×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -




8

ブルーノはロルフの言葉にあれほど見せていた狂気の色を消し、項垂れてぼつりと語りだした。

幼い頃から、ずっと見てきたわが君。一族の中でも群を抜くその潜在能力の高さにこの人が自分の生涯の主であることにブルーノは心からの喜びを感じた。吸血鬼一族はもともと情のある一族ではない。冷酷で、残忍で、何者をもその己の力一つの身でひれ伏させる。成長していくにつれ、正に支配者という名にふさわしい姿に成長していくリュディガーに歓喜した。どれだけ冷たい言葉を投げつけられても、見下して扱われ労いの言葉などなくともそれは王としての威厳の現れと信じて疑わず、それどころかより一層冷酷になっていく主に陶酔した。

王位を継承するよりも先に、リュディガーは実家の城を出て自分の城を打ち建てた。ブルーノは優秀な執事であるがゆえに、正式にリュディガーが王となるその日までに王の右腕となるべくリュディガーの実家の方で公務の勉強をしていた。

いまかいまかと待ちわび、リュディガーの元で働くことを夢見て過ごすブルーノは、ある日実家の城に久しぶりに顔を出したリュディガーに恭しく礼をした。共に暮らしていた頃よりもはるかに美しく、強くなった主人に歓喜で体中の血がざわめく。だが、己の名を呼び城に来た用件を話しだしたリュディガーを見てブルーノは開いた口がふさがらなかった。

『すまぬが、我が城に来て我が花嫁を教育してほしい』

妃の教育は、確かに右腕である自分の仕事の一つ。いつか来る主人に似合いの吸血鬼のお世話をするものだと信じていた。だが、迎えに来た主の口から想像を絶するほど驚愕する言葉だった。

『我が伴侶の、ワーウルフにお前の持つ知識を分けてやってはくれないか』

耳を疑った。あの、絶対的君主であるリュディガーが、下のものである自分に頭を下げたのだ。
今までのリュディガーからは想像もできない。
それ変化が誰からのものであるかを知ってまた驚愕した。


城に行って目にするリュディガーはおよそ自分の知るリュディガーではなかった。伴侶であるワーウルフの傍に寄り添い、優しく笑みを向けるそれは自分の知る君主ではなかった。
ワーウルフにだけではない。城にいる使用人にさえ笑みを向け、労いの言葉やいたわりの言葉をかける。

そしてそれは自分にも与えられた。

「あり得なかった…。あの、残忍で冷酷なリュディガー様はどこにもいなかった。そこにいた主人は私が見てきた主人とは真逆の存在で、私は戸惑った。今まで私はリュディガー様の右腕となるべく教育されてきた。むろんそれは己の意志でありリュディガー様に仕える事が喜びだった。見返りなど求めぬ。リュディガー様のコマでよかったのだ」

だけど、この城にいてリュディガー様に労いのお言葉を頂くたびに、私は欲が出てしまった。もっと、リュディガー様に褒めていただきたい。大事にされたいと願うようになってしまった。

それは、ブルーノにとって恐怖でしかなかった。今まで培ってきた忠誠と盲信が、崩れ去ってしまう。ただこの方に尽くすことが生きがいだったのに、見返りを求めたくなってしまった。

王に、そのような感情を持つことが許されるはずもない。使い捨てのただの手駒が、愚かにも主人からの感謝の言葉が欲しいなどと。

ヴァンディミオン家に仕える身である自分が、そのようなおこがましい事を望むようになるだなどと許せなかった。

冷たく、残忍な者こそが王であるのだ。その王にただ一心に尽くすのみが我が一族の誇り。

なのに、ロルフの存在は己が教えられてきたものとは全く違った。
心の中でバカにしていた。ただの犬風情が、我が一族にふさわしくなぞあるまいと。
所が、日々ロルフと接するたびに自分にもまた変化が訪れた。

ありがとう、ごめんなさい。

一族間で、そのような言葉を聞いたことがない。むしろ口にすることなどない言葉をロルフはごく当たり前の事のように口にする。それを心地よいとすら感じるようになった自分に恐怖した。同じように、自分も他人に対して抱いたことの無い感情を口にしようとしてしまうのだ。

「ヴァンディミオン家のコマである私めが…!リュディガー様の事だけを考えて動くべき私が、他人のためなどと考えてはいけないのだ…!」


どれだけ感情を殺そうとしても、ロルフの言葉は毒のように自分を犯す。それは自分だけではない。リュディガーも、その一人なのだ。

信じられるのは己の力のみ。

その身一つでモンスターの頂点に君臨してきたヴァンディミオン家が、たった一人のワーウルフによってその長い歴史を変えようとしている。それは、破滅への道に違いない。

他人に情などもつな。孤高であれ。主のために全てを捧げよ。見返りなど求めるな。

それが、ヴァンディミオン家に仕える自分が教えられてきた全て。

「そうなる前に…これ以上、自分が自分で無くなる前に、その原因を排除すべきだと…そう思ったんです」









[ 105/215 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



top