も、二度と同じ思いをして傷つくことがないようにこの一族を変えていきたい。

モンスターと言えども、自分たちやリュディガーの弟であるイアンのように元々『愛』という感情を持つものは多いはず。モンスターであるからと言って愛を持つことが許されないだなんてそんな悲しい思いをするものがもう現れない様に。



月を見上げるロルフの白い喉を、そっとリュディガーが撫でる。その指の動きにびくりと反応するロルフを見てリュディガーは楽しげに眼を細めた。

「…ロルフ。互いの誤解が解けた今なら…子を生す行為は間違いではないな…?」
「…あ、」
「愛している…わが愛を受け入れろ」

ロルフの顎を掴み、己の方へとその顔を向けさせるとゆっくりと顔を近づけ、その赤い唇を塞ごうとしたその瞬間である。

「はい、そこまでですよー!」

ばん!と寝室の扉が開け放たれ、ずかずかと二人の元にブルーノがやってきた。

「な、なにをする!」
「それはこちらのセリフです。いいですかリュディガー様、いくら式を間近に控えているとはいえ、ただの婚前交渉ならいざ知らず、子を生そうとは何事ですか!」
「よ、よいではないか!貴様こそ何事だ!主人の閨に押し入るなどと「いいですかリュディガー様!」

動揺しつつもブルーノを咎めようとするリュディガーの言葉を遮り、フン、と鼻息荒く腰に手をやり、目を丸くするリュディガーに向かってびしりと指を突き付けてブルーノがリュディガーに一喝する。

「ヴァンディミオン家の君主たるものが、婚前に子を生すなど言語道断です!よって今から式が終わるまでロルフ様に夜の営みをなされることを禁止致します!」
「な、なんだと!貴様…」
「ということで、ロルフ様は今日からあちらの客室でお休みくださいませ。ご案内いたします」
「待て、ブルーノ!」
「待ちません」

ぎゃいぎゃいとやかましいリュディガーを無視して、シーツにくるまったロルフをひょいと抱き上げスタスタと歩き出す。

「待って、ブルーノさん」

なされるがままだったロルフはようやく事の次第を消化して、くすくすと笑い始めてブルーノの歩みを止めてもらった。

「リュディガー、式まであと少しじゃないか。たった二週間…我慢できるよね?」
「…!お、おまえまで…」
「リュディガー」

信じられない、とあからさまにショックを受けたリュディガーに対し、ロルフは幼子に言いきかせるよにその名を呼び優しく額にキスをした。

「そのかわり…、し、新婚初夜、楽しみにしてるから」
「…!ああ、ま、まかせろ」

にこりと笑みを向けられ、『新婚初夜』との言葉に単純に騙されリュディガーはブルーノとロルフを隣の客室まで見送った。


「…ありがとう、ブルーノさん」
「なんのことですか?」

客室につき、そっとベッドに降ろされ差し出された温かいミルクを受け取ったロルフは柔らかい笑みを向けながらブルーノに礼をいう。
無表情に返すその横顔に何も言わず、ロルフは受け取ったミルクに口をつけた。

今子種を受け入れれば、今度こそ間違いなくロルフは子を宿すだろう。そうすれば、リュディガーとの式の時にどれほど体に負担がかかるかわからない。それを心配して、きっとブルーノはあんな風にリュディガーに約束をさせたのだろう。

理由を言えば、リュディガーは妻の体の事も考えることができなかったと落ち込むかもしれないから。

「…あなた様には、元気なお世継ぎを生んで頂かなければなりませんから」
「うん。リュディガーに似た子が生まれるといいな」
「…あなたに似た方がいいかと思いますよ。それでは、失礼いたします」

目もあわさずに頭を下げ、扉を出ていくブルーノを唖然として見送る。最後に呟かれた言葉を噛みしめ、じわりと胸が熱くなってその目に薄く水の膜が張った。


愛する人が傍にいないこの夜を、寂しいとはもう思わない。傍にはいなくても、自分を愛して大事に思ってくれる人で守られたこの城にいる限り、自分は愛に包まれているのだから。

それはこれからも増えていくのだろう。


この先城に溢れるであろうたくさんの愛を思い、ロルフは隣で同じくリュディガーも見ているであろう月を見上げた。




end

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