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9

「…顔を上げてください」

項垂れるブルーノの手を取り、ロルフがそっとその手を取り握りしめる。

「あなたは…、リュディガーの手で自分の命を消されるならばと思っていたんでしょう…?」
「…」

自分を悲しげに見つめるロルフを見ていられなくて、ブルーノが視線をそらす。
…ロルフの言うとおりだった。日に日に、ロルフのせいでおよそ吸血鬼らしからぬ感情を抱いていく自分を止めなければという想いと、そうでなくこのままいたいという想い。

二つの心に押しつぶされる前に、ブルーノは一つの賭けに出た。

ロルフから生まれる子を、昔のリュディガー様と同じくお育てしよう。冷酷で、残忍で、何者よりも強い王としてお育てしよう。その為に、ロルフをここより排除してしまおう。それが、ヴァンディミオン家にとっての正解。

でも、きっとそれは今のリュディガーにとっての正解ではない。


もし万が一、自分のしていることがリュディガーに気付かれずにいたならば。それが正解だったのだと信じて、自分のしたことはあの世までも持って行く。だけど、もしリュディガーに気付かれてしまったのならば。

あの方ならば、正しい方を選ぶだろう。それはおそらく、自分の命を奪われることになるだろう。この苦しみから解き放ってくれることを願って、喜んでこの命を差し出そう。


「…ブルーノ」

黙ってブルーノの告白を聞いていたリュディガーが、そっと近づきその身をかがめブルーノの前にしゃがみ込む。主の行動に驚き、膝をつかせるなどとと慌てたブルーノが立ち上がろうとするのをそっと肩を押して首を振った。

「私は、ロルフにたくさんの事を教わった。それは今までヴァンディミオン家ではありえないことばかりで正直初めは戸惑った。その為に、ロルフには随分ひどい事をしたものだ」

ふ、と笑みを浮かべるリュディガーの顔は、苦笑いというにふさわしく己の行動を悔いているものなのであろう。見たことの無いその笑みにブルーノは何と答えていいのかわからずに主の言葉を待つ。

「だが…、私は今の私が間違いとは思わない。ヴァンディミオン家のもの…いや、吸血鬼の一族のものならば今の私を堕落した、下世話な生き物に成り下がったと笑うだろう。だが、違うのだ。一人、己の身を信じている者よりも、誰かを想い、守るもの、愛する者…他を思う気持ちがある者が何よりも強いのだ。それこそ、王のあるべき姿なのだ」
「…」
「ブルーノさん。あなたは、先ほどリュディガーに言葉をかけてもらうと嬉しいと、もっとその言葉をかけて欲しくなると言いましたよね。それを間違いだと恐れていましたが、どうですか?リュディガーにそう思われることで、もっとリュディガーの力になろうとは思いませんでしたか?」

この城に連れてこられてから、ロルフへの教育やリュディガーの仕事の手伝いをしているとき。リュディガーから述べられる感謝の言葉に、いけないことだと思いながら今まで感じたことがないほど喜び満たされた。
その言葉をかけてもらうたびに…、この人のためにもっと役に立とうと…この人に喜んでもらおうと思ったのは事実だった。

「相手を、思い思いやることで、生きとし生けるものは全て支え合ってより強くなろうとします。お互いに相手を思うことで、何倍もの力を生むんです。それが…愛、です」
「愛…」
「形は違えど、あなたに対しての愛がリュディガーにあった。リュディガーに対しての愛があなたにあった。だからこそ、あなたはリュディガーにその命を取られるのならばそれでもかまわないと思ったんじゃないのですか?」

ロルフの言うとおりだ。他の誰でもない、リュディガーの手で己を止めて欲しかった。間違いを正すこともできず、己の変化を受け入れることもできず。永劫苦しみ続けるのならば、いっそのこと愛するリュディガーの手で止めて欲しかったのだ。

「…う…」
「ブルーノ。私が、自分の事だけに専念できたのは、他でもない。お前にならば、ロルフを任せても大丈夫だと確信していたからだ。今回の事は、裏切られたとは思わない。ロルフの言うように…お前は私に助けを求めていたのだろう」

リュディガーが、強く握りしめられているブルーノの手を取る。初めて主から手を取られ、ブルーノが薄い膜のはった目を大きく見開いた。

「気付いてやれなくて、すまなかった。お前の真実も見抜けず、目に見えるものだけでお前の命を取ろうとした愚かな私だが…まだお前の主人である資格はあるのだろうか?もし許されるのならば…お前がそれでもいいと言ってくれるのならば、このまま私の城で今まで通り傍にいてくれないか」
「で、ですが…、私は、ロルフ様を…」
「不問に伏す。お前に初めにきちんと説明をしなかった私の失態だ。頼まれてはくれぬか。やはり私の右腕となり、大事なロルフを任せられるのはお前しかおらぬ。私と同じく、ロルフに愛というものを教えてもらったお前ならば、もう二度と間違いは犯すまい」
「リュディガー、さま…っ、わたし、わたしは…っ」
「俺も…ごめんなさい。きちんと、あなたの真実を見抜くことができなくて。こんなに追い詰められるまで、気付かなくてごめんなさい」
「う、ああ…!うあああ…!」

自分の手を握りしめ抱きしめてくれる愛しき主人たちの胸に縋り、生まれて初めて、ブルーノは涙を流した。

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